日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

米中が矢継ぎ早で報復関税の撃ち合い:トランプ氏の意図と、日米貿易協議

米中が矢継ぎ早の関税合戦。来年が大統領選で景気後退の懸念もある中、トランプ氏が何を考えて徹底抗戦しているのか、意図を想像してみます。そのうえで、日米貿易協議の今後につき、日本が取るべき方針を考えます。

習近平の新たな報復関税に、即日で大規模報復を決定したトランプ

昨日から今朝にかけて、米中で関税引き上げ合戦がありました。

まず、中国が、既に決定済のアメリカの関税第4弾への報復として、750億ドル分の関税引き上げを発表しました。

www.nikkei.com

これに対して、トランプ大統領はまずツイッターで素早く反応しました。

トランプ氏は、アメリカが中国のせいで、長年にわたって、損をし続けており、知的財産も奪われてきたとしたうえで、

「我々は中国を必要としない、はっきり言って、中国なしの方がはるかに良くなる」

「わが偉大なアメリカ企業に対し、自社を母国に戻して自社製品をアメリカで製造することを含め、中国以外の選択肢を探すことをここに命ずる」

「今日の午後、中国への対抗策を講じる」

とツイートしました。

中国の新たな報復関税に加えて、このツイートがダウを700ドル超下げました。FRB議長がジャクソンホールで利下げを示唆する発言をしたのに、完全に吹き飛んだと日経は書いています。

www.nikkei.com

 ポリティコによると、トランプ氏は先のツイッター発信後、ナヴァロ補佐官、ライトハイザー通商代表、クドローNEC委員長、ムニューシン財務長官を集めて会議をしたそうです。ホワイトハウス高官らによると、トランプ氏は米中対立の先行きには楽観的で、譲歩は全く考えていない、ということです。

www.politico.com

と書いている途中で、日経が、「発動済み対中関税、10月に30%に引き上げ トランプ氏表明」と報じました。ツイートで書いたことをもう実現しました。

約2500億ドル(約26兆円)分の中国製品に課している制裁関税を10月1日に現在の25%から30%に引き上げると発表した。さらにほぼすべての中国製品に制裁関税を広げる「第4弾」については9月1日に15%を課すと表明した。従来は10%の予定だった。

www.nikkei.com

なぜ、トランプ氏は強気で関税を引き上げるのか

驚くべきは、トランプ氏の対抗措置発表の速さです。

このところ、米中貿易戦争でアメリカの景気が悪くなるという報道が相次いでいました。トランプ氏はクリスマス商戦を心配して、一部商品の関税引き上げを延期せざるを得ず、あとはパウエルFRB議長に利下げを必死で催促するばかりで、打つ手がないように見えました。中国はそのタイミングを見計らって、おそらくジャクソンホールでのFRB議長の利下げ発言を狙って、それを打ち消す意図で、新たな報復関税を発表したのでしょう。

ところが、アメリカは直ちに、更に大規模な報復関税を発表しました。恐らく、中国にも予想外だったことでしょう。

ポリティコが言うようなトランプ氏の楽観主義にも根拠はあります。以前から言われている通り、米中貿易での輸入総額はアメリカの方が中国よりはるかに多いのですから、関税引き上げの余地はアメリカの方が大きく、関税合戦でのダメージは中国の方が大きいからです。日経の機能の記事に出ている図に見る通り、アメリカの対中輸入額5500億ドルに対し、中国の対米輸入額は1500億ドルしかなく、今回の新・報復関税はそのうち750億ドルですから、アメリカによる第4弾関税3000億ドル分への報復としては、金額ではかなわないことになります。

ただ、アメリカは来年大統領選を控える民主主義国家、中国は終身主席の独裁国家。関税合戦が両国のリーダー個人に与えるダメージで言えば、トランプ氏の方がはるかに大きいように見えます。だから中国は、アメリカ世論を揺さぶるのに効果的なタイミングを狙った報復関税発表を行ったのでしょう。以前から、トランプ支持層が多い州を狙い撃ちしてきましたが、今回も農産物関税を引き上げています。

トランプ氏も、こうした中国の意図は分かった上で、逆に直ちに反撃に出て中国を驚かせ、関税での戦いは無駄だと思わせようとしているのでしょう。ポリティコの先の記事によると、トランプ氏はホワイトハウスでの会議中に繰り返し、「自分が望んでいるのはフェア・ディールだけだ」と言っているとのことです。とにかく中国を屈服させて、産業補助金や強制的技術移転中止等の成果を出すことに、本気でこだわり続けていることがうかがえます。

また、選挙対策としても、メディアの見出しが「中国が報復関税!」となるのを直ちに打ち消して、「アメリカが報復関税!」という見出しで上書きしてしまい、優位に立って攻撃しているのはアメリカだ、とアメリカ国民に見せる効果もあります。

相手国の関税引き上げから自国の関税引き上げにかかったレスポンスタイムで見ると、7月末の上海での貿易協議の直後にアメリカが第4弾関税引き上げ。中国はすぐ抗議して報復すると言ったものの、実際発表したのは昨日8月23日。3~4週間かかっています。それに対し、アメリカは翌日に追加報復を発表。中国はアメリカ世論に効果的なダメージを与えるタイミングを見たのだろうと思いますが、決定の速さから見て、トランプ政権は関税合戦を全然恐れておらず、やはりもともと関税引き上げ余地が大きいことが利いている形です。

問題はもちろん、アメリカ経済への現実の影響で、これで更に景気は悪くなるはずです。が、そこは最近ずっとやっている通り、FRBに責任を押し付けるつもりでしょう。たとえ利下げをしたところで、まだ足りない、利下げ以外もやれと言い続ければ、責任逃れができます。更に言えば、たとえ経済指標の数字が悪くても「フェイクニュースだ!」あるいは××のせいだ!で押し切って、それを信じてしまうような層が支持してくれれば、それで十分選挙にも勝てる、と計算しているのだろうと思います。

大統領がアメリカ企業に、中国から出ていくように「命ずる」?

トランプ氏のツイートで最も驚くべきは、アメリカ企業に、中国から出てアメリカでモノを作るように「命ずる」と書いていたことです。ポリティコは先の記事で、具体的に何を言っているのか分からないと書き、ザ・ヒルは、大統領にそんな権限はない、このツイートで株が下がっただけだ、と叩いています。

thehill.com

アメリカ企業に中国からの撤退を「命じる」手段なんかないのはその通りなのでしょう。ツイートでわざわざ、hereby orderなんて仰々しい表現をとっているのは、具体的に強制する手段がないから、日本流に言えば「行政指導」でやるしかないので、重々しい言い方をしているように見えます。おそらく、なんとなくメジャー感、フォーマル感を出して、大統領が言ってるんだぞ、言うこと聞かないとトランプ・ファンのアメリカの愛国者様が怒るぞ!とプレッシャーをかけているのでしょう。こういう、有権者の非合理的な感情に訴える煽りは、私は大嫌いですが。

ただ、何かアメとしてインセンティブを与えることは出来るはずです。法人税引き下げ等を使って、repatriationとかいうのでしょうか、米企業が米国内に再び投資するのを促すような政策が取られるのかもしれません。

日米貿易協議はどうなる?どうすべき?

 私は、先に見たような米中貿易合戦でトランプ氏が一歩も引かずに中国に譲歩を迫っているのは、正しいと考えています。確かにアメリカだけでなく世界的な景気後退の引き金にはなるでしょうが、中国の利己的な政策である輸出補助金や技術強制移転等を許すべきではありませんし、中長期的に見て、中国が内外で進める共産党一党独裁の強化を挫き、将来的な中国の民主化も含めて、21世紀の世界がより自由で民主的で経済・文化が繁栄することにつながると考えるからです。

では、日本は、こうした米中貿易戦争の中で、日米貿易協議はどのように進めるべきでしょうか。既に本ブログでは何度も書いていますが、農業分野でTPP以上の市場開放を行うべきです。

日本が日米欧のリーダーになる大チャンス!日米・米欧の貿易摩擦回避のため、日本は率先して農業市場の開放を! - 日本の改革

自動車の高関税も数量規制も回避し、日本国民も米政権も満足する方法:TPP以上の農産物市場の開放。維新は外交でこれを言ったら? - 日本の改革

日本国内の農業団体等を保護するために日本の消費者・納税者を犠牲にすることは許されませんし、短期的には痛みが大きくても中長期的には大きな利益が見込める米中貿易戦争でアメリカに協力すべきだからです。日本は、アメリカに対し、牛肉・豚肉・乳製品等の関税をTPP水準より大きく引き下げ、TPP11諸国にも、同じ水準の自由化を保障する形で、TPPも書き換えるべきです。

現状では、どうも農産品の関税引き下げはTPP水準止まりと見られています。日経から引用すると、

茂木氏は「日本の立場、農業をしっかり守り交渉できた」と語った。これまでの協議の結果、日本が輸入する農産品の関税に関しては「TPP水準」にとどめつつ、米国が工業品の市場開放を一定程度、容認したもよう。

www.nikkei.com

ということなのですが、まだ甘く見ない方がいいでしょう。相手はトランプ氏です。大臣レベルの折衝結果は簡単にひっくり返される恐れはあります。米中貿易戦争でも、上に見る通り、徹底的に結果にこだわっています。国内での景気後退は恐れておらず、メディアに踊る分かりやすい大見出しの成果を求めています。TPPに反対して大統領になり、就任後にただちにTPPから脱退した大統領が、「トランプがアベと農産品関税で妥協 TPP水準で」などという見出しに我慢するとは思えません(すいません、英訳は思いつきません<(_ _)>)。何より、日本はTPP諸国の中で農産品関税を一番高いままにしており、日本国民にとっては、農産品に関する限り、TPPは不完全で修正すべきものです。

日本政府が全農との参院選前の約束通りに農産品で「TPP水準死守」で動いてしまっているのは残念ながら止められません。本件で安倍政権を止められるのはトランプ氏だけです。トランプ氏が現状の交渉の下案をひっくり返しにきたら、日本政府はいい加減であきらめて、農業団体には「相手はトランプだからすいません」と説明して我慢させるべきです。