日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

韓国の軍事協定破棄:どんなに呆れても腹が立っても、韓国を中国・北朝鮮に走らせてはならない。

 韓国のGSOMIA破棄。韓国の判断を非合理的だと批判・嘲笑するのは簡単ですが、外交安保では、非合理的な判断があり得ることは前提とすべきです。協定破棄は韓国はもちろん、日本にもアメリカにも損失です。これ以上、韓国の政権を追いつめて、中国・北朝鮮の側につかせてはいけません。韓国の政治家が「親日」と呼ばれるのを恐れ、日本の政治家が「反日」と呼ばれるのを恐れる日韓関係を変えるべきです。

キューバ危機に見る国際政治の非合理性

アメリカのマクナマラ元国防長官が、日本への無差別爆撃からヴェトナム戦争まで、自分のキャリアをインタビュー形式で語る映画「フォッグ・オブ・ウォー」。その中に、キューバ危機に関するエピソードが出てきます。

マクナマラキューバ危機からだいぶ経ってから、キューバカストロ議長に会って、当時何を考えていたかについて聞いたそうです。すると、カストロは、一時はミサイルを本気でアメリカに撃つつもりだった、と答えたと。マクナマラは仰天して、そんなことをしたらキューバアメリカの反撃で消滅するはずなのに本当にそう思ったのか、と聞いたら、そうだ、と答えたそうです。

マクナマラは、ケネディフルシチョフカストロも、全員が合理的な人間だったのに、あの時は本当に核戦争の瀬戸際まで行った、親指と人差し指を近づけて、「so close」と言っています。

 韓国による日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄につき、色々な人が、韓国には呆れた、困るのは韓国だ、等々、韓国を批判しています。要するに韓国の決定は非合理的だ、と言っています。しかし、キューバ危機のような、全国民の命がかかるような重大な安全保障上の問題についてさえ、その時代の世界のトップレベルの政治家たちでさえ、非合理的な判断をする可能性はあります。

国内の政治もそうですが、外交や安全保障の分野でも、どこかの国が非合理的な判断を下すことは珍しくありません。アメリカとイランとの戦争も、合理的に考えたら避けた方がいいに決まっていますが、目先の軍事作戦ばかり重視するイラン革命防衛隊が、国益について計算違いをしたら、実際に起こる可能性はあります。マクナマラが挙げた例で分かるように、戦争を防ぐには、そうした非合理的な行動の可能性も視野に入れて、細心の注意を払う必要があります。

まして対日・対北政策で世論の割れている韓国で、しかも来年が選挙というタイミングです。日本政府は、韓国が協定を本当に破棄する可能性も予測をしておくべきでした。日本政府高官がみな仰天していて、官邸関係者まで「もう頭がついていけない」とまで言っているというニュースに接して、何とも言えない気持ちになります。

www.news24.jp

私は、徴用工判決から始まる今回の日韓対立について、日本は耐えがたきを耐えて出来る限り譲って、韓国大統領を追い詰めすぎないようにすべきだったと思います。言うべきことは毅然と言う、しかし相手にもどこかに逃げ道・助け船は残しておくべきでした。日本の安全保障にとっての最大の脅威は何と言っても中国と北朝鮮なのであり、この二国に備えるためなら、韓国との対立など、はっきり言って小さな問題だからです。

GSOMIA破棄は、日本にもアメリカにも損失

GSOMIAが、韓国にしか利益はない、日本はほとんど困らない、だから問題ない、という声もあります。私は、本当はかなり影響があるけれど、「日本が困らない、だから協定破棄に至っても日本政府は悪くない」と言いたいメディアが、それをごまかしていると思います。

たとえば、中谷元防衛大臣のコメントが、産経と毎日で全く違っていたので紹介します。

産経はこんな風に書いています。

自民党中谷元・元防衛相は22日夜「北朝鮮を利するだけで、常軌を逸した判断だ」と批判した。GSOMIAは安全保障に関する情報共有を密にするための取り決めで、北のミサイルに関する電波情報や情報収集衛星の画像もやりとりする。北朝鮮がミサイルを相次ぎ発射する中で、今回の決定は韓国の安全保障にも影響を与えかねない。
 GSOMIAは互いの機密情報を提供し合う枠組みだが、北朝鮮関連の情報では日本より韓国側がより多くの情報を握っている。

 ただ、自民党幹部は「米国との情報ラインがしっかりしていれば大きな実害は出ない。日本側が譲歩する必要はない」と強調する。日本が哨戒機や情報収集衛星で集めた情報が韓国にとって役立つことも多く、決定は韓国が自らの首を絞めることにもつながる。

www.sankei.com

これを読むと、「自民党幹部」氏の「大きな実害はない」というコメントが主で、中谷氏もそれには別に反対していないように見えます。

同じく、中谷氏のコメントを紹介している毎日はこうです。

日本政府内には「日米がしっかり情報交換すれば影響がない。困るのは韓国だ」(政府高官)と強気な分析もある。だが、この見方について、自民党中谷元・元防衛相は「ミサイルが飛んだ場合、日米韓の各部門が発射状況や予測落下点の情報を合わせて判断し、迎撃態勢をとる。システムが機能しなくなる」と否定する。別の防衛相経験者も「米国を介した情報交換になると、迅速性が失われる」と指摘する。

mainichi.jp

同じ中谷氏から、どちらの新聞も、自分達が聞きたい・書きたいことを引き出そうとしているのでしょうが、毎日が捏造でもしていない限り、韓国にGSOMIAを破棄されたら「システムが機能しなくなる」と、中谷氏は言っています。

そういう目で産経の記事をあらためて見ると、「韓国の安全保障にも影響を与えかねない」という言い方は、日本への影響も排除していませんし、「北朝鮮関連の情報では日本より韓国側がより多くの情報を握っている」、だから、日本も韓国の情報から得るものは大きい、ということは読み取れます。産経は、「韓国政府の決定は韓国が損をするだけで日本に悪影響はない、日本政府に問題はない」と言いたいあまり、表現をぼかしているように見えます。

政府は一貫して、この協定が「地域の平和と安定に寄与」すると言っているのだから、当然、この地域にいる日本も協定から利益を得ているという認識のはずです。岩谷大臣は「双方にとって有益だ」と明言しています。

www.jiji.com

協定破棄が発表された後の河野大臣コメントでも、もちろん「地域の平和と安定に寄与しているとの認識」を示しています。

www.sankei.com

 当然、アメリカも困ります。国防総省は、日韓が「違いを解消して協調する」ことを要求、スポークスマンのイーストバーン氏は、「情報協定は我々の共通の防衛政策・戦略を発展させるうえでカギとなる」と発言しています。
スターズ・アンド・ストライプ紙によると、ペンタゴンOBでジョンズ・ホプキンス大学のマラ・カーリン氏は、今回の協定破棄が、北朝鮮のような深刻な脅威に対して、日米間の協力を困難にすると主張しています。

同紙によると、専門家の間でコンセンサスがあるのは、韓国は北朝鮮のヒューマン・インテリジェンスに強く、日本は衛星情報やハイテクシステムに強みがある、ということです。

そして、こうした情報のやり取りが全てアメリカを「翻訳者」として行われることになり、「翻訳」の際には常に何かが失われる、と、韓国軍OBのIn-bum Chun氏が同紙で言っています。

www.stripes.com

実際、協定署名後、北朝鮮が2017年9月に行った核実験につき、協定による情報交換が円滑にできたと日経は報じています。また、日経は「最近、北朝鮮が繰り返す短距離弾道ミサイルの分析も日韓で得られる情報は異なるとされ、正確な分析につながっているとの指摘がある」としています。一方で、協定がなくなった場合でも、「日本は協定の締結前から米国と情報共有の体制を組んできたため、重要な情報が入らなくなるなど実務的な影響は軽微との見方」や、「日本はそんなに影響はない。日米でしっかりやっている」、また、「ミサイルについては米国からの情報もある」との意見も紹介しています。

とは言え、協定には情報収集といった実務協力に加え、「北朝鮮問題に日米韓が結束して向き合う姿勢を示すという象徴的な意味合いがある」として、「安全保障上の日米韓3カ国の連携に亀裂が入り、協力体制が取りにくくなるのを危惧する声」を最後に紹介。

要は、日経は両論併記で色々言いながら、「たとえ実務的に影響が小さくても、象徴的な意味がある」、そして信頼関係に亀裂が入るおそれがある、と言っています。

日韓対立、安保に波及 対北朝鮮連携に不安 :日本経済新聞

以上、とりあえず各紙の報道から見ただけですが、協定は韓国が最大の受益者だが、日本もアメリカも受益者であることが見てとれます。

今回、韓国が、安全保障よりも国内での人気を気にして、非合理的で愚かな決定をしました。それは当然、厳しく批判するべきです。同時に、韓国と徴用工判決以来のやり取りをする過程で、日本政府も協定破棄に寄与してしまい、国益を損ねていなかったかも、厳しく検証すべきです。

問題の根本にある日韓請求権協定と歴史認識の見直しに、正面から向き合うべき

この視点から、日本政府に厳しい見方をしているのが、日経のコメンテーターの秋田浩之氏です。

秋田氏は、そもそも、 韓国への輸出管理を厳しくした日本政府の方が実は追い込まれていた立場で、「本来、避けたかった「劇薬」を使わざるを得なくなったというのが、実態に近い」としています。

いわゆる徴用工判決につき、日本は再三、協議を求めたものの、韓国に無視されてしまったということです。日本政府関係者らによると、それでも首相官邸は当初、オリンピックやその前に消費税増税を控え、報復とみられる強硬措置は避けたいのが本音だったようです。が、韓国で日本企業の資産が売却されかねないということで、報復措置に踏み切った、と秋田氏は書いています。

政府が今更どう言いつくろおうと、世耕大臣自身が言っている通り、あれはやっぱり報復措置でした。

そのうえで秋田氏は、日本が徴用工問題で韓国に無視された理由は、韓国からみた日本の価値が下がったからだ、としています。

理由として秋田氏が挙げるのは、中国の台頭と北朝鮮政策でのスタンスの違いに加え、韓国の内政です。特に、日韓請求権協定に関する理解です。

世代交代と民主化が進むにつれ、軍事政権が1965年に結んだ日韓請求権協定は不平等、と考える世論が広がっている。
歴史問題が両国の土台を弱めているというよりも、こうした構造変化によって土台が弱まったから、歴史問題にも火が付きやすくなっているのだ。

www.nikkei.com

日韓請求権協定は、国際法上有効であっても、韓国の国内では民主的正当性がない。にもかかわらず、日本政府は、協定に基づいて一切の個人請求を否定し、韓国の大法院の判決さえ効力を一切認めず、三権分立の原則まで犯して、韓国政府に何とかしろと言っている。これが韓国の国民の受け止めでしょうし、同じ民主主義国家である日本としても、理解すべき部分がある主張です。

橋下徹氏も、2007年の中国人元労働者の訴えに対する日本の最高裁判決を挙げて、この問題を通常の労働事件として扱うと、戦時下の悲惨な労働環境で働かされたことを考えれば、日本企業は加害者だった可能性が高い、としています。そのうえで、2007年判決が、たとえ請求権協定で民事訴訟による解決が出来なくても、被害者は加害者の救済に向けて適切な対応をすべきだ、と判示していることに着目し、韓国の徴用工問題でも、同様に考えるべきだ、としています。

そのうえで、以下のように、日本政府を強く批判しています。

したがって、徴用工問題で重要なことは、当時の日本企業が、労働者をどのように働かせていたのか、それは韓国人や中国人だけでなく、日本人に対してもどうだったのか、ということであり、その点の事実検証が必要だ。さらには、2007年の日本の最高裁判決の論理や、和解契約締結後の追加請求についての法理論についての理解も必要となる。韓国側の請求を断るにせよ、これらのことを十分検討した上で、丁寧かつ真摯に断るのが日本側の取るべき態度振る舞いだ。
「1965年の日韓請求権協定があるから、もう終わり」という今の日本側の思考や態度振る舞いは、全く頭を使っていない最も低レベルのものであり、仮に日本企業に加害の事実があったならば、最悪の態度振る舞いである。

橋下徹"韓国だけ非難するのはアンフェア" 「徴用工」でなくても責任は問える (2/3) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

橋下徹「論理なき韓国批判が危険なわけ」 これではブーメランになるおそれも (3/3) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

私も、橋下氏の主張に賛成です。また、日韓請求権協定が少なくとも韓国の国民には民主的正当性が乏しいと見られていることは真摯に受け止め、徴用工判決についてのスタンスを見直し、再び日韓の信頼回復に努めるべきです。

これほど日韓関係が悪くなったのは、政府のせいだけではありません。はっきり言って、両国の国民の中に、お互いの国を全否定するような声が強すぎて、政治家はそうした声に縛られている状態です。韓国の国民は、「親日派」を迫害するようなことはやめるべきですし、日本の国民は、韓国に対する人種差別的な全否定、いわゆる嫌韓をやめるべきです。

戦前日本について両国の立場は正反対だったのだから、考え方も感じ方も違って当然。そのうえで、自由と民主主義の基本原則の上に立って、日韓請求権協定の下でもなお許されるべき個人請求権を両国民に認め、歴史問題に係る法的問題について、妥協の道を探るべきです。