日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

エリザベス・ウォーレンが倒す経営者第一主義:21世紀資本主義の復活に向けて

アメリカの経済団体ビジネス・ラウンドテーブルが、株主第一主義を見直すと宣言。エリザベス・ウォーレンらの批判を意識したとも見られていますが、ウォーレンはむしろ、経営者第一主義と独占を批判しています。政府(行政機構)の規模を大きくするのではなく、民間での所得・資産・権力の分配の修正により、資本主義を21世紀型に変えていくべきです。

アメリカ主要企業が株主第一主義をやめる?

米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルが、従来の「株主第一主義」を見直す宣言をまとめました。株主利益を最も重視する考え方から、顧客や従業員、取引先、地域社会を尊重し、長期的な株主利益を実現する考え方への転換をしていく、という内容です。

日経は、米企業の株主還元(配当+自社株買い)の増加と労働分配率の減少をグラフで示しています。

www.nikkei.com

それでも、リーマン・ショック以降、労働分配率は下げ止まりに見えますが、日経の問題意識は分かります。トランプ政権で法人税の大減税をやったのに、賃金よりも配当と自社株買いに回ったと、以前から批判されていたからです。

コラム:米国の「株主第一主義」で後回しにされる労働者 - ロイター

ビジネス・ラウンドテーブルの声明は、以下の目標にコミットするという内容です。

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出所:Business Roundtable

Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’ | Business Roundtable

これに対し、早速、批判も出ています。

FT社説(の日本語版孫引き<(_ _)>)で、ジリアン・テットらは、「「経営陣の給与が異常に高い」、「企業の納税額が十分でない」といった問題について触れていない」と指摘しています。

更に、投資業界の怒りの声を紹介しています。株主の利益は第一ではないと言われたのだから当然でしょう。地方金融サービスの業界団体、アメリカン・セキュリティーズ・アソシエーションズ(ASA)は、ウォール街の大手銀が評判を上げて、米国の一般投資家の声が抑圧されるだけだと主張しています。

また、機関投資家評議会(CII)も「みんなに対して説明責任(アカウンタビリティー)があるというのは、だれに対しても説明責任がないのと同じ」と批判しています。

www.nikkei.com

一般の株主を守れというのも尤もな話ですし、全てのステークホルダーを重視するなどというのは無責任だ、という批判にも一理あります。スティーヴ・デニング氏のフォーブズの記事によると、そもそも、株主第一主義にしましょうということになったのは、1970年代頃までの米企業がステークホルダー間の調整型の経営をしていたのでうまくいかず、最後は株主第一主義に落ち着いたから、とのことです。

Why Maximizing Shareholder Value Is Finally Dying

では、なぜ、アメリカを代表する経営者団体が、株主第一主義を見直します、などと言い出したのでしょうか?

ニューヨーク・タイムズはいくつかの理由を挙げていますが、直接的には、世界最大の資産運用会社ブラック・ロックのCEOラリー・フィンクが、エクソンの長期的な戦略について情報開示が足りない等の不満もあって、企業が社会的責任をもっと意識すべきだ、という手紙を大企業に送ったりしていたから、ということがあるようです。

だとすると、今回の声明は、「株主第一主義をやめます」という言い方で、大株主の意向だけを汲んだと見る余地もあるので、一般投資家の団体が怒るのはもっともです。

www.nytimes.com

BlackRock’s Message: Contribute to Society, or Risk Losing Our Support - The New York Times

しかし、今回のビジネス・ラウンドテーブル声明の理由は、ブラック・ロックのような巨大資産運用会社に忖度しただけでもないでしょう。同社はその後、化石燃料投資を増やしたことで、言行不一致を散々叩かれたりしているからです。

[FT]化石燃料投資、ブラックロックに光る監視の目 (写真=ロイター) :日本経済新聞

エリザベス・ウォーレンのヴィジョン:企業と個人の「独占」から、資本主義と民主主義を守る

「脱・株主第一主義」宣言の主要な動機はやはり、アメリカの政治的環境が大きく変わったからです。これはどのメディアも指摘していますが、特に影響が大きいと見られるのが、民主党エリザベス・ウォーレン上院議員の主張です。アメリカのメディアは、ウォーレンとサンダースの主張を背景に挙げていますが、CNNのある記事は、ウォーレンの名前だけを挙げています。

edition.cnn.com

既に、アメリカの一部の富豪が、2020年大統領選の候補者に対し、不平等や気候変動を改善するため、「スーパーリッチ」と呼ばれる超富裕層に富裕税を課す案を支持するよう要請しています。彼らは特に、ウォーレンが唱える、総資産5000万ドル(約55億円)超の個人への増税案を称賛までしています。

www.bbc.com

ウォーレン自身は、今回のビジネス・ラウンドテーブルの声明をどう見ているのでしょうか?ツイッターで、「1年前、私が経営者たちとビジネス・ラウンドテーブルに対し、労働者を犠牲にした単純な株主利益最大化について批判したのが、やっと届いたようだ。だが、実際の行動がなければ声明に意味はない」としています。要は、一応評価するが、本気度は疑問だ、ということでしょう。

 では、ウォーレンの政策とは、全体的にはどんなものなのでしょうか?

私の解釈では、ウォーレンが批判しているのは、株主第一主義それ自体というよりも、経営者の権力が強くなりすぎていることです。著書を見ても、決して反資本主義ではなく、バーニー・サンダーズのような(民主)社会主義とは全然違います。株主第一主義批判も、短期的な株価つり上げで自分の地位を守ろうとする経営者への批判と一体になっていて、結局は経営者第一主義に対する批判です。ウォーレンも、先に挙げたような、一般株主の保護につながる形での株主重視(たとえば少数株主権の保護)についてはもちろん賛成のはずです。

ワシントン・ポストのジェフ・スタインは、ウォーレンの政策の概要をまとめています。まず、ウォーレン自身が、自分は社会主義者ではない、「骨の髄から資本主義者だ」と言っていることを紹介し、以下の政策を列挙して解説しています。

www.washingtonpost.com

①「責任ある資本主義」:純資産10億ドル以上の大企業につき、経営陣に労働者代表を入れる。取締役会の40%(!)

医療保険の国有化と最低賃金15ドル

③ IT企業の独占禁止・分割

④ホワイトカラー犯罪の厳罰化

これに、先の富裕税等が加わります。

まず、一番議論がありうるのは、①の労働者の経営参加でしょう。ドイツはこの形ですが、アメリカの企業文化には合わない気がします。ただ、方向としては、現状での経営者の権力を抑制しようというものです。

②の医療保険国有化は、民間保険に慣れたアメリカ国民がドン引きしているようですが、これは破産法の専門家のウォーレンならではの提案です。ウォーレンはハーヴァード・ロースクールの教授時代、アメリカの個人破産の主要な原因は病気と離婚であることを見つけ、社会保障システムの不備が経済社会全体の損失になっているから、皆保険にすべきだ、という主張をしています。最低賃金15ドルは、上げ方があまり急激でなければ、イギリスのように成功する可能性はあるでしょう。

③は本ブログで何度か取り上げましたが、企業の独占を許さず、競争を促進すべきということです。④は、リーマン・ショックを経て、企業犯罪に対する個人、特に経営者個人の責任をもっと重くすべき、という主張です。

個々の提案には賛否はあり得るところですが、全体的な方向ははっきりしています。個人でも、企業でも、所得・資産・更には法的な特権を許さず、機会の平等を保障して、競争による活力のある社会を作って、資本主義を復活させよう、ということです。

この基本的な方向は、世界的に見て労働分配率が低下し、中流階級が段々と少なくなり、政治的な不安定が生じている多くの国にとって、一つのモデルになるはずです。

日本ではどうすべきか?

日本は、以上のようなアメリカでの議論から、何を学ぶべきでしょうか?

まず、株主重視の姿勢は崩すべきではない、それどころか、まだまだ強化すべきでしょう。アメリカと共通する課題は、株主に対する姿勢ではなく、むしろ、経営者第一主義です。これは日産のゴーン事件でもはっきりした話で、取締役の報酬は未だに個別の開示はなく、CEOについてはお手盛りを許しています。

金融庁企業統治の指針を作ったことで、ようやく日本でも、株主の提案が通る場面が増えてきました。今年の株主総会シーズンでは、野村ホールディングスでの未公開情報を投資家に漏らしていた件について、株主が幹部を批判しましたし、日産自動車では、筆頭株主ルノーを除く株主が投じた票の半数近くは事実上、西川広人社長兼最高経営責任者(CEO)の取締役解任に賛成するものでした。

jp.wsj.com

こうした流れを止めるべきではありません。むしろ、「経営者第一主義」を見直すために、株主を含めたステークホルダーの権限をより強くすべきです。金融庁企業統治に関する指針は法的に義務付けられていないので、そこを見直すべきです。

大企業の経営への労働者代表の参加は、日本には合っているかもしれませんが、むしろサラリーマン的な部分が行き過ぎているからこその問題もあるでしょう。労働者の経営参加よりも、アメリカのように投資に使わない利益準備金に対する内部留保課税等によって、労働分配率を変えていくべきです。ここでも、経営者の権限に縛りを加えるべきです。

日経によれば、海外勢の日本株見通しの引き下げが続き、長期マネーを運用する投資家からは、ほかの資産に比べて日本株は今後10年間にわたり出遅れるとの予想も出ているようです。今後の景気悪化に備えた政策を催促する面もあるでしょうが、それ以上に、中長期的に見て日本企業への期待が低くなっています。

www.nikkei.com

アメリカでの民間及び政治での議論を踏まえ、労働分配率を上げて経営者にきちんとタガをはめる、そして、民間でも政治の世界でも、所得・資産・権力の独占・寡占やその固定化を打破し、自由で公正な競争が行われる社会にしていくべきです。