日本の改革

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笑い話だけではすまないトランプのグリーンランド買収案:中国の北極政策の隠された意図と日本の安全保障

トランプ大統領グリーンランド買収の可否検討を指示とのニュース。現実味は薄そうですが、中国の北極進出脅威であり、備える必要があります。日本にとっては、温暖化対策への提言のほか、アメリカの核抑止力を維持や、エネルギーの中東依存からの脱却のために、北極圏は重要です。

トランプ氏が不動産屋の本領発揮?だけではないグリーンランド買収案

ウォールストリート・ジャーナルが最初だったようですが、トランプ大統領グリーンランド買収の可能性について検討するよう指示した、と報じられています。

jp.wsj.com

人口5万6000人、デンマーク自治領で、そんなこと出来るのかと思いましたが、果たしてデンマーク政府もグリーンランド自治政府も否定的、嘲笑的コメント。実際には現実味は薄そうです。

ニューヨーク・タイムズは、一応は資源問題や安全保障等にもふれながら、見出しではトランプがまた不動産業と外交を混同している、と茶化しています。本文に曰く、トランプ氏は大統領としても常に不動産屋としてものを考えている、ホワイトハウスで不動産業界団体に本人がそう言った、北朝鮮さえ良い物件だとか言った、グリーンランドには北極圏で唯一の芝生のゴルフコースがある(のでそのせいじゃないか)云々。

www.nytimes.com

ちなみに、記事にはそのゴルフコースのリンクまで貼ってました。グリーンランドの風景写真はどれも美しいし、トランプ氏でなくとも、富裕層なら土地買いたいと思うのかもしれません。

GOLF IN GREENLAND – Greenlandtoday

安全保障上の問題としては、先のウォールストリート・ジャーナルの記事によると、グリーンランドには米軍基地として最北に位置するチューレ空軍基地があり、米国はデンマークと数十年前に結んだ防衛協定に基づき、事実上制約を受けることなく同基地を利用することが認められています。

現実味は薄いにしても、安全保障は防衛協定ですみそうなのに、わざわざ買収という話が出たのはなぜでしょう?

合理性を探すとしたら、やはり中国への対抗でしょう。

これも先のウォールストリート・ジャーナルによれば、中国がここに進出を図っており、米国防総省は2018年、グリーンランドで実施される3つの空港整備事業への中国の参入を阻止しました。

中国の進出は、単に空港や港を確保する、というレベルにとどまりません。

中国は、グリーンランドデンマークから独立したがっている足元を見ています。そこで、現状ではデンマーク政府からの補助金頼みになっているグリーンランドを、カネの力で独立させ、事実上の属国にしようとしてるように見えます。つまり、中国が既にグリーンランドを事実上買収しようとしているのであって、アメリカはその先手を打つつもりで、現実味があろうがなかろうが、「トランプがグリーンランド買収!」と派手に打ち上げて牽制する意図ではないかと思います。少なくとも、国際社会をぎょっとさせて、この地域に世界の目を向けさせ、中国の北極圏政策をあらためて浮き彫りにする効果はありました。

The Diplomatによれば、中国の投資が、漁業とデンマーク政府の補助金に依存しているグリーンランドの経済を多様化するのには良いチャンスになる、と書いています。同誌によれば、中国は、南グリーンランドレアアース採掘のジョイントベンチャーを(オーストラリアと)始めています。埋蔵量は中国に次いで第二位になる可能性があるようで、もし、ここが中国の利権になれば、既に中国が9割を握るレアアース資源は、恒久的に中国が独占してしまうでしょう。

thediplomat.com

昨年10月23日のNHKBSの番組では、中国のグリーンランド進出を生々しく報じています。

中国が昨年1月、初めての体系的な北極政策「北極白書」を「氷上のシルクロード」として発表したことを受け、

中国 北極海でも「一帯一路」 権益拡大へ白書発表 :日本経済新聞

中国の北極圏への食い込みぶりを取材しています。番組紹介サイトから引用します。

デンマークからの独立を悲願とするグリーンランド
しかし、目立った産業がなく、行政予算の半分をデンマーク政府からの補助金に頼っています。
中国からの投資によって、経済的に自立できれば、独立への道が開かれるとの思いが広がっています。
グリーンランド アン・ロン・バガー外相
「今、外国投資がたくさん入っています。
(投資は)グリーンランドデンマークから経済的に独立する上で助けになります。」

NHK)

www.nhk.or.jp

デンマーク政府は(グリーンランド独立を阻止したいという意図もあるでしょうが)、中国を警戒しています。もう一つ、先のNHKの番組サイトから引用します。北極サークルと呼ばれる会議で、中国の進出に一帯一路同様の懸念を示されたのに対し、中国外務省の高特別代表は、こう言い放っています。

「(グリーンランドでの)問題について話を聞いたことはあるでしょう。
グリーンランドに投資できないなら、中国はほかの投資先をいくらでも見つけられます。
ここの未来を共有したいという、中国の活動は止められません、わかりますか?」

(NHK)

この傲岸不遜。加えて、北極白書の発表時に記者会見した孔鉉佑外務次官は、「中国は北極圏の国々の主権を尊重する。中国が資源を奪い環境を壊すという懸念が一部にあるが、無用な心配だ」と述べました。

digital.asahi.com

わざわざ、「北極圏の国々の主権」に言及。やろうとしていることは明白です。中東欧諸国同様、まずはグリーンランドから札束で顔をはたいて、従わせようということです。中東欧には既に中国版「鉄のカーテン」が下りたとも言われていますが、北極圏でも、同様の事態になりかねません。

www.kaikakujapan.com

中国の北極白書の裏の意図

2018 年 1 月 26 日に発表された中国の北極白書につき、防衛研究所の主任研究官の山口信治氏は、中国の意図について、以下のように分析しています。

第一に、資源・エネルギー安全保障である。中国の北極海航路及び資源に関する言及は、ほとんど経済的な利益(コスト減、所用日数減)についてしか述べていないものの、重要なのは戦略的なコンテクストである。

北極海航路は、夏季しか使えず、また海氷が存在するために安全性に問題がある。さらにロシアの砕氷船支援を得るコストがかかるなど、課題は多い。それにもかかわらず、北極海航路を重視しているのは、いわゆるマラッカ・ジレンマを回避したいという中国の願望があるものと思われる。マラッカ・ジレンマとは、中国がエネルギーを中心とした物流を、マラッカ海峡を通るルートに大きく依存しているため、中国経済が発展するほど、マラッカ海峡が大きな弱点となっていくという状況を指す。中国はこうしたリスクの分散を大きな課題としてきた。北極海航路はこうした課題に対する一つの回答となることが期待されている。

第二に、核抑止である。(中略)中国から米国に向けて大陸間弾道ミサイルを発射した場合、その軌道は北極海を通ることになる。米国はミサイル防衛システムとして、地上配備型ミッドコース防衛(GMD)システムをアラスカに配備しており、北極圏の重要性は明らかである。またそれ以上に、中国が戦略原潜北極海に進出させることができれば、北極海における探知はほとんど困難であるため、確実な反撃能力を獲得することになる。これまで中国の晋級戦略原潜が搭載する巨浪 2 の射程は、7000km と見積もられており、中国周辺海域から米国東海岸に届かなかった。

 http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary069.pdf#search=%27%E6%B0%B7%E4%B8%8A%E3%81%AE%E3%82%B7%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%89%27

つまりは、マラッカ海峡を通らないルートを確保すると同時に、戦略原子力潜水艦を北極圏に配備して、アメリカに対する核抑止を図る、ということです。

アメリカはこれに対して、国防報告書等で警戒感を表明、ポンポオ国務長官もくぎを刺しています。

www.bloomberg.co.jp

米国務長官「北極圏開発はルール尊重を」 中ロけん制 (写真=AP) :日本経済新聞

日本は北極圏を安全保障の問題として捉えるべき

日本は第三次海洋計画で、北極政策を初めて項目として格上げしました。2013年に中国等とともに、北極評議会のオブザーバーとなってから、段々と北極圏を重視しつつありますが、やはり中国のスピードには追いついていません。

https://www8.cao.go.jp/ocean/policies/plan/plan03/pdf/plan03_gaiyou_1.pdf

アメリカは、中国を南シナ海のようにしてはいけないと警告を発しています。それでも、中国が南シナ海に進出し始めたときは、まだまだ中国も貧しく、岩礁上の掘っ立て小屋で領有権を主張し始め、世界中から笑われていました。いま、南シナ海の中国を笑う国はありません。北極圏への中国の進出は、既に堂々たる軍事経済大国として、強力に実行されています。

日経の竹田忍編集委員は、石油の中東依存度を低めるというエネルギー安全保障の観点から、西部ガスが既に打ち出したように、ロシアのヤマル半島で生産したLNG北極海航路を通じて輸入するルートを日本は重視すべきだ、と首長しています。

エネルギー安全保障、北極圏という選択肢 :日本経済新聞

ロシアへの依存というところは疑問符がつきますし、化石燃料はあくまで2050年までの暫定的なエネルギー源と考えるべきだと思いますが、それでも、北極海航路は重要です。2030年には北極圏から夏場の氷は完全に姿を消すと言われているので、各国ともいずれにしても使い出します。中国がマラッカ海峡依存を嫌うのと同様、日本もエネルギーの調達先も航路も多様化する必要があります。

今後、北極圏での自由航行を堅持させ、中国の進出を防ぐために、日本もこの地域で北極評議会で発言権を高める必要があります。そのためには、北極圏のことを他国以上によく知る必要があり、調査研究が欠かせません。そのためには、砕氷船が必要ですが、海洋計画では、建設の検討、としかなっていません。

ジェームズ・スタブリディス元米海軍大将がブルームバーグで述べていますが、中国は砕氷原子力船の建造という、アメリカが想像もしなかったことを始めており、この分野で世界一のロシアに迫ろうとしています。これに対し、アメリカの砕氷船沿岸警備隊等の貧弱なものだそうです。アメリカも早急な整備が必要でしょうし、スタブリディス氏は同盟国との連携も呼びかけているので、日本も日米同盟の観点からも砕氷船建設等、「北極政策」の充実を行うべきです。

www.bloomberg.co.jp