日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

政治家の言動は暴力を引き起こしかねない。あいちトリエンナーレに関する言動につき、松井一郎氏、河村たかし氏、吉村洋文氏に猛省を促す。

・あいちトリエンナーレの展示の件、吉村大阪府知事が、大村愛知県知事に辞職要請。放火殺人の脅迫まで起きた件で、政治家が言動をエスカレートさせ続けたのは大問題です。

慰安婦像だろうと、天皇陛下の写真を焼く作品だろうと、公立美術館での展示の是非は、政治家が政治的に判断してはいけません。芸術的価値の程度で判断すべきです。

政治家の言動は暴力を引き起こしうる

テキサス州エルパソで8月3日に起きた銃乱射事件をめぐり、2020年の大統領選で民主党の指名争いをする候補から、人種差別的な発言を連発するトランプ大統領の責任を問う声が相次いでいます。トランプ氏は最近、非白人の女性議員に「国に帰っては」と促すなどマイノリティーに対する人種差別的な主張を繰り返していました。

www.nikkei.com

トランプ氏に限らず、政治家の過激な言動がヘイトクライム等を増やすのではないか、という懸念は、既に2016年の大統領選のときから指摘されていました。

焦点:米国でへイトスピーチ蔓延、攻撃的トランプ発言が触発か - ロイター

今年7月のピュー・リサーチ・センターの調査によると、78%のアメリカ人が、政治家があるグループに対して、煽情的な、あるいは攻撃的な言葉を使ったら、そのグループへの暴力が起こりやすくなる、と答えています。民主党で9割、共和党でも6割がそのように答えています。このため、73%が、そのような言動は避けるべき、と答えています。

www.pewresearch.org

(具体的にどんな言動が許容されるとアメリカ国民が考えているかは、こちらに出ています。なかなか厳しい基準を求めています。)

www.people-press.org

では、実際に、政治家の言動は、暴力を引き起こすのでしょうか?政治学者のNathan Kalmoe氏(ルイジアナ州立大准教授)は、Politicoで、自らの研究を紹介しています。それによると、敵対的な政治的言論に接したとき、もともと暴力的でない人には影響はないけれど、既に暴力的な傾向の人は一層暴力的になる、ということです。

やはり、一定の影響はありうる、と考えるべきです。

www.politico.com

あいちトリエンナーレの特別展「表現の自由展・その後」に関する政治家の言動を見ていると、こうした危険性や、自分達の責任について、無自覚に過ぎると感じます。

以下、「美術手帖」と中日新聞のサイトから、8月7日までの経緯を振り返ります。

あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」展示中止にまつわる出来事のまとめ|MAGAZINE | 美術手帖

・7月31日:朝日新聞が、《平和の少女像》が「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」に出品されることを報道。報道内覧会開催。

・8月1日:「あいちトリエンナーレ2019」開幕。
《平和の少女像》の展示について、松井一郎大阪市長が「にわかに信じがたい!河村市長に確かめてみよう。」とツイート。
※「表現の不自由展・その後」に関する問い合わせ件数=705(電話200、メール500、FAX5)

・8月2日午前6時半ごろ:会場の愛知芸術文化センターに、(後に逮捕された)会社員が「要らねえだろ史実でもねえ人形展示。FAX届き次第大至急撤去しろや。さもなくば、うちらネットワーク民がガソリン携行缶持って館へおじゃますんで~」などと手書きしたA4判1枚の文書をファクスで送り、展示を中止させるなどして業務を妨害。

あいちトリエンナーレに脅迫ファクスの男を逮捕 威力業務妨害容疑:社会:中日新聞(CHUNICHI Web)

・8月2日:河村たかし名古屋市長が「表現の不自由展・その後」を視察。大村知事に対し、《平和の少女像》の展示中止と撤去を要請。「どう考えても日本人の、国民の心を踏みにじるもの」と発言。

・8月5日:松井一郎大阪市長、記者会見で「表現の自由とはいえ、事実とあまりに懸け離れている単なる誹謗(ひぼう)中傷的な作品」と批判。「強制連行された慰安婦はいません。あの像は強制連行され、拉致監禁されて性奴隷として扱われた慰安婦を象徴するもので、それは全くのデマだと思っている」と発言。

・8月7日:ある男が、会場10階からエレベーターに乗った際、「ガソリンだ」などと言い、持っていたバケツ内の液体を警部補の足にかけた疑いで逮捕。

ファックスによる脅迫は、8月2日の午前6時30分ですから、松井氏が8月1日にツイートしたことの影響は、あまりなかったでしょう。ツイートの内容も、信じがたい、確認する、と言うだけです。

しかし、8月7日の警官に液体をかける暴行は、河村氏が8月2日に「日本人の、国民の心を踏みにじる」と言って展示中止と撤去を要請し、松井氏が8月5日に「たんなる誹謗中傷的な作品展示」と言った後です。

そもそも、展示作品の「政治的意味合い」を唯一の理由にして撤去を求めるのがおかしいうえ、既にファックスの脅迫があったのは分かったうえで、感情を煽るような表現で発言しています。脅迫事件まで起きているときに、国民を冷静にさせるのではなく、まるでけしかけるような言い方です。

輪をかけておかしいのは、吉村大阪府知事です。

最初にツイートした8月2日は冷静なトーンでしたが、8月4日以降は、何のつもりか、煽動的な発信を執拗に続けています。8月4日にはもう、知事は辞めるべきと言い出しています。そのうえ、本当に意図が分かりませんが、自民党が県議会で辞職勧告決議しろと。

 まあ、途中から、大村知事が維新は「表現の自由」が分かっていないと批判したから、売り言葉に買い言葉になったところはあります。

それにしても、政治家同士の悪口の言い合いを優先させて、殺人予告や暴行まで起こすような興奮した世論に対する配慮など全くなし。8月5日、6日と大村氏批判。6日には、「自民党の皆様」に「党派を超えて共闘をお願い」。

 8月7日、今度は記者会見で愛知県知事は辞職相当、自民党の愛知県議に期待と。

 そもそも、言ってること自体がとんでもないことです。展覧会の個々の展示が「反日的」だから、知事を辞職させろ、と言っているのですから。そんなことを許せば、あらゆる展覧会の展示の基準は「反日的かどうか」になってしまい、中国や北朝鮮と変わりません。そのうえ、そんなことをやってくれと「自民党の皆様」に「党派を超えて共闘をお願い」しているのです。日本維新の会の行く末は、自民党の右側といっしょになることなんでしょうか?

吉村氏は若くて有能、松井氏に比べて清新だし、タバコ吸わないし、新しい時代にふさわしい維新のリーダーと思っていましたが、この問題については、全然ダメ。言ってることもおかしいし、自民党のバカウヨに媚びるような言い方を平気でするし、何より、脅迫・暴行事件まで起きている本件で、自分の言動が、暴力的な一部の人間の憎悪をかき立てる可能性について、まるっきり無自覚です。

公的支援による展示の是非は、政治性ではなく芸術性で判断すべき

今回の特別展について、大村知事も、芸術監督の津田氏も、判断を誤っていたと思います。詳細は愛知県が行っている検証結果を待ちたいと思いますが、現時点での判断としても、二人とも展示に伴う社会的コストを見誤っていたと思いますし、展示内容の発表方法や警備体制や苦情対応等をもっとしっかり準備しておくべきでした。

中止の決め方もとんでもないものでした。実行委員会にも展示作品の作家にも連絡一つなく一方的に決めたことは許されません。出展作家の中垣克久氏は、作品が「反日的だ」などと叩かれましたが、キャリアを見れば、立派なプロの芸術家です。中垣氏は、自分の作品はファインアートなのだから、慰安婦像といっしょの展示というのは違う、と感じたようですし、あんな騒動をしない形で特別展を実施できたはず、として、大村氏や津田氏らを批判しています。

abematimes.com

以前も本ブログで書いたことですが、ある芸術作品が公的支援を受けて公立美術館に展示されてよいかどうかは、政治性の有無によって判断するのではなく、芸術性の有無によって判断すべきです。そして、芸術性についての判断は、行政から一定の独立性を持ったアーツ・カウンシルで専門家が行うべきです。

そのうえで、行政は、芸術性についての判断をもとにして、地域への経済効果とか、教育効果とかのその他の便益と、助成にかかるコストや警備のコスト等の費用等、色々な便益・費用を考えて、展示することの社会的価値が正ならば、展示すべきです。

芸術作品の展示の是非は、特定の政治的立場から離れて、出来るだけこうした客観的な基準で決めるべきであり、個々の作品の政治的立場によって決定することなど、許すべきではありません。愛知県の検証作業では、津田氏と実行委員会についても、芸術的価値の評価について問題がなかったか、厳しく検討すべきです。

しかし、それ以上に、展示内容が政治的だからというだけの理由で、反日的だからというだけの理由で、芸術的価値があろうがなかろうが、公立美術館から作品を駆逐するような野蛮なことが許されるはずがありません。展示の是非は、あくまで、芸術的価値を専門家によって正当に評価して、そのうえでなお、その作品を展示するコストとの兼ね合いで決めるべきです。

松井氏も、河村氏も、吉村氏も、そこを全く理解できていません。大阪府市のアーツ・カウンシルでは、反日的作品は一切許さないという方針なのでしょうか。もしそうなら、とんでもない府政・市政です。

何より、三氏とも、この件では暴力的な一部の人間が、報道等に煽られて実際に犯罪行為にまで及んでいる、ということについて、そうした行動を自分達の言動が助長しかねないことについて、自覚が足りなさすぎます。文化芸術政策についての無理解は直せなくても、国民やコミュニティが感情的になり興奮しているときにリーダーがどう振舞うべきか、もう一度真摯に考え直すべきです。