日本の改革

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アメリカは、数か月以内に日本に中距離ミサイル配備を希望?日本は核抑止論の合理性も限界も認識して対応を!

米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が正式に失効。エスパー米国防長官は、アジアに中距離ミサイルを配備して、米ロ中の新たな核軍縮協議に引き込む方針で、1987年のINF条約締結時と同じシナリオを目指しています。日本は、東アジアで一気に高まる緊張に冷静に備えつつ、米ソ冷戦時代の核抑止論の合理性も限界も認識して、何重にも安全保障上の対策を固めるべきです。

INF条約失効と東アジアへの中距離ミサイル配備

エスパー米国防長官は昨日8月3日、地上配備型の中距離ミサイルについて、アジアへの配備に前向きな姿勢を示しました。米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が2日に正式に失効したことを受けた対応です。エスパー氏は、数カ月以内が望ましいが、実現にはまだ時間がかかるとの認識を示しました。

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なお、エスパー氏は、就任前から、中国脅威論者として知られていました。

アングル:次の米国防長官代行、中国脅威論者エスパー氏の横顔 - ロイター

トランプ政権がINF条約を破棄したのは、ロシアが条約に違反しているからでもありますが、中国が核戦力を強化しているのに、米ロ間だけで中距離ミサイル廃棄を約束しても意味が乏しいからです。これについては、以前も、本ブログで取り上げました。

INF条約の廃棄を機に、政府は「核の傘」に関する日米拡大抑止協議(EDD)の議論を国民に公開せよ。 - 日本の改革

トランプ政権は、失効したINF条約についても、21年2月に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)についても、米ロに中国が参加する形で、新たな枠組みを作ろうとしています。新STARTについては、その点でロシアとも合意しました。一方、核戦力で米ロに劣る中国は「米ロの核軍縮が先決だ」として反対、中国は協議自体を拒否しています。

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配備先として、日経は、8月1日の記事で、グアムが有力視されているとしていますが、日本にも配備の可能性がある、としています。その後、日経は、最初に紹介した8月3日の記事で、米国防長官の「アジアに配備」という発言を報じています。ということは、中国に近い日本に中距離ミサイルを配備する可能性が高まっているのかもしれません。

こうして、当面は、中国に核軍縮をさせる見込みがないままに、アメリカが日本を含む「アジア」に、できれば数か月以内に中距離ミサイルを配備したいと考えています。この方針は合理的でしょうか?

私は、一定の合理性が認められると思います。日本は、アメリカから中距離ミサイル配備を要求されたら、通常弾頭での使用を前提に、引き受けるべきです。米ソ冷戦時代に、ヨーロッパであえて核戦争の危機を高めて、INF条約を締結した、という成功例があるからです。

1980年代にヨーロッパで核戦争の危機を高めて、INF条約締結

フォーリン・アフェアーズ2019年5月号に、トム・ニコルス米海軍大学教授が、1980年代のヨーロッパでの核戦争危機の高まりについて書いています。

それによると、NATOは、当時通常戦力でソ連に大きく見劣りしていました。そこでソ連を効果的に脅すために、あえて、中距離核ミサイルを配備。これにより、ソ連が西欧を侵略したら、NATO核兵器を使用するか、奪われるか、の二択になるので、核戦争が起こりやすくなります。

ニコルス氏は、このNATO戦略について、「平和へ貢献したというよりも、むしろ、耐えがたいほどに緊張した持続不可能な状況から抜け出すことを双方に模索させるようになった」としています。ニコルズ氏の論文から引用します。

ゴルバチョフ元大統領は回想録で、アメリカの中距離核を「頭に突きつけられているピストル」と表現したが、西側も、ソビエトが配備したミサイルについて同じ感覚を抱いていた。こうして、1987年にゴルバチョフと当時のレーガン米大統領がINF条約という形で出口を見いだし、双方が中距離ミサイルを物理的に破壊し、定期的な相互査察を行うことを受け入れた。

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このように、当時は、中距離核ミサイルという「頭に突き付けられているピストル」で、「耐えがたいほどに緊張した持続不可能な状況」を意図的に作り出して、ソ連を脅しまくって、INF条約の締結にこぎつけました。

今回のトランプ政権の方針は、その再現を狙ったものです。中国が核戦力を強化し続けている、現状では新たな核軍縮協議には見向きもしない。そこで、中距離ミサイルをアジア太平洋に、しかも、中国になるべく近い「アジア」、おそらくは日本に配備して、これを習近平の「頭に突き付けられているピストル」として、日本にも中国にも「耐えがたいほどに緊張した持続不可能な状況」を作り出して、中国を核軍縮交渉の場に引きずり出そうとしています。

日本人にとっては、文字通り「耐えがたい」話です。しかし、耐えがたきを耐えないと、中国の中距離核ミサイル、日本にとって最大の脅威になっている兵器を、減らすことができません。アメリカの中距離ミサイルを配備することで、中国からの有形無形の強烈な圧力や国内世論の分断等、苦しい思いをしても、中国の核削減という目標に向けて、耐えがたきを耐える価値はあります。核弾頭は搭載しない、という前提であれば、不可能な話ではありません。

なお、橋下徹氏も、INF条約について、西欧で緊張が高まったから可能になった、という正確な認識をつとに示しています。

最近の事例ではINF(中距離戦略核)全廃条約がそうだ。これもソ連がヨーロッパで西側諸国向けの中距離ミサイルを配備したことに対して、西側諸国が対抗的措置としてソ連向け中距離ミサイルを配備。そして緊張感が絶頂に高まってから相互に全廃することになった。

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日本は核抑止論の合理性も限界も踏まえて、安全安心な国防体制を!

ただし、このやり方には、限界が二つあります。

一つ目は、日本に配備できるのは通常弾頭の中距離ミサイルのみで、核ミサイルは不可能だということです。

中距離核ミサイル配備は非核三原則に反しますし、何より、国内世論が絶対に許しません。したがって、抑止力は、あくまで、通常弾頭での中距離核ミサイルで達成できる範囲です。イメージとしては、米中の間の核抑止がお互いに働いている中で、日本に通常弾頭の中距離ミサイルを配備して、アメリカの交渉力を高める、という形で、中国を核軍縮に引き込むという方向でしょう。グアム等にも中距離核ミサイルを置けば、更にアメリカの交渉力を強められます。

もう一つの限界は、核抑止論自体の限界です。

フォーリン・アフェアーズ2019年2月号で、ハドソン研究所のアンドリュー・クレピネビッチ氏が書いていますが、軍事競争は、宇宙空間、サイバー空間、海底を含む新しい領域に拡大しています。新しい軍事能力の登場によって、軍事的なパワーバランスを正確に評価しにくくなっています。また、最近の認知科学は、ハイリスクの環境において人間が必ずしも合理的に行動しないことを教えています。このため、クレピネビッチ氏は、「変化する環境、つまり、多極化が作り出す課題、先端兵器の導入、意思決定の心理学に関する新しい発見などに配慮して」抑止を論じなければいけない、としています。
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つまり、核兵器での脅し合いをすれば各国のリーダーは合理的に平和を選択する、という類の核抑止論は単純すぎて、危なすぎる、ということです。

先に紹介したニコルズ氏も、米ソ冷戦当時は、ソ連の通常兵器での軍事力がNATOを圧倒していたから、かえって西側の「核ミサイルを撃つぞ」という脅しが利いたけれど、今は軍事力が逆転しているので、INF条約廃止後に中距離ミサイルを双方が増やしても、核軍縮で合意できるかわからない、としています。

また、中国については、中距離ミサイルだけでは不十分で、「通常兵力への投資拡大や太平洋における海軍力の確立に再びコミットしなければならない」としています。

核だけでなく、通常戦力等の色々な要因を考えるべきなのは当然です。そして、核ミサイルはもちろん、通常弾頭のミサイルが飛んできたとき、習近平氏やトランプ氏が冷静に合理的に判断できるか、保障の限りではありません。もっと理性的なリーダーだったとしても、人間には認知能力の限界があります。

以上のように、中距離ミサイル配備による緊張激化は、歴史の実例を見れば、核軍縮につながる可能性は十分にあります。日本としては、その可能性に賭けて、中距離ミサイル配備に賛成すべきです。しかし、それはあくまで「賭け」なのであって、もちろん確実ではないので、たとえば、中距離ミサイルや現行のミサイル防衛システム以外の防衛手段について、新たな技術も積極的に導入しながら、何重にも安全・安心な安全保障体制を作るべきです。