日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

“Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めるな) :重度障害議員の介助、参議院の当面負担は問題なし。

・就労している重度障害者は、身体障害者だけで16万人。就労中の介護費用は国が負担すべきですが、これだけ多いと財源等の議論も必要で、時間がかかります。

・重度障害者議員が、当事者として国会での議論に参加しやすいように、就労先にあたる参議院が「当面」費用を負担するのは、現行法上は正しい方法です。

・議員が先なのはおかしいという批判は批判で、国庫負担の議論を進める力になるから、続けたら良いでしょう。

障害者政策を一気に動かした、れいわ新選組の2議員

参院議院運営委員会の理事会は昨日、れいわ新選組の重度障害者の議員、舩後靖彦氏と、木村英子氏につき、院内での介助に関して、参議院が費用を負担することを決定しました。ただし、朝日によると、れいわは、介護費用を職場とみなされる参院が負担することに否定的で、運用ルールを変えて公費負担とするように求めています。

digital.asahi.com

8月1日朝の現時点で、れいわが結局どう判断するか分かりません。参議院が負担することに、れいわ自身は反対なので、登院しないという選択肢もあるようです。

参議院の議運理事会では、厚生労働省が、国会議員に限らず、障害者の通勤や就労の介助は、公費による介護サービスの対象になっていないと説明。これを受けての与野党の理事の協議では、「制度そのものを変えるべきだ」という意見も出されたものの、2人が議員活動を行える環境を速やかに整備することが重要だとして、参議院の費用負担が決定されました。

www3.nhk.or.jp

自民党の議員の中にも、この決定を批判する人はいます。橋下徹氏は、福祉は障害のあるなしに関わらず、所得のある方がない方を支えるべきだから自己負担で、と主張しています。

 一方で、橋下氏は、れいわがバリアフリーについて参議院のルールを変えさせたことを高く評価しています。日テレのウェークアッププラスで、れいわの政策はほとんど評価しないが、実行力はすごい、あの形で候補者二人を立てて当選させ、これで実際に参議院のルールを変えたという実行力は、国民は確実に評価する、としています。辛抱キャスターが冷ややかに流そうとしてましたが。

私もれいわ新選組は支持しません。が、障害者政策については、この党が既に大きな貢献をしたのは、動かしがたい事実です。ルールを変えさせたのは、バリアフリーに関する院内の対応だけではなくなりました。障害者の就労時の費用が自己負担になっているという、一般にはほとんど知られていなかった問題点を日本中に知らしめ、議員自身の介助費用について大きな議論を巻き起こし、制度自体を変える大きな流れを作りました。

もし、木村英子氏が「介助を受けられないなら登院しない」と言わなかったら、おくゆかしく自己負担で登院し、自分は別に良いです、と言っていたら、逆にこれほどの議論にはならず、関心も盛り上がりもいまひとつだったでしょう。

何より、“Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めるな) という、障害者権利条約成立時のスローガンを、そのものずばりの形で、しかも重度障害者について実現したのは、それだけで素晴らしい成果です。

障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見) 第1 はじめに:文部科学省

木村英子氏やれいわを猛烈に批判する人たちも出てきましたが、差別心に基づく攻撃的な言動でさえなければ、それで良いのです。障害者政策は、障害者が健常者とともにお互い批判しあって作っていくべきだからです。それが可能な社会を作るために、木村氏が、健常者には一見利己的にさえ見える主張を、それでも障害者として暮らしてきた今までの自分の感覚そのままに自分の言葉で語ったのが、かえって起爆剤となりました。やはり、国会には障害者の議員が必要です。

働く障害者はどれくらいいるのか

厚生労働省は、障害者の就労に必要な介助の支援などを検討していく方針です。根本厚生労働大臣は、「障害者がより働きやすい社会を目指すうえで、働く際に必要になる介助は重要な課題だ。どのような対応が考えられるのか、さまざまな観点から検討しなければならない」と述べました。細部での負担割合等はともかく、制度変更はもう既定路線となりました。登院前から、これだけのことを木村氏は実現した、とも言えます。

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ただ、この制度変更は、言うは易く行うは難し、です。既に、非常に多くの重度障害者が働いており、全ての人に就労中も介助サービスを提供するのには、それなりの費用が必要です。

平成30年度障害者雇用実態調査によると、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は82万1,000人。内訳は、身体障害者が42万3,000人、知的障害者が18万9,000人、精神障害者が20万人、発達障害者が3万9,000人です。

ここでは、船後氏や木村氏によって問題提起された論点にしぼるため、あくまで仮に、身体障害者だけについて取り上げてみます。

働いている身体障害者のうち、重度障害者(1,2級)の割合は40.2%です。つまり、身体障害者だけでも、就労している重度障害者は16万人強になります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000521376.pdf

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

これだけの人達に、就労時も含めたサービスを提供するには、財源の議論は必要です。後に見るように、就労時に介助が受けられないというのは理屈に合わないおかしなルールですが、そんなものが維持されてきた理由の一つは、小役人のこだわり以外には、やはり財源問題なのでしょう。

本格的に変えるには相応の時間がかかるので、その意味でも、「まず障害者全体に福祉がいきわたってからだ」という論は間違っています。障害者議員が国会での議論にまず加わって、当事者の言葉で議論しなければ、国民全体に福祉がいきわたりません。健常者だけで構成される国会では、必要性がピンと来ないからです。仮に障害者全体にいきわたらせたつもりでも、今回問題となった制度のようにとんちんかんなものになるからです。

参議院の当面負担はルール上全く問題なし

今回、参議院が費用を負担すると言うのは、現行法上は全く問題ありません。「国会議員だけルールを曲げて不公平だ」という議論も成り立たないのです。

まず、現行法を確認します。本件について、法令上の問題点を、ソースも含めて一番きちんと整理していたのは、私が知る限りでは、バズフィードの岩永直子氏の記事でした。

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/nazeyadeherupagaenainookidurakusaseteiruno?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

そこで取り上げられた法源によると、本件の根拠法令は、厚生労働省告示の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定」第2の1、です。

障害者自立支援法で、重度障害者に対する訪問介護が定められていますが、それについては、以下のように、厚生労働省の告示(指定)で条件がつけられています。「通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除く」とあって、今回はこれに該当する、というわけです。

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出所:厚生労働省

www.mhlw.go.jp

この厚労省告示については、自治体から批判が上がっていました。以下、バズフィードの岩永氏の記事の内容を紹介します。

さいたま市は、市民から2017年7月、「勤務時間中もヘルパーサービスを使えるようにしてほしい」と、要望書が提出されたのを受け、2018年6月、地方分権改革の自治体提案として、「常に介護が必要な重度障害者が在宅勤務している場合、勤務時間中に重度訪問介護を利用可能とすること」を厚労省に提案しました。

なお、さいたま市だけでなく、川崎市京都市宮崎市も追加共同提案をしています。

しかし、厚労省は、「就労中の障害者の支援については、就労で恩恵を受ける企業自身が支援を行うべき」「個人の経済活動に対して障害福祉施策として公費負担で支援を行うことについては、個々の障害特性に応じた職場環境の整備(ヘルパーの配置等)などの支援の後退を招くおそれがある」などと認めない回答をしました。

さいたま市の再度の提案にも、厚労省は「就業時間中のトイレや水分補給等は労働(経済活動)の一環であると捉えられる」「障害福祉サービスに係る財政負担に大きな影響を与えることが懸念される」などとして、2021 年度の障害福祉サービス等報酬改定まで結論を先送りしました。

https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_30_ko_kekka_12_1_2mhlw.pdf

岩永氏の取材に対して、厚労省障害福祉課の説明は、以下です。
「個人の経済活動にあたる就労での支援を公費で負担すべきではないという議論があるし、福祉(厚労省)と教育(文部科学省)の役割分担をどう考えるのかという議論もある」
「障害者差別解消法では差別を解消するために『合理的配慮』が求められており、その配慮は、障害者が働く職場の事業主や教育機関が行うべきだと考えられている。現状では、雇用者や教育機関が合理的配慮をするべきだ、と整理している」

云々。

つまり、現行法令のルールによれば、就労中(および、なぜか学校)では、重度障害者は国の負担でのヘルパーは使えない、それは、合理的配慮の範囲内で、つまり可能な範囲で自主的に、勤め先や学校が負担すべきだ、というのが公権的な解釈です。

したがって、今回の参議院議員の場合、金満の就労先である参議院は、当然、「合理的配慮」を行うのがルールです。このため、「国会議員だけルールを曲げている」との批判は的外れです。

最初に紹介した橋下氏の批判、高所得者だから自己負担であるべきだ、というのは、一つの意見。そもそも制度が参議院議員の誕生等想定しておらず、高額所得者もおそらく想定していなかったため、上記の厚労省のような説明がされています。

どこからどう見ても、参議院が自己負担をするのはルール上正しいやり方です。

議員だけおかしいという批判もそれはそれで続ければ、制度実現につながる

維新は参議院の決定に反発しています。先に書いた通り、れいわ自身も反対しているようなので、れいわ批判なら空振りになってますし、批判の名宛人は参議院の議運理事会になるでしょうが、とにかく反対です。

理由は身を切る改革の応用版で、国民が自己負担なのに議員だけ参議院が面倒を見るのはおかしい、制度変更が実現するまでは自己負担にせよ、という趣旨です。

吉村知事は、参議院の決定をこう批判しています。

 「ルールがおかしいと言うなら、ルールを変えろ」という批判ですが、これはブーメラン。さっき書いた通り、参議院はルールにしたがって、負担を決定したからです。

 しかも、参議院は、あくまで「当面の」変更と言い、れいわにも一部自己負担を求めてはいるようですし、れいわ自身は、参議院の負担ではなく、国費負担を望んでいます。

というわけで、理屈で議論をしたら、維新は不利です。

それでも、参議院議員だけずるい!おかしい!身を切る改革!という批判は批判として、続けたら良いと思います。れいわの出方次第ですが、参議院の負担での介助になれば、制度がどうあれ、国民感情として納得できないという声はあるでしょう。そうした批判が強ければ強いほど、重度障害者全体に就労中の介助支援を広げる力となるからです。

いずれにせよ、今回は、登院前から、れいわの勝利です。手法にいくら批判が集まっても、政治は結果です。改革政党は、れいわの無手勝流は真似できなくても、彼らの主張の良いものはすぐに実現に動くべきです。