日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

かんぽ生命だけでなく、保険業界全体が超低金利で顧客軽視の誘因あり。契約「転換」と外貨建て保険につき、監督強化を!

かんぽの不当販売の実態が次々と明らかになっています。かんぽ生命の民営化をしなかったことが大きな原因ですが、一方で、低金利で苦しむ民間の保険会社についても、契約の転換や外貨建て保険について、顧客保護のための監督強化が必要です。

かんぽ生命の「乗り換え」と民間保険会社の「転換」

日本郵政が、かんぽ生命の委託販売につき、営業ノルマを廃止する方針を決めました。朝日新聞は、東京支社の渉外局員の場合、年300万円のノルマで、局員は過剰なノルマがプレッシャーとなり、不適切な販売を招いたとので、ノルマを廃止し、局員の自主的な営業にゆだねる、としています。

かんぽの保険、営業ノルマ廃止へ 不適切販売受け [かんぽ不正]:朝日新聞デジタル

他にも、かんぽの不正販売については、契約書の偽造等の問題まで発覚し、まだまだ抜本的な解決策が見えていません。

高橋洋一氏は、この問題の根本的な原因は、民主党政権時に、郵政民営化の方針が覆され、事実上の再国有化が起きたことにある、と主張しています。簡保生命保険は、健康診断が不要な「簡易な」保険であり、保障機能が不十分な商品なので、完全民営化によって、他の民間保険会社同様の保険商品を開発して売れるようにすべきだった、という趣旨です。商品に魅力がないから、結局は時代遅れのノルマ依存営業に頼った、という説明です。

gendai.ismedia.jp

私も、基本的には、高橋氏と同じ意見です。かんぽ生命でこれほど問題が大きくなったのは、何と言っても、民営化が達成されておらず、商品に制約があるうえに責任が曖昧なことが根本原因です。

既に本ブログで書きましたが、かんぽでは、民間の生保会社と違い、新旧契約の引き継ぎを行う「転換」がなく、「乗り換え」を行っていました。かんぽ生命は保険金の上限額が2千万円と決まっていて、新旧の契約を併存させにくく、新旧の契約に切れ目が生じるという課題がありました。この上限額というのは、かんぽ生命が事実上の国有であるから課せられる制限です。この制限のため、民間の保険会社のように、スムーズに新契約に移行する「転換」ではなく、いったん解約するような「乗り換え」方式をとっていたのが問題です。

このため、顧客が新しい保険契約に乗り換えできずに不利益を受けたり、逆に、一定期間の二重契約を強いられたりしていました。これにつき、7月13日のブログで書きました。

www.kaikakujapan.com

今日7月29日の朝日新聞も、契約の形態という点については、私の7月13日のブログと同様の見方を示しています。民間生保の「転換」なら、旧契約内容の一部を引き継ぐことが出来るけれど、かんぽの「乗り換え」だと旧契約を完全に解約する必要があるのが原因の一つだ、と書いています。なお、朝日によると、かんぽ生命は今回の問題を受け、「転換」制度の導入をようやく決めたようですが、システム変更などで時期は2021年4月以降と、かなり先になる、とのことです。

digital.asahi.com

しかし、実は、民間生保の「転換」というやり方についても大きな問題があり、トラブルはよく起きています。かんぽ生命で特に問題が大きくなったのは、民営化がされておらず、「転換」よりも問題のある「乗り換え」に頼らざるを得ないからですが、契約の「転換」についても、かんぽ生命の事件を契機に、監督を強化すべきです。

生命保険契約の「転換」とはどういうものか、少し以前になりますが、2014年に日経が解説しています。

ある契約者の具体例で、1980年代半ばに契約した保険を新契約に転換したケースです。1980年代の契約ですから、利回りは5.5%もある、いわゆる「お宝保険」でしたが、更新のときに保険会社に、これから「保険料が上がる」と言われて解約、同じ会社で新しい保険に入り直しました。これが「転換」です。

すると、新契約の利回りは下がったうえに、保険料まで保険会社の説明と反対に上がりました。

その理由が重要なのですが、「転換」のとき、保険会社はそれまでの保険料で積み立てた責任準備金を、転換後の保険料に充てて一時的に安くして、責任準備金分の値引きが終わったら、保険料を以前より高くしてしまうのです(図A)。

 

(出所:日本経済新聞2014年1月23日)

損せず見直す「お宝保険」 高い利率守れる裏ワザ :日本経済新聞

これはとんでもないやり方で、保険料が当初安くなるのは自分で払っていた保険料が原資になっているだけで、全体的に見れば、新契約での保険料上昇と利回り低下で、転換などしたら、契約者は必ず損をすることになります。他の特約等との兼ね合いで、転換した方が有利という場合もゼロではないでしょうから、この販売手法自体を完全に禁止まではする必要はなくても、契約者にしっかりとした説明、情報開示が必要です。

なお、日経はこの記事で、生保各社が2013年までに「逆ザヤ」を解消できたのは、このような手法で契約者に約束した利回りを低下させたためではないか、と書いています。日経の記事は、「転換の際にはご注意を」と呼びかけているのですが、自己責任の注意だけで良い話でしょうか?日経は、2010年という昔から、「保険の転換にご注意を」と書いています。昔からある根深い問題であることが分かります。

www.nikkei.com

保険契約の「転換」については、トラブルの事例もネット上でいくらも見つかります。

転換契約の勧誘の際、は解約返戻金額が減額される等の不利益が生じうることの説明がなされなかったことから、消費者契約法4条2項による取消を認めた裁判例や、転換契約によって 満期までの支払金額が増えたり、利回りが大幅に下がったりすることの説明がなかったことにつき、仲裁で和解した事例等があります。

https://www.jcia.or.jp/publication/pdf/hanrei_08.pdf#search=%27%E4%BF%9D%E9%99%BA+%E8%BB%A2%E6%8F%9B%E5%A5%91%E7%B4%84%E8%A3%81%E5%88%A4%27

http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20190620_2.pdf#page=51

結局、かんぽ生命は、契約に制約があるので「乗り換え」という形で完全に契約を解除しないといけないから、二重契約等のひどい問題を起こしたけれど、それよりはいくらかマシな「転換」という手法をとっている民間生保も、顧客の利益を平気で害するような新契約への切り替えをやっている、ということです。

金利で苦しむ民間保険会社の外貨建て商品販売と、契約「転換」につき、監督強化を!

金融業界全体がそうですが、保険業界も、長年の超低金利政策で運用に苦しんでいます。超低金利政策は、保険業界に二つのインセンティブを与えています。

一つ目は、高金利を約束した従来の契約、いわゆる「お宝保険」を出来るだけ解約させよう、という誘因です。逆ザヤを解消して終わるはずはなく、昔の高金利契約を「転換」させればさせるほど、保険会社は利益を得るからです。このため、これからも、契約の転換によるトラブルは多発する恐れがあります。

二つ目は、運用を外貨建てで行う誘因です。海外の方が金利が高いのだから当たり前ですが、為替リスクについて、顧客にろくな説明をしていません。このため、この5年間で苦情が3倍にも増えています。外貨建て保険の販売の仕方に問題があることは散々指摘されているのに、全く改善されていないことを生保業界自身が認めています。委託販売をしている銀行業界も同罪です。

外貨保険の「見える化」進めよ :日本経済新聞

外貨建て保険、苦情5年で3倍に、生保協会が銀行と協議 :日本経済新聞

www.nikkei.com

生保協会長、外貨建て保険「対策効果、道半ば」 :日本経済新聞

国がなすべきことについて言えば、やはり金融庁の事前規制の強化が欠かせません。転換にせよ、外貨建て保険にせよ、販売する際の説明がなされてないのが問題なのですから、消費者契約法が適用されるケースです。にもかかわらず、トラブルは続いているのですから、やはり消費者契約法を通じた民事裁判での事後規制では、十分な抑止になっていません。

金融庁は、保険会社向けの総合的な監督指針の中に、契約の転換と、外貨建て保険について、特出しで詳しく説明すべき事項を挙げるべきです。指針を変えるだけなら、一番時間がかからないでしょう。今でも、コンプライアンス体制が整備されているかの評価項目等に「乗り換え」や「転換」について、保険募集方法を具体的に定めること等が挙がっていますが、上記のようなからくりをちゃんと明示すべきです。

保険会社向けの総合的な監督指針 : 金融庁

そして、可能ならば、保険業法やその規則のレベルでも、顧客にとって一番損害が生じるポイント(転換なら旧契約の保険料が新契約の当初値下げ分の原資に使われること等、外貨建て保険なら為替リスク)について、明示的に説明義務を課し、罰則も強化すべきです。

金融庁の報告書問題で老後の生活への不安が高まっている今、民間生保業界の今までのデタラメぶりを、金融庁苛斂誅求で糺していくべきです。