日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

スプリントとTモバイルの合併を米司法省が承認:周波数オークションを基本としつつ、要所で裁量行政の妙。

スプリントとTモバイルの合併を米司法省が承認しました。通信会社は4社から3社に減りますが、司法省はスプリントの携帯事業を分離させ、無線免許も分割移譲させます。スプリントがもともと周波数オークションで大量に入札していた電波を分割させて、別会社に譲渡させ、プリペイド携帯市場の競争は確保するという、オークションと裁量行政のうまい組み合わせです。日本は、まずは周波数オークションの実現が必要です。

話題が色々の合併話

日経によれば、米司法省が、米携帯通信大手のスプリントとTモバイルの合併を条件付きで承認しました。両社はプリペイド式携帯事業と周波数帯の一部を衛星テレビ大手のディッシュ・ネットワークに売却し、同社が第4の事業者として米携帯市場に参入します。一部の自治体は合併に反対していて、まだリスクはあります。

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スプリントと言えば、ソフトバンクの子会社なので、日本ではとにかく合併話が結局どうなって、ソフトバンクがどうなるのか、に関心が持たれてきました。日経が先月に、この件での「3つのポイント」として挙げたのは、合併交渉がもう3度目だということ、スプリントが単独では経営が難しいこと、実現しないとソフトバンクの経営に打撃だということでした。

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アメリカでは、政治的対立も話題になっています。

まず、民主党がこの合併に反対し続けてきました。米民主党上院議員7人を含む議員グループは12日、司法省と連邦通信委員会(FCC)に対し書簡で、合併に反対だと伝えていましたし、

Tモバイル・スプリント合併、民主党議員らが司法省に不承認要請 - ロイター

ニューヨーク州など10の自治体が11日、合併差し止めを求めて米裁判所に提訴しました。いずれの州の司法長官も民主党です。

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ウォールストリート・ジャーナルは、5Gでの競争を確保するためには、弱者連合の合併を認めて強い会社を作らせて、トップ2社に対抗できるようにすべきだ、との立場ですが、

jp.wsj.com

同紙は更に、これに反対する民主党を批判し、背景には、上位2社のベライゾンとAT&Tの労働組合の反対がある、としています。同紙社説から引用します。

そしていつもの通り、労働組合民主党が共闘している。AT&Tベライゾンの労働者を代表する全米通信労組(CWA)は、労組に加盟していないスプリントとTモバイルの合併に反対している。彼らが最も望まないのは、労組のないライバル会社が強くなることだ。同労組は民主党の大口献金者であり、11日には提訴に同調する形で州司法長官たちを支持した。

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一方、ワシントン・ポストは、競争政策の観点から、司法省がIT大手への調査を始めると言ったばかりなのに、携帯通信市場で巨大合併を認めるのはダブル・スタンダードでは、と書いています。

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あと、最近になって、FCCからTモバイル天下りがあったみたいですね。かの地では「回転ドア」と言いますが。

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というわけで、話題が満載の合併話です。

アメリカでの携帯市場の競争は守られるのか

問題は、この合併で、通信市場の競争がちゃんと守られるのか、です。

まず、アメリカの携帯大手のシェアは、以下のようになっています。上位2社のベライゾンとAT&Tが旧ベル系で、合わせて7割近いシェアになっています。非ベル系の2社については、Tモバイルは約18%、スプリントは約12%です。

 

日本経済新聞2019年6月13日

スプリント・Tモバイル合併に壁 主要州が差し止め提訴 :日本経済新聞

圧倒的なシェアを持つ上位二社に対し、弱者連合で3位、4位の二社が合併するのは、消費者にとって良いのかどうか。現在は4社体制で競争が行われて料金も比較的安いけれど、これが3社になったら、競争が減って価格が上がって消費者の利益を害するのではないか、というのが一つの見方です。米民主党はこの立場です。

これに対して、弱い2社のままでは、いずれ競争に負けてしまう、そうなれば、結局は上位2社のひどい寡占状態で一層価格は上がってしまう、それなら今のうちに合併して3社で競争させる方が良いのでは、という見方も出来ます。先に紹介したウォールストリート・ジャーナルや共和党は、この立場です。

どうすれば良いか?司法省の判断について、ITジャーナリストの小池良次氏の解説に基づいて、見ていきます。

まず、司法省はあくまで、ベル系2社と非ベル系2社から構成する「携帯4社体制」を望んでいます。巨大な2社への対抗勢力としてTモバイルUSとスプリントが競合してきた結果、米携帯電話業界は長年競争環境が維持されてきたので、それは守りたい、と。

特に、ベル系2社は、比較的余裕のある家計向きにポストペイド(後払い)で料金の高い携帯、非ベル系2社は、プリペイドで安い携帯を売ってきました。

Tモバイルとスプリントが統合すれば、プリペイド市場が独占になってしまうので、FCCは、スプリント傘下のブースト・モバイルを売却することを合併の承認条件としました。しかし、司法省は納得しません。ブーストがネットワークを新Tモバイルに依存したままでは(MVNO事業者のままでは)、結局は独占と同じ結果になりかねないからです。

そこで司法省は、小池良次氏の表現では「秘策」として、スプリントからブーストを分離するときに、無線免許の分割移譲を求めました。Tモバイルは19年5月末に終了した26ギガヘルツ帯の周波数オークションで、大量の無線免許を8億300万ドルで落札しています。これの分割をするべき、という条件付きで合併を認める、というのが司法省の考え方です。

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Tモバイルとスプリントの合併自体が、ベル系2社に対抗するために仮に必要だとするならば、少なくともプリペイド市場について2社の競争体制を守ろうとするのは、当局として妥当な判断でしょう。

また、通信行政の政策手法としても興味深いものです。電波の分配方法は、周波数オークションで行うけれど、その後に合併が起きて競争が阻害される恐れが出てきたら、裁量行政で別会社への電波移譲をさせる方向で押し切る、というやり方です。市場メカニズムと行政規制のうまい組み合わせに見えます。

日本は、まずは周波数オークション実現を

ひるがえって、本邦はどうでしょうか。総務省は今年4月、5G電波の「割り当て」を決定しました。IT media Mobileによれば、正確には、以下のような表現になります。

総務省の電波監理審議会は4月10日、同省から諮問を受けた「第5世代移動通信システムの導入のための特定基地局の開設計画の認定」について、原案を適当とする答申を行った。これにより、NTTドコモKDDI沖縄セルラー電話(以下まとめて「KDDI」)、ソフトバンク楽天モバイルの4者は2020年内に「5G(第5世代移動体通信システム)」による商用通信サービスを開始する見通しとなった。

www.itmedia.co.jp

要は、電波は入札するのではなくて、総務省の審議会が割り当て案を適当として、それに基づいて各通信会社に電波が分配される、という方法で、旧態依然たる裁量行政です。

この割り当てのひどいところは、通常国会での電波法改正によって周波数オークションの一部導入(と言っても、裁量行政での審査項目の一つに各社自身の「評価額」が加わるだけですが)が行われる直前に、駆け込み式で決まったところです。割り当てが事実上決まる審議会の答申が4月10日、改正電波法の可決が4月18日です。タイミングも含め、今回の割り当ての不当さ(ドコモとKDDIに有利な審査基準)につき、池田信夫氏が批判しています。

jbpress.ismedia.jp

審議会で競争政策や消費者保護の観点も含めて議論されるとは言っても、まずは電波について市場経済での評価を行ったうえで、公的な観点からの必要な介入を行うべきでしょう。スプリントとTモバイルの合併に関するアメリカ政府の判断で参考にすべきところは、入札制度という市場メカニズムと、競争条件確保のための無線免許の分割移譲という裁量行政との組み合わせにあります。日本では、まずは、改正電波法のような中途半端な形ではない、周波数オークションを導入すべきです。