日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

「誰がシリコンバレーを見張るのか」(ポリティコ):FTCの強化か、「フェイスブック省」の設立か、両方か

米司法省がIT大手を反トラスト法違反の疑いで調査。アメリカでは、IT大手の監督官庁をどこにするか議論されています。FTC強化、専門行政機関(「フェイスブック省」)が提案されていますが、両方やるべきです。

米司法省の調査でまた盛り上がる規制機関の議論

米司法省米IT大手に対し、反トラスト法違反の調査を行うと発表しました。前から言われてた話で、司法省のウェブサイトには短く出ているだけのようですが。

www.justice.gov

エリザベス・ウォーレン上院議員は当然大歓迎。

 また、フェイスブック社は決算発表の場で、FTCも同社を反トラスト法違反で調査していると公表しました。

www.nikkei.com

調査の始まった反トラスト法違反の疑いに先立ち、フェイスブック個人情報流出事件について、50億ドルの罰金でFTC和解が成立しましたが、本ブログで以前取り上げた通り、罰金はやはり安すぎる、と言われ続けています。

フェイスブックの個人情報不正利用の制裁50億ドル:手元キャッシュ450億ドル、株価上昇で全然効き目なし。どうすれば効果的か? - 日本の改革

ポリティコが、和解金額を決めたFTC内部の対立について書いています。FTCの和解決定は、FTCの5人の委員で3対2の多数決で決まりましたが、反対した2人の委員は、50億ドルでは全く抑止効果がないと怒っています。

FTCの委員は政治任用なようで、共和党民主党とはっきり分かれているそうですが、反対の2人は民主党です。来年の大統領選で民主党が政権を取ったら、フェイスブック等には相当厳しいことになりそうだ、とポリティコは言っていますが、同時に、共和党にもIT大手に厳しい議員がいます。トランプ大統領が、フェイスブックが保守派を排除しているのを批判しているのは周知の通りです。

www.politico.com

専門家やコメンテーターも、保守・リベラル問わず、IT大手批判で一致し始めているようです。ニューヨーク・タイムズは、フォックス・ニュースの番組ホスト、スティーヴ・ヒルトンと、オバマ政権でホワイトハウスにいたTim Wuコロンビア大教授が、ワシントンのカクテルパーティーで、「IT大手は分割すべきだ」ということで意気投合した、というエピソードを紹介しています。アメリカで「分断」が進んでるなどと言いますが、IT大手批判では、アメリカはエリザベス・ウォーレン説に収斂しつつあるようです。

www.nytimes.com

そんな雰囲気の中、ポリティコは「誰がシリコンバレーを見張るのか」というタイトルの記事で、IT大手の反トラスト法違反について所管するFTCが、人員も予算も全く足りないのではないか、という議論を報じています。FTCの予算は3億ドル、フルタイムのスタッフは1100人だそうです。FTCのサイモンズ委員長(トランプ大統領の指名)は、特にプライバシー保護の部門についての人員が少なすぎる、アイルランドでさえデータ保護委員会のスタッフが100人いるのに、FTCのプライバシー保護部門は40人だ、とこぼしているとか。そのうえ、FTCとフェイスブックの和解金が安すぎたということで、監督機関について議論が持ち上がっています。

www.politico.com

以下、上記記事に出てきた議論のまとめです。

一つは、プライバシー保護のための新しい行政機関を作るべきだ、という意見です。これは、民主党下院議員のZoe Lofgren and Anna Eshoo(ペロシ委員長の仲間だそうです)が言っています。スタッフ1600人で予算2億ドルのデジタル・プライバシー庁を作るべき、という主張です。アメリカはリーマン・ショック後に、ウォーレン氏の主張で消費者金融保護局を作りましたが、それに倣う形のようです。

もう一つは、IT大手プラットフォーマーだけを規制する特別の組織を作るべきだ、という意見です。イギリスでもdigital markets unitという名前で似たような機関が必要と言う議論があるようで、アメリカでは、消費者保護運動家のHarold Feld氏らが主張しています。 

https://www.publicknowledge.org/assets/uploads/documents/Case_for_the_Digital_Platform_Act_Harold_Feld_2019.pdf

なお、ウォーレン議員は、FTCが弱腰だと言う批判はしていますが、行政機関新設については、何とも言っていません。

最後に、新しい役所を作るより、FTCの体制強化を図るのが重要だ、という意見です。これは元FTCの消費者保護部門のディレクターだったJessica Rich氏が言っています。

以上、色々な意見でまた盛り上がりを見せていますが、もともとIT大手への新たな規制法については、既に提案がされていて、本ブログでも取り上げました。

ついにアメリカでも、グーグルとフェイスブックを反トラスト法で調査。企業分割は必要でも、現行法も問題あり。 - 日本の改革

たとえば、オバマ政権時代に反トラスト当局者だったエール大学のフィオーナ・スコット・モートン氏らが作成した報告書です。

https://research.chicagobooth.edu/-/media/research/stigler/pdfs/market-structure---report-as-of-15-may-2019.pdf?la=en&hash=B2F11FB118904F2AD701B78FA24F08CFF1C0F58F

この報告書の監督機関に関する議論では、FTCは必要だが、事後的な司法手続きで遅すぎる場合がある、そこで、事前に迅速に動ける行政機関も作って、FTCと補完的に使えばよい、つまりは、事後規制のFTCも、事前規制の新行政機関も、両方必要だ、という主張をしています(p78-79)。

IT大手の監督は、技術革新のスピードについていかなければいけません。一方、事前規制の公正さも必要です。そこでこの報告書では、行政権限で処分が出来るようにする代わり、本物の専門家が多数入って処分の妥当性を担保し、IT大手の当事者も参加させて公正さを担保する、というプランを示しています。私は、この案が一番バランスが取れて、実効性があると思います。

自民党案は事前規制を完全排除。公取の事後規制と迅速・公正な事前規制の組み合わせを!

では、我が国の議論はどうでしょうか?

まず、公正取引委員会の体制です。政府全体で規制改革に取り組んで競争重視の政策に転換するためには、競争秩序を守る公正取引委員会の組織を充実させるのは、理にかなっています。公取自身は、「公正取引委員会の体制については,年々,整備・充実が図られてきている」としていますが、この数年間、人員はほとんど変わらず、予算も増えたり減ったりです。

f:id:kaikakujapan:20190726110328p:plain

出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/katudou_h31_4.pdf#search=%27%E5%85%AC%E6%AD%A3%E5%8F%96%E5%BC%95%E5%93%A1%E4%BC%9A+%E5%BC%B7%E5%8C%96%27

アメリカのFTCの人員は1100人ですが、日本の公取は、意外なことに、800人以上もいます。人口比で考えれば、まずまずの規模に見えます。しかし、予算が少なくて、アメリカは3億ドル(約330億円)、日本は100億円です。ほとんどは人件費でしょうし、スタッフの数はそれほど変わらないのだから、おそらく一人当たりの給料・報酬が違うのでしょう。今後、IT分野に詳しい専門家を海外からも来てもらうことまで考えれば、ここはもっと予算をつけてもいいと思います。

自民党の競争政策調査会伊藤達也会長)は、既に4月に、IT大手への規制を強化する新法の策定を求める提言「デジタル経済における公平・公正なルールづくりに向けて (第一次提言)」 をまとめ、政府に申し入れました。

自民、巨大IT企業規制へ新法策定提言 公取委の体制強化も要求 :日本経済新聞

官房長官へ申し入れ | 衆議院議員 伊藤達也公式ホームページ(自民党所属)

この提言のうち、監督機関に関する部分では、第一に、「専門組織の創設」を掲げています。「特定省庁に閉じない形で運営される」、専門性があって競争状況を評価できる組織を早期に創設すべき、としています。イメージはまだはっきりしませんが、特定省庁に閉じないというのだから、おそらくは内閣官房内閣府に置くのでしょう。第二に、公正取引委員会の強化、を挙げています。

一見、先に紹介した、モートン氏らの報告書と似ています。しかし、どうも権限がそれよりは限られているように見えます。自民党の提言は、「イノベーションの過剰な抑止とならないよう、包括的で介入的な事前規制ではなく、独占禁止法違反に対する牽制効果をもち、 中小・ベンチャーの合理的な選択を促す規律」にすべき、と言っています。

https://www.tatsuyaito.com/CMS/wp-content/uploads/2019/04/0e2089ab116d6c18aedc923facc100aa.pdf

技術革新の邪魔をしないために、過剰な事前規制にならないようにするのは当然ですが、一方で、競争を促進するための規制であれば、採用すべきです。自民党案は、基本的に独禁法違反を牽制する、という内容ですが、モートン氏らの報告書では、より進んで、どのサービスでも使えるIDの標準を作ったり、合併の審査を行う等の、より強い事前規制もいくつか提案しているので、そうした手段も検討すべきでしょう。

いずれにせよ、事後規制中心の公取の強化に加え、事前規制も行える、デジタル専門の新たな行政機関の設立を目指すべきです。