日本の改革

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EU離脱でイギリスの混乱から学ぶべきは、政治制度・手法の失敗よりも、移民受け入れの失敗。

日経が、EU離脱に関するイギリスの混乱から、政治手法についての反面教師にすべきだ、と言っています。一理ありますが、そもそもEU離脱を決める原因となった移民の受け入れ過ぎたことこそが、政治的な混乱を招いたと見るべきです。

ボリス・ジョンソン氏の首相就任

EU離脱で揺れるイギリスで、ボリス・ジョンソン氏が新しい首相になります。メイ首相がEUとの間で合意した離脱が出来るのか、合意なしの離脱になるのか、注目されています。フィナンシャル・タイムズの日本語訳版は、ジョンソン氏の、EUよりもアメリカ重視の姿勢を揶揄しています。イギリスはもう、EUにもアメリカにも大きなことを言えるような国ではない、という趣旨のようです。

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EU離脱について、イギリスとEUとで一応合意した案では、財の貿易、投資、金融・サービス、電子商取引等については、出来るだけ自由貿易に近い形にする、しかし、EU諸国からの人間の自由移動は終了する、というのが大きな柱です。

図表4 「将来の関係の政治合意」の経済パートナーシップの概要

 出所:伊藤 さゆり(2019)「ノー・ブレグジット(離脱撤回)という選択肢-経済合理性はあるが、分断は解消しないおそれ」(ニッセイ基礎研究所

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62066&pno=3?site=nli

もめているのは、EU加盟国であるアイルランドとイギリス領である北アイルランドの国境についてです。離脱後にも今のように国境を開放しておくならば、イギリス全体が事実上、EUの関税同盟に残り続けるというのがメイ政権とEUの合意案です。

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これでは意味がないということで、イギリス議会でこの案が否決され、新首相のジョンソン氏は、合意なしの離脱も辞さない強い姿勢で臨むと言われています。ただ、ジョンソン氏は現実主義者だし、EUとの妥協もあるかもしれない、その場合、また議会が否決するかもしれない、要するに、今後どうなるかは相変わらず分からない、ということのようです。

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今のイギリスから何を学ぶか:日経は反面教師として、政治の失敗に学べと言う

日経の論説フェロー(というのが何だか分かりませんが)の芹川洋一氏は 、イギリスがEU離脱について、すっかり「決められない政治」になって右往左往しているのを嘲笑して、「他山の石」として、政治の失敗例として学ぶべき、と言います。国際政治学者の細谷雄一・慶大教授の主張に基づき、三つの失敗があった、と書いています。

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第一に、そもそも2016年の国民投票が失敗だった、と言います。キャメロン首相が、欧州議会で英国独立党が議席を伸ばしたのに対抗するため、「残留」の結論を求めて国民投票をしたら、52%対48%で「離脱」になりました。

細谷教授はこれを、「複雑な問題をあまりに単純化し二択にして国民が意思表示した結果、英国は機能不全になった」と言い、日経の芹川氏も同調しています。

第二に、メイ首相が、総選挙で政権基盤を固めようとして失敗したことを挙げています。保守党は逆に過半数割れで連立政権となってしまいました。

第三に、解散権が制限されていることです。イギリスでは2011年の「議会任期固定法」で下院議員の5年の任期を固定し、解散するには下院の3分の2以上の賛成が必要となりました。この結果、2018年11月に閣議決定したEUとの離脱合意案を、議会は3度にわたって否決することまで出来て、堂々巡りになっている、という主張です。

ということで、日経の芹川氏は、日本の現状への示唆として、国民投票はリスクが非常に高いので慎重にやるべきと言いたいようで、あとは、立憲民主党等の言う解散権の制限には反対なようです。

低技能労働者の受け入れ失敗が妥協

 芹川氏の言うように、EU離脱に伴うイギリスの大混乱ぶりは、世界を呆れさせています。そもそもの原因として、政治制度や手法が悪かった、というのも、一理はあるでしょう。芹川氏の主張の中では、解散権の制限のせいで議会が強くなり過ぎた、というのは、ちょっと自民党寄りの意見には見えますが、イギリスの現状を見れば、なるほどと思います。

ただ、政治制度や政治手法というのは、抽象的に存在しているのではなくて、具体的な政治課題との関係でも見る必要があります。今回のような、一回限りの国民投票への評価についてはなおさらです。

私は、国民投票のような直接民主主義的な政治手法は、決定事項を明確に決めるならば、もっとやるべきだと思います。既得権政治の弊害は、間接民主主義によって大きくなっていると思いますし、イギリスや日本のような議院内閣制の国では、国の大きな方針について、国民と国のリーダー(総理大臣や大統領)との間に、距離が大きいからです。

EU離脱に関する国民投票は、EUという政治共同体に留まるのか、抜けるのか、という問題について行われており、何を決めるかは比較的はっきりしていました。確かに、その過程についてどうするか、十分に詰めないままに国民投票をしてしまったのは問題だったろうと思います。しかし、これは極めて大きな問題であり、外交・安保から、経済・社会、更には文化的アイデンティティにまで至る広範な論点があります。キャメロン元首相の政治的動機が保身であったにせよ、国民に直接意見を聞いて決める、というやり方自体は否定されるべきではありません。

では、今日のイギリスの混乱は、なぜ起きているのでしょうか?

私は、そもそもEU離脱のもととなった移民問題、特に、低技能労働者の受け入れ過ぎが根本的な原因だと思います。日本はむしろ、その点についてのイギリスの誤りから学ぶべきです。

日経によれば、EU加盟国が一気に10カ国増えた2004年以降、当時のブレア政権が中・東欧8カ国の労働者を受け入れたことで、ポーランドを中心に約150万人の移民が英国に入国しました。キャメロン政権は移民数の制限に取り組みましたが、効果が上がりませんでした。

英、移民の社会福祉を制限 EUに承認要求へ :日本経済新聞

移民の流入について、グラフで表せば以下のようになります(孫引きですいません)。

 

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出所:労働政策研究・研修機構

EU離脱後の移民制度案の公表(イギリス:2019年5月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

グラフの、EU14は、西欧中心の加盟国(オーストリア、ベルギー、デンマークフィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガルアイルランド共和国、スペイン、スウェーデン)、EU8は東欧とバルト3国(チェコ共和国エストニアポーランドハンガリーラトビアリトアニア、スロヴァキア、スロヴェニア)、EU2は、東欧でも特に後進的なブルガリアルーマニアです。

見れば分かる通り、リーマンショックから回復した頃から、急激にEUの東欧諸国からの流入が急増して、これが大きな社会的摩擦を生んだのでしょう。逆に、2016年の国民投票以降、EU8からの流入は急激に減っているのが分かります。ただ、恐らく最も問題となるE2からの流入は減っていません。

先に紹介した、イギリスとEUと合意した離脱案でも、他の分野では建前上は「自由貿易圏」という表現が使われていますが、人の移動だけは、はっきりと自由移動を終了させる、としています。イギリスにとって、EU離脱の最重要項目はここにあることが分かります。

EU離脱後の移民制度案について、イギリスは、EU法に基づく移動の自由は廃止し、EU域内と域外に共通のルールを適用します。労働者の受け入れについても、技能水準や給与額を要件に厳格化が図る予定です。ただし、離脱後にはEU労働者の流入減少に伴って労働力不足が想定されることから、従来の受け入れ基準の引き下げや手続き簡素化のほか、移行措置として低技能労働者の期限付き受け入れ制度を導入するそうです。

これにつき、経済界は、厳格化されたら困ると言い、労働組合は、今でさえ劣悪な生活水準に置かれている低技能労働者の更なる受け入れに反対、ということで、意見は真っ二つ。離脱後にも、問題は残りそうです。

EU離脱後の移民制度案の公表(イギリス:2019年5月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

イギリス政府は、EU離脱後の移民制度を立案するにあたって、諮問機関からの報告("EEA migration in the UK: Final report")を受けています。その報告によると、意外なことに、移民流入による雇用・賃金等への影響は限定的で、医療・介護分野でも、サービスの需要よりも圧倒的に提供の担い手となっている、と分析されているようです。

EU離脱後の移民政策案、諮問機関が提言(イギリス:2019年1月)|労働政策研究・研修機構(JILPT)

ということは、客観的に言えば、移民の社会的コストは、通常思われているほど大きくはないのでしょう。それでも、確実ではないながら、一部の若年層・低技能層の雇用減少や、低賃金層の賃金水準の停滞につながったとの分析もある、とこの報告では言っているようです。

http://search.yahoo.co.jp/r/FOR=89flNppV3ihvyMTPWyVblVwPY163qv8BE3fmhQgdNF41oMgEEAsZiZHb98BY7mv8zmeH0DJVewSU5K4TMFaEG05zKBJMXtgd06tbvgO0h.Bax3cM5n_UGZeCLhVqzOWEVbfj5GFfv4d0lYUqZAzsATG46i_s4.t_ZnoRsHrmZghJH6cDPQVLUovdYTr7uCByL6Bx480O7RHxYsBoVYgOajwQIORk8iRTwfOiV5dyBZ8SmHSDxxbNL3Df0lzNOm.qTaYfITVjaRKANxyDpqqb_LuSNqzijzpV.QpObM89ckSaX_HKmzgS6QyZZBdMbeSBtBz6WM9GkxSFhd4-/_ylt=A2RCNFI9SzhdWisA2ESDTwx.;_ylu=X3oDMTBtNHJhZXRnBHBvcwMxBHNlYwNzcgRzbGsDdGl0bGU-/SIG=14f3vffkk/EXP=1564071165/**https%3A//assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/741926/Final_EEA_report.PDF

また、社会的コストが普通思われているより小さいにしても、「国民に普通どう思われているのか」が、やはり民主主義国家では重要です。たとえ経済全体で見て、合意なきEU離脱が大きなマイナスになると言われても、イギリス国民も離脱派の議員も、なかなか納得しないのは、これまで進められてきた移民政策が、十分な説明も納得感もなしに、とにかく労働需要があれば入れてしまってきたためなのでしょう。昔からEU離脱派だったジョンソン氏が新首相になるのは、民主的な政治過程で言えば、必然性が感じられることです。

日本が現在のイギリスから学ぶべきは、何と言ってもこの点にあります。安易に、ろくな説明もなしに、国民の納得もなしに、外国人労働者を受け入れ始めた安倍政権。そのツケは、必ずや来るでしょう。そのとき、我が国はイギリスを笑えないほどの混乱に陥っていることでしょう。