日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

契約書を作らない吉本に、公取から注意を受けるジャニーズ。昨年の公取報告書の内容を独占禁止法の条文に!

芸能界のデタラメな取引実態に、あらためて注目が集まっています。昨年2月の「人材と競争に関する検討会報告書」で「問題となる場合がある」とされた行為等につき、独占禁止法で明文化するよう、法改正すべきです。

闇営業問題の吉本には契約書なし、ジャニーズはSMAPへの仕打ちで公取から注意

芸能界の取引実態が、メディアから批判され、国からも問題視されています。

吉本興業ホールディングスの所属芸人が振り込み詐欺グループのイベントに出席、報酬を得ていた問題について、同社の大崎洋会長が日経で受けたインタビューは話題になりました。なんと、所属芸人との契約につき、書面による契約書を作成していないというのです。記事から引用します。

「吉本は長年、諾成契約という口頭による契約を交わしてきた。紙の契約書はないが、契約は存在する。法的にも問題なく、今後もこの契約方法は変わらない、芸人がテレビや映画に出演したり、書籍を出したりする時は、相手の会社と書面で契約を交わしている」
「ただ今回のことがあったので、全社員、全芸人と共同確認書を交わす。これで反社との決別を改めて確認、徹底する」

ということで、反社会勢力の仕事はしないという確認書は作るが、今後も契約書を作るつもりはないようです。理由について、昔は字の読めない芸人もいたから、家族的な会社だから等、下らない言い訳を並べています。

口頭のみの契約なら、報酬を極端に安くしたり恣意的に下げたりすることも容易で、それが反社会組織への営業につながったという認識は全く示していません。

日経は、暴力団排除に詳しい疋田淳弁護士のコメントとして、契約書を交わして闇営業を厳格に禁じ、組織として営業先の健全性をチェックするべきだ、という主張を載せています。

吉本興業会長「反社会勢力との決別徹底」 闇営業問題 :日本経済新聞

昨日は、アイドルグループ「SMAP」の元メンバーをテレビ番組に出演させないよう【圧力をかけた場合は】独占禁止法に触れるおそれがあるとして、公正取引委員会ジャニーズ事務所に「注意」をした、と報じられています。

実際に圧力をかけたとは認定できず、あくまで、もし圧力をかけていたなら、それは独禁法に抵触するおそれがあるから注意するように、ということです。公取は聞き取り調査をしたものの違反行為の認定に至らなかったようです。

digital.asahi.com

ジャニーズ事務所は、「注意」については全くふれず、「調査を受けた」ことを重く受け止め、今後は誤解を受けないよう留意する、というコメントを発表しています。誰が見ても不自然なことがいくらもあった出来事ですが、公取から注意を受けたことについては、反省の色どころか言及すらしていません。

弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います。

2019年7月17日報道に関するご報告 | ジャニーズ事務所 | Johnny & Associates

不祥事への対応は、どこの業界も、それどころか政府、政党、国会議員さえ、なかなか世論の理解を得られないものですが、それにしてもレベルの低いやり方です。

公正取引委「人材と競争に関する検討会報告書」の内容の明文化を!

こうした問題については、既に昨年2月、公正取引委員会が、「人材と競争に関する検討会報告書」を発表し、独占禁止法上の論点をまとめています。

この報告書は、エンターテインメントやスポーツの分野だけでなく、より広く、企業と雇用契約を結ばずに個人で仕事を引き受けるフリーランス人材の処遇改善も含めて、多様な働き方で個人が役務を提供する契約につき、独占禁止法上の保護を与えられないか、を検討したものです。本文はこちらで、

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

概要版はこちらです。

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/jinzaisetsumeikai_files/jinzai_pamph.pdf

この報告書がまとめられた背景につき、日経は、フリーランスでの働き方の普及を挙げています。フリーランスは副業・兼業の人を含めると約1100万人、今後も増加が見込まれるが、中には契約書面が交付されなかったり、報酬なしで追加作業を振られたりする例も多いため、としています。

www.nikkei.com

法律の専門家には、従来は労働法の分野と思われていたり、労働法と独占禁止法の狭間で救済手段がない分野に取り組んだところに新しさや意義が感じられるようです。

『人材と競争政策に関する検討会報告書』とその先にある問題 ~独禁法と労働法のあいだで揺れる芸能関係者とアスリート~ 小林利明|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts

https://www.jftc.go.jp/cprc/koukai/sympo/2019/190620sympo5.pdf

この報告書の意義は、ネット上での人材と企業のマッチングが普及したり、シェアリングエコノミーが広まったりしてフリーランスが増えた、という新しい時代への対応も、もちろん重要です。ただ、それ以前に、これまで極めて前近代的な商売が横行して、上下関係に基づく一方的な契約が当然視されていた一部の業界について、文字通り「近代化」を図るという役割も当然期待されます。これは業界を問わないでしょう。

まず、吉本興業の場合のような、口頭のみで発注を行う行為については、報告書の44ページに、「競争政策上望ましくない行為」として挙げられています。そして、「発注者は,書面により,報酬や発注内容といった取引条件を具体的に 明示することが望まれる」としています。

次に、ジャニーズについて問題になったようなケースについては、合理的に必要な範囲を超えた(専属)契約や、過大な競業避止義務が、「取引の相手方の利益を不当に奪い競争を妨げる行為」(優越的地位の濫用行為)になりうる、としています。報告書の第5、第6の部分が該当しますが、概要のポンチ絵を挙げておきます。

f:id:kaikakujapan:20190718120612p:plain

出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/jinzaisetsumeikai_files/jinzai_pamph.pdf

この報告書に挙げられた「競争政策上望ましくない行為」や「問題となる場合がある」行為の代表的な事例については、独占禁止法19条「不公正な取引方法」を列挙している2条9項に、明文で定めるべきだと思います。少なくとも、優越的地位ガイドラインには明記するべきでしょう。現状では、報告書が解釈準則になっているだけですが、主要な部分については、法令上の位置付けを行うべきです。報告書の内容が、競争促進のためにも、フリーランスや芸能人、スポーツ選手等の権利保護のためにも資するものとなっていますし、企業が育成のための投資を行った等の事情も配慮できるような、バランスのとれたものだからです。

エンターテインメントやフリーランスに関する独禁法の分野に限らず、通常の労働契約においても、中小企業の中には、未だに契約書を労働者に渡さないような場合も多いと聞きます。独禁法上の競争政策等の視点に加え、そもそも、仕事上の契約は対等な人間同士のものであり、身分関係に基づくものではない、という点につき、法令による一層の徹底を行うべきです。