日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

日経「市販薬あるのに病院処方5000億円」:処方薬より市販薬で、更に、処方薬の市販薬化で、患者も国も医療費節約!

日経が、市販薬があるのに病院処方される薬が5000億円分もあると報じています。患者には、市販薬の場合が安く済む場合もあります。患者の負担も国の医療費も減らすために、厚労省の検討会に参加する医師達は、国民・患者をもっと信頼して、医師の処方等がなくても使える薬を増やすべきです。

市販薬と同じ成分の薬を病院処方で買うのは何が問題か

今朝の日経一面トップ見出しは「市販薬あるのに病院処方5000億円」です。湿布や鼻炎薬など市販薬があるのに、利用者が病院に通って処方される医薬品の総額が5000億円を超す、と報じています。最近、日経は「漂流する社会保障」というシリーズで、医療費等の効率化の余地について書いており、いつも勉強になります。ただ、今回は、なるほどと思うところと、ちょっと気になるところがありました。

まず、ちょっと気になるところからです。

同じ薬でも、市販薬の方が、病院で処方されるよりも、薬代だけで言えば、高くつきます。市販薬は保険が適用されないのに、処方薬は保険が適用されるからです。

これにつき、日経は、以下のように書いています。

処方薬に頼る人が多いのは自己負担が軽いからだ。ある湿布薬を通販サイトで買うと598円(6月中旬)だが、病院で同量をもらうと3割負担は105円。アトピー性皮膚炎に使う薬を肌荒れを防ぐ保湿剤として使う人もいる。その薬は市販の4分の1以下の負担で手に入るため不必要な受診が相次いだ。

www.nikkei.com

しかし、これは本当に正しいでしょうか?病院やクリニックで処方してもらうなら、医師の取り分である医療費もかかりますし、調剤薬局の薬剤師の取り分である調剤料等もかかります。特に、医療費について、初診の場合は高い初診料がかかります。

一昨年のダイヤモンド・オンラインの記事で、フリーライターの早川幸子氏が、医療費や調剤料も含めた形で、本人負担の比較をしています。ロキソニン錠60㎎(12錠分)は、初診の場合、診療所で診てもらったうえで調剤薬局で買ったときと、市販薬として薬局で買うのと、全体として、どちらが安いか?

結論は、市販薬として買った方が安い、ということでした。薬代が保険で安くなる以上に、医療費と調剤料がかかるからです。

f:id:kaikakujapan:20190712084058p:plain

早川幸子『「病院の薬は市販薬より安く済む」は本当か』(ダイヤモンド・オンライン2017年9月8日)

「病院の薬は市販薬より安く済む」は本当か | 知らないと損する!医療費の裏ワザと落とし穴 | ダイヤモンド・オンライン

もちろん、市販薬と処方薬の価格の差(病院でもらった方が安くなる分)が、医療費と調剤料等の合計より大きくなる、つまり、全体として、病院に行った方が安くつく場合もあるはずです。

どちらの場合もありうるので、日経が言うように、「薬は市販の4分の1以下の負担で手に入るため不必要な受診が相次いだ」のかどうかは、また別途検討が必要でしょう(既に研究等もあるでしょうし、今後調べたいと思います)。

いずれにせよ、市販薬を使った方が、患者本人にとってむしろ安い、という場合については、患者にとってはもちろん、医療保険の負担を減らすことが出来るので、国民全体にとっても良いはずです。損をするのは医師と薬剤師だけ。それなら、安全性が確保できる限り、出来るだけ市販薬化を進めた方が良いことになります。

次に、日経の記事で、なるほどと思ったところです。

患者本人にとっては、病院でもらった方が安くなる、という場合でも、できるだけ市販薬にしてもらうべきだ、というのが日経の主張です。医療財政が厳しい上に、重篤な病気についてオプジーボやキムリア等の高額薬が相次いで登場する現状では、軽微な傷病であれば、セルフメディケーション、つまり、患者は出来るだけ自分で薬だけで治してください、ということです。

もともとは医師の処方が必要だったが副作用の心配が少ないとして一般用で認めた市販薬を「スイッチOTC」と言います。日経の記事のメッセージは、このOTC薬へのスイッチをもっと進めるべきなのに進んでいない、承認をなかなかしない医師達がけしからん、という現状への批判です。この点は、大いに「なるほど」と思ったところです。

処方薬の市販薬化の推進を!

処方薬のOTC化等のこれまでの経緯は、以下の通りです。

最初は小泉改革でした。 2002 年 11 月 8 日一般用医薬品承認審査合理化等検討会において、「セルフメディケーションにおける一般用医薬品のあり方について(中間報告書)」として、一般用医薬品の範囲の見直し等が提言されました。処方薬の市販薬化を進めようとする方向です。

一般用医薬品承認審査合理化等検討会の中間報告書

その後、2009 年に施行された今の薬機法で、一般用医薬品は、そのリスクの程度に応じて第 1 類医薬品、第 2 類医薬品及び第 3 類医薬品の 3 つの区分に分けられました。何の意味があるのかと言えば、第1類と第2類は、厚生労働省令で、郵便やネットで販売はダメで、必ず薬局で薬剤師が対面で売れ、と決めたということです。 

これを、インターネット通販会社のケンコーコムウェルネットが訴えました。結局、2013 年 1 月の最高裁判決で、厚生労働省令で一律に第 1 類・第 2 類医薬品の郵便等販売を禁止することは、薬機法の委任の範囲を超えるものであり、違法・無効とされました。

大衆薬ネット販売認める 最高裁「国の規制は違法」 :日本経済新聞

で、これでネット販売が実現したかというと、そうはなりません。「医療用医薬品に準じた新たなカテゴリー」とかいう言い方で、対面販売が必要な「要指導医薬品」が薬機法に定められてしまい、改正法は2014 年 6 月 に施行されました。 改正法では、処方薬ではなくなって原則3年以内の薬を「要指導医薬品」に分類して、薬剤師の対面販売を義務付け、ネット販売を禁じています。

これに対して、また訴訟が起きます。ケンコーコム楽天子会社となり、楽天が当事者となって、ネット販売規制の取り消しを求めた訴訟ですが、東京地裁楽天は負けて、法律による規制は合憲だ、という判断が2017年7月18日に下されます。

www.nikkei.com

こうした動きと並行して、厚労省も2016年4月から、処方薬から要指導薬や一般薬へのスイッチを更に進めるため、「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」が設けられ、現在も議論が行われています。

医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議|厚生労働省

以上の経緯や処方薬の市販薬化の国際比較については、以下リンクの「一般用医薬品の地域医療における役割と国際動向に関する研究報告」にも(訴訟の件以外は)まとめられています。

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000126356_8.pdf

市販薬化を積極的に進めようとしている業界団体もあります。日本OTC医薬品協会は、他国と比べて、日本は処方薬からOTC薬へのスイッチが遅いとして、「スイッチ・ラグの解消」を重点項目に掲げて活動しています。同協会によれば、海外と比べてスイッチ化は5年~28年遅れているということです。f:id:kaikakujapan:20190712115721p:plain

出所:日本OTC医薬品協会(ダイヤモンド・ドラッグストア2019年5月29日)

日本OTC医薬品協会 重点取り組みに「スイッチ・ラグの解消」を明記!_小売・物流業界で働く人の情報サイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】

安全性の確保が大前提なのは当然として、医師や薬剤師やその団体だけで、処方薬の市販薬化の是非を決定するのでは、利益相反の問題があります。厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」も、一応は委員に産経や国民生活センターの人も入れていますが、まだまだ圧倒的に医師・薬剤師・その関係団体の委員で議論が進められています。それでも、厚労省は出来るだけ透明にしようということで、パブコメもやっているようです。

私たちも、厚労省での検討会議の議論に関心を持ち、分かる範囲で声を上げ、出来るところからセルフメディケーションを実施して、自分も国も健康にしていきたいものです。