日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

アメリカの超富裕層も賛成し始めた富裕税。日本の「休眠」金融資産は、①個人への資産課税、②企業への内部留保課税、③政府出資法人への行政改革で吐き出させ、有効利用すべき。

アメリカで超富裕層が、ウォーレン上院議員の主張する富裕税に賛成しています。資産格差を是正し、政府の財源にすることが当事者にも理解されています。日本の金融資産の有効活用のためには、①個人には富裕税を課し、②企業には内部留保課税を行い、③政府出資法人に対しては、行政改革で金融資産を吐き出させるべきです。

アメリカのスーパーリッチが賛成する、ウォーレンの富裕税:10年間で300兆円

日本では、老後に年金だけでは2000万円足りないから貯金しましょう、いやそんなに貯められない、と、つましい議論をしている昨今ですが、アメリカでは、超富裕層が豪気に「俺たちにもっと課税しろ」と言い出しました。そして、地球温暖化、教育、インフラ整備等に使ってくれ、と主張しています。

投資家のジョージ・ソロス氏、フェイスブックの共同創設者のクリス・ヒューズ氏らが、来年の大統領選立候補達に、公開書簡で、一部候補者が主張する、超富裕層を対象にした資産課税に賛成する、と言っています。「アメリカには、裕福な者に対してさらに課税するための、道徳的で倫理的で経済的な責任がある」とのことです。

www.bbc.com

公開書簡はこちらです。参照文献まで詳細につけられていて、充実した内容です。

medium.com

この公開書簡、特に、エリザベス・ウォーレン上院議員が主張する富裕税を賞賛しています。

ウォーレンの主張については、今年2月に、本ブログで紹介しました。アメリカの世論調査では61%の支持を得ていると言います。既にその頃、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)も前向きに評価していました。

www.kaikakujapan.com

ウォーレンの富裕税は、以下の通りです。

①純資産が5000万ドル(約55億円)以下の家計は非課税(99.9%の家計)
②純資産が5000万ドルから1億ドル(約110億円)の家計に純資産2%を課税
③純資産が1億ドル超の家計に純資産3%を課税

非課税の①の家計が全体の99.9%ですから、課税対象となる②、③の家計は全体のわずか0.1%、数にして、75000家計だとしています。税収見込みは、10年間で2.75兆ドル(約300兆円)にもなると予測されています。

資産課税の欠点は、正確な資産を把捉するのが難しいことや、海外への資産逃避ですが、これらについての対策も付加されています(国税当局の予算増加や富裕層による国籍離脱時の課税等)。

www.warren.senate.gov

富裕層の資産分布や税収について分析・試算を行ったのは、カリフォルニア大学バークレー校の二人の経済学者、 Emmanuel Saezと、 Gabriel Zucmanです。資産課税を毎年課したら、どんどんなくなってしまうのでは、と思いましたが、この二人の経済学者によると、こうした超富裕層の富は、なんと毎年5%くらい成長し続けているそうです。格差も広がるわけですね。

https://www.warren.senate.gov/imo/media/doc/saez-zucman-wealthtax.pdf

もともと、ウォーレンのスタッフが、SaezとZucmanによる格差拡大の論文に興味を持って、政策でのアドバイスを依頼したようです。ウォーレン案はおそらく、アメリカで現在提案されている富裕税案の中では、一番しっかり作られているものでしょう。

news.berkeley.edu

資産に対する課税は、適切になされるなら、フローの経済活動に対する課税である所得税法人税よりも、経済への歪みは少なくできるでしょう。また、単なるゼロサムゲームでの移転で取得した資産については、政策実現のために、一部に課税して政府が再投資に利用することは、正当化されるでしょう。

我が国においてさえ、リーマンショックの後には、小林慶一郎氏が「既得権層に資産課税すべきだ」と主張していました。

https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/kobayashi/43.html

家計、企業、政府に散らばっている金融資産の有効利用を!

日本でも、超富裕層に対する資産課税は行うべきです。ただ、日本はアメリカほど超富裕層がいないし一人が平均的に持っている資産も少ないでしょう。日本の場合、個人よりも企業と政府が大事にされてきた政治的・制度的背景に対応して、企業と政府に資産がたまっています。政府が財源調達をするためには、ここにも着目すべきです。

まずは家計、超富裕層に対する課税についてです。

そもそも、日本には、ウォーレン税の対象になるような超富裕層はどれくらいいるのでしょうか。日銀の資金循環統計によれば、昨年12月時点の家計の資産は1800兆円、負債は300兆円ですから、純資産は1500兆円です。全体で見れば、相当の純資産です。

https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf#search=%27%E5%80%8B%E4%BA%BA%E9%87%91%E8%9E%8D%E8%B3%87%E7%94%A3+%E7%B4%94%E8%B3%87%E7%94%A3%27

問題は、このうち、どれくらいが「超富裕層」の純資産か、です。Gigazineの孫引きですが、イギリスの不動産総合コンサルティング企業のKnight Frankによると、総資産5000万ドル(55億円)を越える超富裕層は世界に12万9730人おり、アメリカは3万8500人だとしています。これは総資産ですから、これまであげてきた純資産のデータとは最初から違うのですが、Saezらの推計による75000家計(人数はもっと多いはず)より、だいぶ少な目です。信頼性はいまひとつですが、このデータでは、総資産5000万ドルを越える超富裕層の日本人は、9960人、つまり1万人弱だそうです。

gigazine.net

アメリカについて、Saezらの研究(こちらの方が学問的に厳密であてになりそうに思います)よりもだいぶ少なく出ているので、日本についても、本当はもっといるかもしれません。ただ、いずれにしても、日本でウォーレン税を導入した場合、人数の点でも、一人当たりの資産についても、アメリカよりだいぶ少ないでしょうから、税収は数分の1程度でしょう。仮に得られる税収が10分の1くらいだとして、10年で30兆円、1年で3兆円くらいでしょうか。それでも、これだけあれば、大学までの教育無償化はほぼ実現できますし、大きな財源の必要な政策が実現できます。

次に、内部留保課税です。これについては、以前も、本ブログで取り上げました。2017年の内部留保(利益剰余金)は史上最高の446兆円でした。これに対して、主に賃上げ目的で内部留保課税を課して、賃金として外に吐き出させれば、家計にお金が回り、それが消費増や税収増につながるという経済の好循環が実現できるでしょう。内部留保課税は、それ自体が税収を生むものではなく、企業活動に対する誘因効果を狙って導入すべき税です。

https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/h29.pdf

政府・与党・野党・国民は、力を合わせて、経団連の抵抗を排して、内部留保課税を実現しましょう! - 日本の改革

最後に、政府の溜まり金です。課税でなく、行政改革によって、無駄に死蔵している金融資産を国民に返還させるべきです。これには、特別会計もありますが、今日は、政府出資法人について見てみます。

平成29年度の決算検査報告によると、 国が資本金の 2 分の 1 以上を出資している法人の純資産は、114兆円にもなります。これがすべてムダとは言いませんが、政府出資法人の純資産の水準については、厳しく見直していくべきです。政府出資法人のうち、独立行政法人も未だに83法人にもなっており、統合再編による効率化だけでも、かなりの部分は有効利用できるはずです。

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出所:会計検査院

http://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy29_16_zaisei.pdf.pdf

アメリカでは、力のある個人を大事にし過ぎた結果、超富裕層にお金がたまり過ぎました。日本では、個人を一部甘やかして、金融所得課税の税率が低すぎるという問題はあります。そのせいで、所得が高ければ高いほど実効税率が下がるというひどい矛盾があり、早急に是正すべきです。それに加えて、資産格差是正のため、ウォーレンが主張するような超富裕層税も必要です。

ただ、日本の問題は、富裕層甘やかしだけではありません。大企業も、政府出資法人も、あり余る金融資産を有効活用できていません。これを、課税や行政改革の形で、特に将来への投資に使っていくべきです。