日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

年金2000万円「不足」問題、最初の麻生発言が最悪。国民の納得は、年金の個人勘定化と、高齢者間の税による再分配で。

年金2000万円「不足」が問題となったのは、麻生大臣の最初の発言が原因です。年金に国民の納得を得て、老後の生活費を補うには、①年金への個人勘定の導入と、②高齢者間の所得税(特に金融所得)での再分配が有効です。

炎上の理由は麻生大臣の最初の発言。政府・業界向けの報告書で、国民に説教

金融庁の報告書をめぐって、政府が野党から批判されています。原因は、やはり、麻生財務大臣・金融担当大臣の最初の発言にあります。

問題になっているのは、金融庁の金融審議会がまとめた市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」です。

この報告書の内容は、以下の一枚のポンチ絵で表されています。麻生大臣は、たぶん、この紙でレクを受けて、不用意に発言したんでしょう。

f:id:kaikakujapan:20190613104714p:plain

出所:金融庁

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/03.pdf

ごちゃごちゃ書いてありますが、言ってることは単純で、これまで80歳までを想定した資産形成・管理を前提とした制度や金融商品が中心となっていたのを、100歳までを想定した制度・金融商品にする必要がある、当然、今までより早めに貯蓄等の準備する必要がある、だから、行政や業界団体がそれに合わせて対応しましょう、という内容です。

言うまでもなく、この報告書の名宛人は、一番下の囲みにある通り、「行政や業界団体」です。それくらいは、麻生大臣含め誰でも分かるでしょう。ところが、麻生大臣は、一番左上の「ライフステージ別の【留意点】」とあるのを見て、「そうか、国民にも注意を促す内容か」と思ったんじゃないでしょうか。ポンチ絵のタイトルも「高齢社会における資産管理・形成」で、資産を管理したり形成したりするのは、国民自身ですし。

そこで、もともと政府・業界向け提言とは知りつつ、どっちにしろ現場では、早めの資産形成・管理を国民に促すんだろうから、大臣の自分が一言で分かりやすく、ということだったのでしょう。そこで、

「100歳まで生きる前提で退職金を計算してみたことあるか。今のうちから考えておかないといかん」

と発言。もともと政府・業界が名宛人の提言を、国民向けの説教に使いました。これが国民の怒りを買いました。立憲民主党の枝野氏が、発言が「上から目線」だ、と批判したのは、その意味で、発言の問題点を正確に突いた言い方でした。

www.nikkei.com

発言が叩かれ始めた後の危機管理も、政府・与党ともにめちゃくちゃ。麻生大臣が、この報告書を受け取らない、つまり政府の立場ではない、と言い出して、自民党の森山国対委員長は、報告書自体がもう存在しない、存在しない報告書をもとに予算委員会は開けない、と発言しました。

麻生氏、報告書「受け取らない」…老後に2千万円 : 政治 : 読売新聞オンライン

mainichi.jp

結局、財務金融委員会で取り上げることになったようですが、ここまでは、まるっきり政府・与党の一人相撲、自爆ばかりです。

年金への信頼感回復には年金の個人勘定化、老後の生活費不足には所得税での高齢者間再分配

では、年金制度について、どうすれば国民は納得してくれるでしょうか?これは、どのみち、大変難しい問題です。

野党の国会審議、年金について山ほどある細かい問題については、それなりに良い指摘もしています。国民民主党大塚耕平氏は、年金支給を65歳から70歳に繰り下げる制度が、建前は任意なのに、受給者から申請しないと自動的に70歳からになってしまう、と指摘しました。世代間公平を考えれば、支給年齢は70歳どころか75歳にしても良いくらいでしょうが、現状は受給者が選択できるという形なのに、姑息なやり方ではあります。

www.dpfp.or.jp

ただ、こうした細かいところでの改善点は指摘できても、今の制度を大きく改善するような提案は、政府・与党だけでなく、野党にも出来ていません。もともと、少子高齢化と人口減少という環境で、年金制度単独で国民が納得するような大きな改革は難しいからです。

現役世代の負担の大きさと世代間公平の問題を考えれば、年金給付は抑制せざるを得ません。だから政府も、高齢者も出来るだけ長く働ける環境を作ろうとしています。これは野党も分かっているはずです。だから、今のところは、金融庁の報告書についての麻生発言やその後の政府・与党の報告書に対する取扱い、という論点では、野党は元気に追及できても、年金自体の制度設計については、あまり突っ込めないし、突っ込むつもりもないでしょう。

ところがそんな中、維新の政治家達は、誰もかれも、ああしたら良いこうしたら良い、と、党内で方針も固めないまま、好き勝手に発信をしています。これはまずいと思います。

年金について、既に決まっている方針もあります。現状で、一番大胆な年金改革を主張しているのは、日本維新の会です。維新は、国政政党の結党当初から、現行の賦課方式、つまり、現役世代が引退世代の年金を支払う方式から、積立方式、つまり、現役世代は自分達の世代のための年金を積み立てて、現役世代が自分達の年金を支払う方式に移行すべきだ、と主張してきました。これは、世代間の公平を図り、高齢者よりも現役世代のための政治を目指そう、という思いとしては十分理解できます。

o-ishin.jp

しかし、この制度の導入は、はっきり言って無理です。理由は、現在の賦課方式から積立方式へ徐々に移行する際に、現役世代が現在の引退世代のための保険料と、自分達の積立のための保険料と両方払わなければならない、いわゆる二重の負担の問題が生じるからです。少しずつ負担をしていく形にするとしても、制度移行には100年はかかり、諸外国でも導入例はありません。この制度を責任をもって主張するには、厚労省等にデータをもとに保険数理と制度的詳細を含めてしっかり作らせる必要があり、とても野党が自分達で作ることなど出来ません。

維新が当初参考にしたのは、積立方式を以前は主張していた学習院大学鈴木亘教授の考え方ですが、鈴木氏も最近ではすっかりトーンダウンしてしまいました。(なお、制度移行方法についての鈴木説に関する解説は、たとえば以下をご参照ください。)

https://www.kansai-u.ac.jp/Keiseiken/publication/seminar/asset/seminar12/s197_2.pdf#search=%27%E5%B9%B4%E9%87%91+%E8%B3%A6%E8%AA%B2%E6%96%B9%E5%BC%8F+%E7%A9%8D%E7%AB%8B%E6%96%B9%E5%BC%8F%27

この方式を国民に訴えたところで、現実味が薄すぎて、ほとんど訴求力はないでしょう。第一、積立方式への移行時に、現役世代に長期間かけて結局は負担増を求めることになるので、少し突っ込まれたらすぐ反感を買うような案です。維新は、世代間公平を重視する姿勢を守りつつ、別の改革案を打ち出すべきです。

今回、問題になっているのは、年金自体への不信感と、超高齢社会での老後の生活費不足の二つの点です。それぞれについて、色々やるべきことはありますが、比較的実現の可能性が高そうなものを考えてみます。

まず、年金についてです。いずれにせよ、給付抑制は避けられないとするならば、一番大事なのは、国民に納得感を持ってもらうことです。

そのための方法の一つが、年金への個人勘定の導入です。これは、井堀 利宏氏 (政策研究大学院大学教授)が、以前から主張してきたものです。現在の年金制度は、全くのどんぶり勘定で、国民が支払った保険料はまとめて特別会計に入れられて、そこから受給者に支払われます。これを、国民一人一人の負担が誰の給付になるか、はっきり分かるように、個人勘定に移行する、という考え方です。具体的に想定するのは、現役世代が保険料を支払う際に、給付の受取人を指定できる、たとえば親を選ぶことが出来る、という制度です。

https://www.doyukai.or.jp/publish/2016/pdf/2016_4_07.pdf#search=%27%E5%B9%B4%E9%87%91+%E5%80%8B%E4%BA%BA%E5%8B%98%E5%AE%9A+%E4%BA%95%E5%A0%80%27

これならば、年金保険料をなぜ払うのか、もらえる年金はなぜこれほど少ないのか、という点についての国民の不満が大きく緩和されるでしょう。世代間の不公平感が、親子間での愛情や助け合いによって一定程度、解消できる効果が見込めます。

もちろん、これだけでは、所得の再分配の点で、不平等さは残ります。年金は純粋に社会保険として運営するのが理想ですが、どの方式や制度によるとしても、結局はかなりの不平等が残ります。報酬比例分の年金があるので、現役世代時の所得の不平等は、引退世代になっても続くからです。

マクロ経済スライドを所得によって変えるのは一案でしょう。しかし、マクロ経済スライドはインフレ率の範囲内の、かなり小さな削減でしかないので、十分な再分配効果はないでしょう。高所得者については年金給付を減らしたり、場合によってはゼロにする「掛け捨て」方式を維新はかつて提案し、今も主張されてはいますが、とても国民の納得は得られないと思います。

私は、問題を老後の生活費不足、老後の所得不平等の問題、とより広く捉えて、高齢者間の所得再分配を、所得税で行うべきだと思います。年金課税を見直して、所得ごとの税率を変える、というのも一つですが、年金以上に、年金以外の所得に着目すべきだと思います。特に、金融所得です。

金融所得課税については、以前のブログでも取り上げましたが、分離課税でわずか20%の税率にしているため、合計所得1億円以上で、税負担がどんどん小さくなる逆進性が所得税で生じているのは、どう考えてもおかしいはずです。そして、全体的に言えば、高齢者の方が金融所得は多いでしょう。

所得再分配のため、米国民主党議員は大金持ちに課税しろと言い、日本の旧民主党議員は消費税率を上げろと言う。 - 日本の改革

そこで、金融所得について、たとえば合計所得1億円超で税率40~50%にして、高齢者間の所得分配の原資にすべきと思います。これでも、老後の不平等や貧困の問題は完全には解決しませんが、実現可能性や即効性の点では、検討に値すると考えます。

超高齢社会で、高齢者の生活を充実させるのは、そう簡単なことではありません。いま喫緊の課題は、参議院選に向けて、どのような責任ある提言を行うかです。中長期的な大改革についての検討も必要ですが、まずは、年金への信頼回復、そして、現実に老後の生活を少しでも充実させられる提案が、どの政党にも求められています。特に、維新には、改革の大胆さと現実味と、バランスを良く考えた打ち出しを考えてほしいと願っています。