日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

ムーンショット型研究、文科省と経産省に1000億円:米中の「ムーンショット」は軍事戦略の一環で科学に投資。日本が巨額の科学投資するなら?

「壮大な目標」達成目指すムーンショット型研究開発制度が批判されています。問題はいくつかありますが、特に批判すべきは、科学技術政策単体の政策なことです。米中はそれぞれの軍事戦略として科学技術に注力しています。日本でなら、たとえばアメリカの第三のオフセット戦略にならって、核ミサイル無力化の研究等を安全保障政策として進めるべきです。

ムーンショット型研究開発制度、文科省経産省に1000億円

達成が困難に見える壮大な目標を設定する科学技術政策、ムーンショット型研究開発制度が批判されています。月面着陸を目指したケネディ大統領の政策にならって、野心的な目標を掲げた科学技術政策ということで、この名前になっています。2020年度第二次補正予算で1000億円が文科省経産省についています。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/moonshot/dai1/siryo1.pdf

朝日新聞は、大学の交付金は減らしているのに、リスクの高い成果不明の巨額予算をつけることはおかしい、として、以下のように叩いています。

国立大の運営費交付金は04年度以降で約1400億円減った一方、科学研究費補助金科研費)の増え幅は約500億円。MS制度のような「選択と集中」ではなく、多くの研究者に配分される科研費などを重視すべきだという意見は、研究者の間で根強い。文科省幹部も「単なる一点豪華主義になるのなら、科研費や運営費交付金を手厚くした方がいい」と話す。

digital.asahi.com

こうした批判は意識しているのでしょう、「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」の第3回目では、北野宏明委員が以下のような資料を示して、ムーンショット型の一方で、科研費交付金も必要だ、ということを言っています。

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出所:内閣府

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/moonshot/dai3/siryo2-1.pdf

 右側の赤字に、「科研費や運営交付金などの飛躍的充実と資金源の多様化が重要」とあるのは、文科省の従来予算も重要だから財務省がやたらめったら切るのはおかしいし、大学も寄付を集めるなど資金源を多様化する努力はしましょうね、ということでしょう。

財務省にこれまでやり過ぎがあったのはその通りだろうと思います。しかし、この資料からうかがわれる委員の考えは、朝日が言うのとは違う意味で、おかしいと思います。研究目的の科研費と、経常費も含めた経費である運営費交付金は、やはり区別すべきだからです。

本ブログでは、経常費に係る国立大学運営費交付金私学助成金という仕組みは大幅に見直すべき、と主張してきました。そして、大学への補助金は、文部科学省の裁量行政を廃止して、研究者による第三者機関が研究成果のみに応じて決める補助金と、学生数のみに応じて決める補助金とに整理すべきだ、と提案してきました。

今の補助金行政の問題は、文科省の裁量行政の下に下らないペーパーワークに研究者が忙殺される一方、肝心の予算は全体としては減らされていることです。それならば、文科省が介在しない、研究者による透明性のある制度の下でなら、科研費も大学への補助金の総額も、むしろ増えてもいいはずです。

大学への補助金改革の方向:文科省の裁量権撤廃、仕組みを変えて国民の合意得て研究費総額増も検討を。 - 日本の改革

しかし、先のムーンショット型研究開発のビジョナリー会議の資料では、従来型の科研費と運営費交付金が両方区別されずに、単にどちらも必要としています。これでは、大学行政の改革につながりませんし、ましてや、革新的な研究を生み出す新しい制度とも言えません。

更に大きな問題は、このビジョナリー会議の委員に、経済同友会代表幹事で三菱ケミカル取締役会長の小林喜光氏が座長として入っていることです。

ムーンショット型研究開発予算のうち200億円は経産省の予算として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発総合機構)に下ろされます。NEDOから更にお手盛りで、三菱ケミカルや小林氏が利害関係を持つ企業に便宜が図られるような決定もあり得ます。純粋に科学技術の問題としてやるならば、このような利益相反を生じそうな人は入れるべきではありません。

現に、小林氏は既に、「ビジョナリーからの提案」という資料で、「地球防衛隊」なるものを作ろう!と下らない提案をしていますが、その地球防衛隊のテーマ例として、CO2排出削減やプラスチックごみ問題の抜本的な解決を挙げています。CO2削減は、新型原発推進に必要だと言い出しかねませんし、プラスチックごみ問題は、もろに化学工業のテーマです。これまでプラごみ削減に反対し続けてきた業界の人間として何を言い出すか、ムーンショット型研究にこのテーマで何が入るか、注視が必要です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/moonshot/dai3/sanko6.pdf

アメリカと中国は、軍事戦略での勝敗を科学技術でつけようとしている

以上のように、現状の制度には、いくつか批判すべき点があります。しかし、それにも増して最大の問題は、これほどの予算で野心的な研究開発を行うのを、科学技術政策単独で行おうとしていることです。

ムーンショット型研究開発制度は、野心的な目標を掲げて成果を上げている諸外国の動向を勘案して、創設されました。ビジョナリー会議では、以下のような資料が出されています。

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内閣府

アメリカとフランスは、はっきりと国防目的の科学技術支援と分かりますし、中国はもともと軍事用と民生用の区別をはっきりさせずに科学技術支援を行っています。

中国は、特に湾岸戦争でのアメリカのハイテク戦争を見て以来、人民解放軍を大リストラして科学技術投資を行ってきました。1990年代末から提唱された「超限戦」はサイバー攻撃も含みますし、何より、習近平の「中国製造2025」が目指す「自力更生」は、軍事技術でアメリカの優位に立つことも含みます。事実、こうした科学技術の発展もあって、既にアメリカの軍事的優位は自明ではないと言われ始めています。

特別リポート:中国習近平の「強軍戦略」、米国の優位脅かす - ロイター

アメリカはこれに対して、2014年に「第三のオフセット戦略」として、先端軍事技術による優位性を確保しようとして、科学技術投資を行ってきました。その後、2018年にトランプ政権が対テロから対国家に戦略対象をシフトし、中国等との技術競争に負けないことを目指して、第三のオフセット戦略を事実上継承し、イノベーション中心の軍事戦略を立てています。

www.washingtonpost.com

各国の「ムーンショット型研究開発」は、こういう形で行われています。日本のムーンショット政策が、規模だけでなく、発想自体も、いかに貧相かが分かります。

日本が目指すべきは純粋に防衛型の科学技術の開発:核ミサイルはじめ大量破壊兵器の無力化

日本が破壊的、革新的なイノベーションを目指そうと本気で思うなら、やはり巨額の予算が必要です。巨額の予算をつけるには、国民の支持がなければ絶対にダメです。ムーンショット型研究開発制度は、内閣府の統合イノベーション戦略の一つと位置付けられていて、要は科学技術単体の問題になっていることが問題です。これでは、広い国民的合意が得られず、せっかく一時的に巨額予算を獲得しても、その後が続かないでしょう。

科学技術に1000億円「単位」の巨額予算を割くことに国民的合意を得るには、やはり明確な国家の意志が示される必要があります。具体的に目指すべき目標は社会保障でも何でも良いのですが、ここでは、安全保障上の目標を考えてみます。20世紀以降、当初は軍事的研究だったものが広く科学技術を発展させた歴史に鑑み、そして、米中が軍事戦略の一環として科学技術を重視している実態もあるからです。安全保障に関する巨額の科学投資で、国民が納得できる目標は、純粋に専守防衛目的であり、本当に国民に安心感を与えられるような防衛技術の実現です。

日本学術会議は、「軍事的安全保障研究に関する声明(2017年)」によって、軍事的安全保障研究となりうる研究について、一定の枠をはめています。

まず、当然ながら、「研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保」されるべき、としています。

また、大学等の各研究機関は、「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定」すべき、としています。これも、科学者コミュニティの態度として、全く当然のことであり、責任ある立派な自律のあり方です。

www.scj.go.jp

こうした厳しい自律の下、学術会議も各研究機関もガイドラインを定めて、科学者が自主的に、自律的に、自由に研究成果を公表できるような形で、純粋に防衛目的の技術の開発を行うべきです。政府とは独立した第三者機関による監察も加えるべきでしょう。

具体的な目標としては、本ブログで主張してきたような「核ミサイルの無力化」、あるいは更に進んで、「大量破壊兵器の無力化」等の目標を掲げるべきです。

北朝鮮の核ミサイルを無力化するには:独自のミサイル防衛完成、集団的自衛権拡張、「国民の、国民による、国民のための」国防の実現 - 日本の改革

何度でも繰り返し言いますが、核兵器の無力化というのは、アメリカでレーガン大統領が掲げた目標でもありました。まだまだミサイル防衛システムにしても指向性レーザー兵器にしても全く不十分です。だからこそ、理想として掲げる価値があります。

核ミサイルの無力化や大量破壊兵器の無力化は、将来出来るかどうかも分からない、しかし、実現すれば、世界は劇的に平和になる、そういう純粋に専守防衛に徹した技術です。平和国家日本が、その国の科学者が、本気になって打ち込むに値する研究テーマではないでしょうか?日本国民が、毎年数千億円の予算にも、条件次第で理解を示し得る理想ではないでしょうか?唯一の被爆国こそが掲げるべき理想ではないでしょうか?

科学技術に巨額予算をかけるべきだ、という方向には賛成です。しかし、それに見合うだけの高い理想は、一国の存立が関わるような、国家の存在意義を賭けるに値するような、国民の心を底の底から動かすようなものであるべきです。政府が、そのような理想を国民に向けて語ってくれることを望みます。