日本の改革

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ビバリーヒルズ市がタバコ販売禁止:タバコ・ゼロ社会は実現可能。消費の規制から製造・販売の禁止へ、「タバコ・エンドゲーム」の議論を始めましょう。

ビバリーヒルズ市が、タバコ販売禁止条例を制定。周辺市も検討中です。タバコ・ゼロ社会の実現に向けて、「タバコ・エンドゲーム」の議論を始めましょう。

ビバリーヒルズ市のタバコ販売禁止条例

ビバリーヒルズ市のタバコ販売禁止条例案が全会一致で可決され、2021年1月1日から、タバコの販売が禁止されることになりました。 在米ジャーナリストの飯塚真紀子氏が書いています。

news.yahoo.co.jp

飯塚氏の別の記事によると、この条約の(案段階での)中身は、全米でも最も厳しいもので、「通常のタバコ、巻きタバコ、パイプ・タバコ、噛みタバコ、電子タバコなど全てのタバコの販売を禁止」しており、ビバリーヒルズ市が、タバコの販売を禁止する全米最初の市となる、ということです。これまでも、同市が禁煙政策をリードしてきたことにつき、記事から引用します。 

1987年には、アメリカでは初めて、レストランや小売店での喫煙を禁止した。2014年に市議会は「ビバリーヒルズ・ヘルシー・シティー」イニシアティブを開始、2017年10月には、公道やレストランのアウトドア席から約6メートル以内、アパートやマンションなど集合住宅のロビーや廊下など共通エリアでの禁煙条例が成立。今年1月からはメンソール・タバコなどのフレーバー・タバコや電子タバコの販売が禁止された。

news.yahoo.co.jp

この条例、通るまでには、やはり相当の議論はあったようです。AP通信は、条例案が出されたときの喫煙者の反発や、ガソリンスタンドや商店主達の、労働者をレイオフせざるを得なくなるという声を紹介しています。

(なお、ビバリーヒルズはハリウッドのセレブ等も住む高級住宅街として知られていますが、大金持ちばかりが住んでいるわけではありません。記事中にある通り、中位所得は103,000ドル超ですが、9%の住民が貧困状態です。中位所得はさすがに高いですが、東京都港区の平均所得とそれほど変わらない水準です。最上位の大富豪は日本人の想像を絶する世界に住んでいるでしょうけれど、自治体全体として見れば、日本の自治体と異次元の富裕層コミュニティでもありません。)

https://www.apnews.com/f3ebed26586d40bbb516169bae90332f

結局、シガーラウンジとホテルだけ、例外を設けられました。シガーラウンジは2021年以降もタバコを売ってよいことになり、ホテルは、2021年以降、宿泊客にだけ売ってもよい、ということになりました。観光への影響につき、3年後の見直しも行います。以上の内容につき、ビバリーヒルズ市の発表は以下です。

www.beverlyhills.org

このように、多少の妥協は必要となりましたが、全く画期的な条例で、今後、アメリカ国内での条例や州法に大きな影響を与えるでしょう。ビバリーヒルズのミリシュ市長によると、既に、カリフォルニア州のマンハッタンビーチ市が同様の禁止条例を検討中ということです(CNBC)。

Beverly Hills Council approves sweeping ban on most tobacco sales

目指すのは「タバコ・ゼロ」。タバコ規制ではなく、タバコ禁止へ

この条例案について、早くからアドバイスをして、市議会でも証言しているのが、アメリカで最も伝統ある禁煙推進団体ASH(Action on Smoking and Health)のクリス・ボスティック(Chris Bostic)氏です。

ボスティック氏は、ロサンゼルス・タイムズで、「市議会のメンバーは、彼らが歴史を作っていることを完全に理解していたと思う」と、条例成立を歓迎するコメントをしています。

www.latimes.com

ボスティック氏の、ビバリーヒルズ市議会での証言の動画と文字起こしは、こちらです。

ash.org

市議会での証言で、ボスティック氏は、こうした条例の制定が、州法上も連邦法上も可能であることについて一言確認したうえで、タバコの存在自体が、健康に関する人権と両立し得ないこと、それが国際的にも認知されていることを主張しています。

同氏は、フィリップ・モリスが自社の人権憲章について、デンマークの人権団体にチェックを依頼したときの話を紹介しています。その団体の返答は、以下です。

“Tobacco is deeply harmful to human health and there can be no doubt that the production and marketing of tobacco is irreconcilable with the human right to health.”

「タバコは健康には極めて有害であり、タバコの製造と販売が健康に関する人権と両立不可能であることは疑いえない。」

ボスティック氏は、フィリップ・モリスが人権団体にこの依頼をしたのは「オウンゴールだった」と言っています。そして、この言葉はその後、「人権とタバコフリーな世界に関するケープタウン宣言」として、世界中の人権団体等から賛同を得ている、としています。このように、世界的にもタバコ販売は続けるべきではないと考える立場から、氏は、ビバリーヒルズのタバコ販売禁止条例(当時は案)を賞賛しています。(ケープタウン宣言と署名団体は以下です)

ash.org

このように、タバコの製造と販売自体を禁止することは、単なる理念ではなく、人権、健康に関する世界中の団体に認められ、ついにアメリカでも条例になりつつある、実現可能な目標になりつつあります。

ボスティック氏が代表する団体ASHは、2017年に、もはやタバコは規制(control)するのでは不十分であり、許容できるタバコ関連死の数は「ゼロ」だ、との方針を掲げました。そして、タバコが引き起こす損失を考えれば、タバコを通常の消費財として売ること自体が許容されず、毎年多数の死者を出しているタバコの商業的販売自体を終わらせる必要がある、と主張しています。

ash.org

ここで重要なのは、ASHが目指すのは喫煙者を罰することではなく、喫煙者は被害者だという認識の下、タバコ産業の行動に焦点を当てるべきだ、と主張していることです。そして、依存性と致死的な毒性のあるタバコの製造・販売自体を禁じるべきことを主張しています。ビバリーヒルズのタバコ販売禁止条例は、こうした理念が結実したものなのです。

いかにして、タバコ・ゼロを実現するか:タバコ・エンドゲームを話し合おう

このように、ASH等の団体の活動もあって、ついにタバコ販売禁止条例が現実のものとなりました。ASHの掲げる理念は、学問的、政策的な議論にも支えられています。その研究者が、上記のビバリーヒルズ市議会でも証言しているルース・マローン教授です。

tobacco.ucsf.edu

マローン教授が研究しているのが、「タバコ・エンドゲーム」についてです。タバコ・エンドゲームとは、タバコの存在を許して規制するだけの現状から、文字通り「タバコ・ゼロ社会」の実現を目指すことを言います。

これには、様々な政策手法があります。マローン教授は、これを、①商品ベースの規制(タバコのニコチン含有量の大幅減等)、②利用者ベースの規制(喫煙を免許制にする等)、③市場・供給ベースの規制(販売禁止等)、④制度ベースの規制(強力なタバコ規制庁設立等)に分類し、世界中の国・地方の規制についてメリット、デメリットを論じています。マローン氏自身は、何か単一の方法が絶対的に正しいとは考えていないようですが、タバコフリーな社会のためにこうした議論が必要で有益だ、との立場です。

www.ncbi.nlm.nih.gov

私は、日本でも、こうした「タバコ・エンドゲーム」の議論を是非始めるべきだと思います。

受動喫煙防止については、不十分とはいえ立法がなされ、自治体レベルでは、東京都はじめ、実効性の見込める規制が導入され始めました。しかし、これでは、喫煙者の健康に対する保護が全く不十分です。日本ではタバコの購入・消費が消費者の自己責任とされていて、企業は消費者にいくらでも売っていい、ということになっています。この現状を変えるべきです。タバコ会社は依存性と致死性の毒性がある商品をこれほど広範に販売しており、しかもそのターゲットには、未成年も含まれています。タバコに関する政策の目標はあくまで、タバコによる被害をなくすことであり、受動喫煙だけでなく、能動喫煙も防ぐ必要があります。

また、受動喫煙についても、法律も条例もどうしても不十分なところがあります。最も議論になった飲食店に対する規制について言えば、これは極めて間接的な規制であり、タバコ会社が対象ではないのはもちろん、喫煙者よりむしろ、第三者的な立場の企業を主な対象にしています。受動喫煙を生じさせないために、タバコの供給者、消費者のどちらでもない第三者に負担を負わせる側面があるのは否めません。タバコ依存の消費者を相手に禁煙と言うのが難しい、つらい、というのは、心理的な圧迫感等の点で言えば、もっともな面もあります。

こうした負担の末に受動喫煙を規制できるのは主として屋内であり、路上での受動喫煙は、千代田区はじめ各自治体が条例でいくら規制しても、全く実効性が上がっていません。健康増進法や条例の努力義務では、屋内・屋外を問わず受動喫煙を生じさせないよう求めていますが、残念ながら実効性には課題が残ります。

やはり、タバコ問題の根本原因は、タバコ企業の営利活動にある、と見るべきです。税収を求める財務省自治体も問題ではありますが、この問題で一番大きな駆動力をもって被害を生み出しているのは、タバコ会社と見るべきです。

この根本原因を除去するため、タバコの製造・販売自体を禁止するという「エンドゲーム」を始める 必要があります。ビバリーヒルズのタバコ販売禁止条例、そしておそらく今後続く南カリフォルニアの各自治体の規制は、タバコの製造・販売禁止が単なる理念でなく、実現可能な目標であることを示しています。

日本でさえ、沖縄県竹富島がタバコ販売の禁止に踏み切り、大きな効果を上げています。これは既に、本ブログでも取り上げました。

www.kaikakujapan.com

こうした世界の動き、日本の動きを更に推し進めるため、目標を「タバコ・ゼロ社会の実現」におき、ターゲットをタバコ会社に据えて、政策手段としては「タバコの製造・販売禁止」を目指す。その方向で、日本での「タバコ・エンドゲーム」の議論を始めるべきです。