日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

MaaS関連の国交省懇談会、なぜか、事業者等のヒアリング資料がほとんど非公開。利益相反等の問題点も国民に見せつつ、政策を決めるべき。

今日の要点

・全交通機関の定額使いたい放題等、新たな移動システムのMaaS。渋滞や環境負荷を減らす等のメリットが見込まれています。しかし、政策の方向性を決める国交省の懇談会で、企業等からのヒアリング資料のほとんどがなぜか非公開です。企業秘密や顧客プライバシーの保護等は当然必要ですが、そこまで要求する場ではないはずです。

・MaaSは、自動車メーカーと公共交通機関との競合、各事業者等のデータの出し惜しみ、あるいは、競争政策上の問題等、多くの課題もあります。そうしたマイナス面も、今のうちからちゃんと公開しつつ議論して、国民の信頼を確保すべきです。

MaaSに関する国交省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」、事業者等からのヒアリング資料が、なぜかほとんど非公開。

新たな移動システムとして、MaaS(Mobility as a Service)が注目されています。

フィンランドヘルシンキが先進都市で、「あらゆる移動手段(モビリティー)を統合し定額料金で提供することで需要を刺激し、公共交通へのシフト、タクシー利用が倍増といった成果を出した」と、日経が紹介しています。

タクシーを含め公共交通すべてを統合したアプリ「ウィム」で、利用者はルート、料金をスマホ上で探して選択。都度払いが原則ですが、1か月何でも乗り放題のプランもあります。公共交通に加えて、レンタカー、カーシェア、シェア自転車まで網羅し、決済までがアプリ1つで済むようです。日本では、福岡市で実証実験の段階で、まだここまで包括的なものはありません。

MaaS運営会社マース・グローバルが運営するシステムによるもので、日経によると、同社は日本での展開も考えているようです。同社のヒエタネンCEOは、日本でやるには十分な数のパートナーが必要だとしています。日本含め各地域で「唯一のオペレーターになるつもりはない」として、オープンな連携姿勢だということです。4月には、三井不動産との協業も発表されました。

www.nikkei.com

日本政府はというと、数年前から興味を持っていたようですが、昨年の「2018未来投資戦略」にも、MaaSの検討、実現、促進を行う旨、記載されるようになりました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf

MaaSのメリットとして指摘されているのは、マイカー減少やバス・タクシーの利用効率向上による渋滞の解消、環境負荷の低減、外出機会の増加、不動産・小売り・医療等あらゆる関連サービスとの連携による波及効果等、とにかく良いことづくめに見えます。

日本の国交省が特に気にした点として、地域公共交通の輸送人員が大幅に減り、事業者の6割が赤字で、高齢化も加わって、地域の足がなくなりつつある、という問題があります。そこで、日本版MaaSを作って、こうした問題を解消するとともに、MaaSがもたらす多くのメリットも生かそう、ということになっています。国交省ポンチ絵を紹介します。

こんな↓厳しい地域の公共交通の現状を・・・

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出所:国交省作成、経済産業省サイトに掲載

こんな風に↓変えよう!ということです。

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出所:国交省作成、経済産業省サイト掲載

そこで、国交省は、「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」という研究会を昨年10月に立ち上げ、事業者等からのヒアリングを経て、今年3月に、中間とりまとめを公表しました。

とりまとめによると、地域ごとに異なる課題に対応するため、「大都市型」「大都市近郊型」「地方都市型」「地方郊外・過疎地型」「観光地型」の5つの地域類型に分けています。そして、地域類型に応じて、たとえば「大都市型」なら混雑解消、「地方校外・過疎地型」ならサービスの維持(同時にコンパクト化への対応も)等、類型ごとに課題を提示し、今後解決を目指す、ということです。

http://www.mlit.go.jp/common/001280181.pdf

とりまとめで言っていることは、なるほどと思えることばかりですし、この方向で検討すればよいと思います。現在は、経済産業省や事業者ともいっしょになって、「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」を作って、そこでMaaS促進事業を行っています。

IoTやAIを活用した新たなモビリティサービスの社会実装に向け、地域と企業の協働を促す「スマートモビリティチャレンジ」をスタートします (METI/経済産業省)

それは良いのですが、国交省の「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」での議論の内容が、概要しか分かりません。マンパワーの問題もあるかもしれませんが、議事録ではなく、議事概要だけの発表です。

公共交通政策:都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 - 国土交通省

何より、事業者等のヒアリングを行っているのに、ヒアリング資料のほとんどが、非公開になっています。もちろん、企業秘密や顧客のプライバシーに関する事項、更には、治安や安全保障に関する事項については、非公開は当然です。しかし、政策の方向性について概括的な議論をしている現段階で、そこまで非公開にすべきものかどうか疑問です。

と思いましたので、参考までに、ヒアリング資料が非公開となっている対象企業・団体の名前の一覧を挙げておきます。昨年10月から今年3月まで、「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」のウェブサイトで、「ヒアリング資料(非公開)」となっている企業・団体名です。

東日本旅客鉄道株式会社 
東京急行電鉄株式会社 
小田急電鉄株式会社 
株式会社みちのりホールディングス 

JapanTaxi株式会社 
ジョルダン株式会社 
株式会社JTBコミュニケーションデザイン 

パーク24株式会社 
東京都 
関東鉄道株式会社及び筑波大学 

佐川急便株式会社 
順風路株式会社 
株式会社ディー・エヌ・エー 
WILLER株式会社

公共交通政策:都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会 - 国土交通省

さして後ろ暗い所はないでしょうし、各事業者・団体が、どのような意見・利害関係を有しているのかは、やはり見せてほしいところです。

政府・事業者は、MaaSの潜在的な問題点も、国民にちゃんと見せながら議論を!

MaaSは、良いことづくめに見えますが、実現のためには克服すべき問題点もあります。

2018年9月のITS世界会議・世界MaaSサミット等に参加した伊藤慎介氏(株式会社rimOnO 代表取締役社長)が、国際会議から見えてくるMaaSの課題について、まとめています。

http://www.truck-x.com/wp/wp-content/uploads/2018/12/nextvehicle_13.pdf#search=%27MaaS+%E6%94%BF%E5%BA%9C+%E8%A6%8F%E5%88%B6%27

たとえば、冒頭に挙げたようなマース・グローバルのようなMaaSオペレーターが、現実にはなかなか儲からないそうです。マース・グローバルはともかく、スウェーデンのUbigoなどは苦戦しているようです。移動サービス統合だけではない、更なる付加価値の付与が必要なようです。

こうしたオペレーター・ビジネスの難しさだけではなく、四つほど問題がある、と、伊藤氏は書いています。第一に、オペレーターとモビリティ・サービス事業者(Uber等)との間の利害対立があります。利益の取り分というだけではなく、両方とも顧客からのフィードバックが欲しくて、データ共有が難しくなるようです。第二に、オペレーターと事業者間のシステムの統合が当然必要です。第三に、オペレーターと公共交通機関とのデータ共有。これは、第一の問題と同じ話です。第四に、都市によって異なる交通政策、ということです。

以上を見ると、日本では政府が音頭を取れば何とか解決しそうなものも多いと思います。ただ、それでも、私は、以下の点が課題になると思います。

第一に、事業者の利益相反です。伊藤氏も指摘しているのですが、MaaSは、どうしても公共交通機関vsマイカーという構図になりやすいものです。本格導入でマイカーは半減する、という見方もあるようです。現在のところ、日本を含め各国の自動車会社は、ビジネスモデルを変えるんだという建前で積極的にライドシェアにもMaaSにも取り組んでいるようですが、協議会等で意思決定に加わったとき、マイカーを減らさないような決定にならないかどうか、一応は注意した方が良いと思います。

第二に、競争政策の問題です。国交省の上記懇談会でも、競争政策を緩和することが必要と言っていましたが、MaaSは使いようによっては、移動手段について、全ての業態の全ての会社が結託する究極の独占ということにもなりかねないと思います。料金規制について、政府がしっかり責任をもって監督すべきですし、国交省も料金規制は当然課題に挙げています。逆に、競合する事業者の対立で、MaaS導入が進まないということも考えられます。

第三に、国内事業者が不当に保護されないか、という点です。先の懇談会に、フィンランドのマース・グローバルは入っていません。政府とは別の接点もあるのでしょうが、「日本版MaaS」をうたって、懇談会で日本企業を集めて業者の言い分は非公開では、競争の公正さには疑問があります。

こうした潜在的な問題点や疑問に答えられるよう、政策の決定過程は今から国民に見えるようにすべきで、国交省等での検討では、一層の情報公開を行うべきです。

MaaSは、大きな可能性を秘めたシステムで、スマートシティの一つの柱になるものです。一方で、国民生活・住民生活に直結しますし、安全性の点からも、プライバシー保護の点からも、しっかりした制度が必要です。ルールの決め方についても、きちんと国民に見せる形にする必要があります。