日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

福島第一のデブリ全量回収は見通しゼロ。住民への賠償が必要になっても一度停止して、石棺方式等も含め、科学的見地から再検討を。

今日の要点

福島第一原発の核燃料デブリ取り出しにつき、あまりに危険だから見直すべきだ、という意見が日経に出ています。そもそも、「全量取り出しで更地にする」という目標に無理があります。

デブリ全量取り出しを前提にした現在の手続きはいったん停止し、石棺方式や水棺方式等の別の方法も検討すべきです。その際、デブリ取り出しを前提に帰還した住民への賠償もやむを得ません。

格納容器に穴を開けてデブリ取り出し?格納容器内に予想以上のデブリがある以上、やめるべき。

以前、本ブログで紹介しましたが、福島第一原発の核燃料デブリを取り出す作業が全然進んでいません。今年2019年と来年2020年に少量のデブリは取り出せるようにして、2021年から本格的にデブリ取り出しを始め、30~40年くらいで終える、というのが現在のロードマップですが、いずれも絵にかいた餅だということを、3月24日のブログで書きました。

福島の首長達の新たな安全神話:「核燃料デブリは安全に全て取り出せる」「だから帰還して下さい」 - 日本の改革

そこでは、2号機の核燃料が溶けて格納容器の下に落ちたと思われていたのが、実はかなりの量はまた格納容器の中にあるままではないか、というNHKスペシャルの報道について紹介しました。せっかく開発したロボットで、格納容器の下の何かを持ち上げることが出来たけれど、それは制御棒の一部で、核燃料デブリではなかった、思った以上に格納容器の中に入ったままだということが分かった、という内容でした。その文字起こしのWedgeの記事を再掲します。

wedge.ismedia.jp

これは何を意味するのか?現在の計画のように、各燃料デブリを全部取り出そうとするなら、

「内部が極めて高線量の格納容器をわざわざ壊さなければいけない」

ということを意味します。壊れたとはいえ、一応は内部の放射線をある程度閉じ込めている格納容器に更に穴を開けたりして、中にある大量のデブリを取り出さなければいけません。

さすがにこれはおかしい、と専門家が指摘し始めています。

3月20日の日経に、「福島廃炉デブリ回収 延期が望ましい3つの理由 」と題する記事が載っています。そこでは、日本原子力学会福島第一原発廃炉検討委員会のまとめ役を務める宮野広・法政大学大学院客員教授の意見として、「21年度のデブリ取り出し開始スケジュールにはこだわらない方がいい」という見解を紹介しています。

理由は三つあります。以下は、特に2号機と3号機についての話です。

第一に、圧力容器の内部が全く未確認のまま。格納容器内部の圧力容器の中のデブリが原型をとどめていたら再臨界の恐れがあるので、まずそれを取り出す必要があるのに、内部の様子さえ見れていません。

第二に、先ほど述べた通り、格納容器の横に穴を開けて取り出すとき、放射性物質の外部への放散リスクを高める、ということです。もちろん遠隔操作を行うことになっていますが、まだ信頼性の高い自動機械が開発されていないということです。

第三に、格納容器が予想を上回る高濃度の汚染なので、まず除染と遮蔽が先に行うべき、ということです。

以上より、宮野氏は、いったん検討されて廃案となった除染後に格納容器を水で満たしてからデブリを取り出す冠水方式を主張しています。

www.nikkei.com

私は、特に、第二の点が重要だと考えます。これまで、格納容器内のデブリはそれほど量がないから、外部に落ちたものの回収を前提に考えていたようですが、実際は格納容器内に大量のデブリが残っていて、極めて線量の高い(人間にはもちろん致死量の)状態であるなら、わざわざ格納容器を壊して外部の被ばくリスクを高めるのはおかしな話です。

今でさえ、核燃料取り出しの際に、機械での遠隔操作のはずがうまくいかずに、結局は人間が対処するケースがあるようです。これにつき、2019年1月25日の「福島県原子力発電所廃炉に関する安全監視協議会」の議事録でも、専門家が懸念を表明しています。

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/321582.pdf

現在の手続きをいったん停止し、必要なら住民に賠償しつつ、石棺方式等も含めて科学的に検討を。

では、どうすればいいのか?

日経によると、日本原子力学会は、今年の夏に、将来の廃炉像に関する報告書をまとめる予定です。放射性物質に汚染された建物を全て撤去し、更地にするのは極めて困難だという認識で、他の方法も検討するよう問題提起する見込みです。廃炉を先送りして地下に一部の原発施設を残す案や、放射線が弱まるのを待つ選択肢、つまりは、デブリを取り出さずに周囲に防壁を作る「石棺」方式も、想定しているようです。

www.nikkei.com

以前、本ブログ(上で再掲した3月24日ブログ)で書いた通り、2016年7月に、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、廃炉作業の新たな「戦略プラン」で「石棺」に言及したところ、福島県知事はじめ、県内の首長達が抗議し、撤回させられました。

そのとき既に、「危険な核燃料デブリは全部取り出して更地にする」から、避難した住民は安心して帰還して下さい、という方針を国も自治体も示していたので、今さら後にひけず、科学的な検討による選択肢がつぶされた形になってしまいました。

民主的な正当性はもちろん重要です。住民にこれまで原発跡地は完全に安全な更地になると説明し、約束してきた事実は重く受け止めなければいけません。一方、廃炉方法について、安全性の確保は極めて重要です。そして、政策を進めていく過程で新たな重大事実が明らかになれば、科学的に中立な見地から、安全を確保するための決定を新たに行うべき必要もあります。

いま、格納容器内に、想定以上に大量の核燃料デブリが残っていることが分かり、安全性を確保するはずのデブリ取り出しが、かえって危険を大きくすることが分かりました。デブリ取り出しを注視して石棺方式などに切り替えることに合理性が出てきました。

この場合に、民主的正当性と科学的合理性を両立させるには、科学的に中立な形で廃炉ロードマップを抜本的に再検討し、そこの結論には国も自治体も住民・国民もしたがう、というコンセンサスをまず作ることです。そのうえで、廃炉方法について、科学的見地から検討し直すべきです。最初に、専門家の再検討結果に誰しも従うという方向を決めるには、政府・国会が責任をもって進めるしかありません。機構と東電と原発メーカーに丸投げしている今の体制ではダメです。

そして、民主的正当性の観点からは、帰還した住民に対して、結果として約束を守れなかったことにつき、賠償が必要になることも考えられます。賠償だけで済む問題ではありませんし、賠償額の算定だけでも大変ですが、廃炉ロードマップ自体の変更という政策の大転換を行う以上、一定程度はやむを得ないでしょう。

日本経済政策研究センターは、2017年3月と2019年3月に、原発事故の処理費用の試算を行っています。最新の2019年3月の試算によると、処理費用は、今後40年間で35~80兆円になると言います。仮に、汚染水を希釈して海に放出し、石棺方式をとれば、最小コストの35兆円になるとのことです。これは、日本経済政策研究センターの試算での住民への賠償も込みで考えたときの数字です。いずれにせよ、政府の現在の試算より大幅に多いのですが、科学的に比較的安全な方法が、コストの点でも優れているなら、実現可能性の問題は一つクリアできます。

www.jcer.or.jp

最大の問題はやはり、政治的ハードルでしょう。総理大臣も、経済産業大臣も、被災地自治体の首長も、福島県民に対し、現在の廃炉方法の安全性について問題があること、これを変更せざるを得ないこと、これまでの政府・自治体の説明に見通しの甘さや誤りがあったこと、等を、誠実に、率直に説明し、心から詫びて、出来る限りの賠償も行う、と呼びかけるべきです。もちろん、そのために追加的に国民負担が必要となるなら、国民に対しても同様に率直で真摯な説明をするべきです。

原発事故処理については、未だに国民・住民は、政府・東電等に対して、根強い不信感を持ち続けています。責任を負うのを恐れ、政治的リスクを嫌って、現実について誠実な説明がされていないと感じています。廃炉方法や最終処分場の問題につき、政治は、国民・住民に、真摯に厳しい現実と対策を語りかけるべきです。そして、国民・住民が、その現実を受け入れるための条件こそが、まず「原発ゼロ」を約束することなのです。