日本の改革

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テロ扇動情報の即時削除、仏、NZ、FB等が合意、米は不参加:SNSのコンテンツ規制は最小限に、国際的枠組みで、個人救済も可能にすべき

今日の要点

・テロをあおる情報の即時削除で、フランス、ニュージーランドフェイスブックが合意しました。アメリカはこれに賛成せず、国民に「検閲体験」の報告を求める異例の調査サイトを立ち上げました。各国政府のネットのコンテンツ規制は、それぞれに政治的下心が見えて、問題があります。

・各国政府のSNSコンテンツ規制は、表現の自由を侵害するおそれが高いので、最小限にすべきです。一国のみの恣意的な規制を防ぐため、民主主義国同士で規制の相互監視を行い、利用を制限された個人の救済手続きも整備すべきです。

テロ扇動情報の即時削除の合意にアメリカ不参加、対抗措置まで。各国のネット規制の問題。

 フランスとニュージーランド(NZ)等の各国首脳に、フェイスブック、グーグル、ツイッター等の幹部は5月15日、ネット上でテロなどをあおる情報をただちに削除するとする「クライストチャーチ宣言」を発表しました。3月にNZのクライストチャーチで起きた銃乱射テロ事件の動画がネットで拡散したことへの対応策です。

宣言の内容は、こちらで見ることができます。政府の約束、プラットフォーマーの約束、政府とプラットフォーマー両者の約束に分かれていて、最後の両者の約束の中に、「オンライン上のテロリストや暴力的な過激主義者のコンテンツのアップロードを防ぎ、また、発見して即時削除するための技術的な解決策を開発することを加速させる」等が書かれています。

www.documentcloud.org

会議不参加の日本、ドイツ、インド等も賛意を表明、アメリカは理念には賛同しつつ、表現の自由の尊重を理由に不参加です。フランスは8月のG7でも、ネット上の危険な情報対策を取り上げる方針です。

www.nikkei.com

これに先立つ5月初め、トランプ大統領は、過激主義者がフェイスブックから排除されると「ソーシャルメディア上での米国民に対する検閲の監視を続ける」と発信していました。そして、今回のクライストチャーチ宣言に際し、SNS等に政治的な偏向があるとして、国民に「検閲体験」の報告を求める、下のような調査サイトを立ち上げました。見た感じとしては、何だかスタートボタンを押すのがかえって怖いような雰囲気のホームページですが。

 

whitehouse.typeform.com

トランプ大統領は、5月初め、過激主義者がSNSから排除されたのに反発し、投稿規制を批判していました。今回の宣言不参加と「検閲体験報告」サイトの立ち上げは、来年の大統領選に向けて、その方が支持が集まる、と読んでのことのようです。

digital.asahi.com

アメリカの対応には、大統領選に向けての政治的意図が透けて見えます。

一方で、フランスの対応にも政治的意図がありそうです。極右勢力の政界進出を抑えたいという意図が最初の日経の記事では指摘されています。

フランス政府は、直近では、5月末の欧州議会選挙対策を考えているでしょう。

今回の選挙、欧州議会で「二大政党制」をしいてきた中道右派の欧州人民党(EPP)と中道左派の欧州社会・進歩連盟(S&D)が大きく議席を減らすと予測されています。一方、いわゆるポピュリスト政党が一気に議席を増やし、全部合わせれば、第2会派のS&Dに迫る勢力となりそうです。

www.nikkei.com

このため、EU全体で、フェイクニュース対策やサイバー攻撃対策が講じられ、ロシアによる介入も警戒してきました。今回のクライストチャーチ宣言も、こうした対策の一環と見ることが出来るでしょう。

EU、偽情報遮断へ圧力 欧州議会選控え 極右を警戒 :日本経済新聞

以上のように、フランス等が主導したクライストチャーチ宣言によるテロ扇動情報の即時削除規制も、内容次第では妥当とは思いますが、政治的意図は感じられます。フェイスブック等のプラットフォーマー企業が自ら投稿を削除するのは、一応、民間企業対民間の利用者の関係で行うことです。しかし、今回、政府が主導権を持って、プラットフォーマーが情報発信を制限することになります。テロ防止対策のためにはコンテンツの規制もやむを得ないと思いますが、やはり表現の自由を侵害しないよう、十分に注意した制度や運用が必要です。

フィナンシャルタイムズ社説は、シンガポールフェイクニュースを流した者を処罰する方針を示したことを批判し、先進国でも、ヘイトスピーチ規制がうまくいっていない実例を挙げています。日経の孫引き+翻訳ですみませんが、引用して紹介します。

ドイツの法律は、虚偽情報やヘイトスピーチ(憎悪表現)と風刺をうまく区別できていない。フランスでは匿名の政治広告を規制する法律が、ツイッター有権者登録を呼びかける政府キャンペーンの一時的な遮断につながった。

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先に挙げたEUの行うフェイクニュース対策は、主にロシアの介入を念頭にしたもののようです。確かに、民主主義国家の意思決定に対して、ロシアや中国のような国の介入を許すべきではありません。ロシアについては、アメリカの2016年大統領選への介入が、米上院の超党派報告でも明らかになっています。

ロシア国内でのネット上の言論統制も強められており、中国はロシアをはるかに上回る徹底した言論弾圧・統制をネット上でも行っています。

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ネット統制強めるロシア(The Economist) (写真=AP) :日本経済新聞

[FT]中国、ツイッター利用者の取り締まり強化 (写真=ロイター) :日本経済新聞

しかし、こうした国からの介入を防ぐための規制でさえ、両刃の剣という部分はあります。中国からの介入を防ぐための台湾のネット規制についても、やっていることが中国政府と同じにならないか、という懸念が示されています。また日経記事を通じた孫引きですみませんが、国境なき記者団はこうコメントしています。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」のセドリック・アルビアーニ東アジア総局長は台湾当局に対し、規制強化よりもまず公共の報道機関に対する資金提供を増やしてジャーナリズムの質を向上させ、地元メディアの偏向報道を正して客観性を高めるよう促すべきだと主張する。さらに、「台湾当局が正当な法的手続きを経ずにフェイクニュースとみなした情報を検閲するのなら、中国政府の全く同じ武器を使うことになる」と話す。

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SNSのコンテンツ規制は、最小限に、民主主義国家が相互監視しつつ、個人救済も可能に。

このように、たとえ民主主義国によるものであっても、政府によるネットのコンテンツ規制は、何らかの政治的意図を持ちうるものであり、慎重の上にも慎重に行う必要があります。

まず、規制は最小限であるべきです。今回のクライストチャーチ宣言は、テロを煽動するような投稿の即時削除についての合意です。

このように、表現の自由の制限が許される例外的なケース、つまり明白かつ現在の危険がある場合に、基準が明確で、運用も公平で透明性がある規制ならば、民主主義国家の憲法上、ただちに違憲とまでは言えないでしょう。

また、投稿等を削除される利用者に、何らかの救済手続きも用意すべきです。即時削除はよほど切迫した危険が明らかなときだけにして、原則として、告知・聴聞等を定めて、削除の際には理由を公開する、削除後も不服申し立てや賠償等もルール化しておくべきでしょう。

クライストチャーチ宣言でも、政府がテロリストや暴力的な過激主義者のコンテンツを規制する場合には、法の支配と表現の自由を含む国際的な人権と整合的な形で行うべき、としていますが、当然、もっと具体化するべきです。

更に、以前も本ブログで書いたことですが、一国だけではなく、民主主義国家による国際的な枠組みを作るべきです。

過激主義者を排除するフェイスブック、「連邦当局が承認したプライバシー担当幹部」を受け入れへ。IT大手の規制は、価値観を共有する各国で国際的枠組みを! - 日本の改革

オンラインの表現はもちろん国境をまたいだ問題ですし、各国政府だけの規制では、その国の政治的な意図で歪められた規制の可能性もあるので、お互いにウォッチし合うような仕組みを作った方が良いと思います。

次の話し合いの場は、G7となるようなので、以上の点を踏まえた議論を望みます。