日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

日本政府が海洋プラスチック憲章に署名しなかったのは、化学業界、コンビニ業界等の抵抗のせい。政府の戦略は不徹底、業界エゴに今後も注意必要。

今日の要点

・汚れた廃プラスチックの輸出を規制する条約が、日本も署名して成立しました。一方、昨年6月のG7で提案され、EU等が署名した「海洋プラスチック憲章」に、日本は当時も今も署名していません。環境省に理由を聞いたら、業界との調整がつかず、その後、憲章以上の戦略を作ったから、との説明でした。

・本当に憲章以上の戦略と言えるか、中身の点で、疑問があります。EUアメリカの自治体と比べて遅れている部分もあるので、具体策を更に徹底させるべきです。また、当初、憲章の署名をつぶした各業界等への監視が今後も必要でしょう。

海洋プラスチック憲章に意地でも署名しない日本政府。理由は、業界との調整と、同様の戦略を作ったから。

汚れた廃プラスチックの輸出を規制する条約が、日本も署名して成立しました。有害廃棄物の国境を越えた移動を規制するバーゼル条約の対象に、汚れた廃プラスチックを加える形の規制です。規制の範囲でもめていたのを、「汚れた」廃プラに限るということで、折り合いをつけたようです。提案国のノルウェーとともに日本が主導したとのことで、大変結構な話です。

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他の多くの点では、日本は環境先進国でしょうけれど、海洋プラスチックごみの問題では、日本の責任は大変大きいのです。

海洋プラスチックごみ流出国のランキングで言えば、一見すると、1位の中国が圧倒的に悪い、ということになります。日本は、30位ですから、むしろ健闘しているように見えます。

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出所:環境省

http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf#search=%27%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%B7%BB%E3%81%8F%E5%9B%BD%E5%86%85%E5%A4%96%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81%27

ところが、今ではよく知られている通り、これにはからくりがあります。日本は、プラスチックごみを大量に中国に輸出してきたのです。輸出量は、毎年なんと150万トン。中国のプラごみ排出量の推計値が、上の図で見る通り、132万~353万トンですから、もしも中国が全てをリサイクルせずに海洋に捨てていたら、その全量か、半分近くは日本からのプラごみということになります。

もちろん、リサイクル用という形で輸出はしているので、全量が海洋ごみとして投棄されているわけではありません。しかし、中国はじめ発展途上国では、リサイクルや法執行の体制が整っていないのは分かっているはずです。だからこそ、冒頭のようなバーゼル条約の強化が必要になるのです。かなりの部分が海洋投棄されると分かって、毎年150万トンも輸出してきた日本の責任は問われるべきでした。

そして、中国も昨年、ついに受け入れきれず、原則としてプラごみの輸入を禁止することになりました。中国へのプラごみ輸出等については、以下の記事で、国際政治学者の六辻彰二氏が詳しく説明しています。 

news.yahoo.co.jp

また、中国やインドネシア等のような人口の多い国と、単純に海洋プラごみの排出量全体を単純比較するだけではいけません。人口1人あたりの数字も見るべきです。日本の人口1人あたりのプラスチック容器包装(ペットボトル等)の廃棄量は、アメリカに次いで、世界2位です。よく言われる通り、過剰サービス、過剰包装の悪い面が、如実に出ている形です。

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出所:環境省

http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf#search=%27%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%B7%BB%E3%81%8F%E5%9B%BD%E5%86%85%E5%A4%96%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81%27

更に、地球環境への影響という点でも、日本周辺海域が特に問題だ、という研究もあります。NIKKEI STYLEの記事から引用します。

日本の汚染が特に深刻だとする研究結果もあります。九州大の磯辺篤彦教授の調査では、日本の周辺海域のマイクロプラの濃度は世界平均の27倍に達しました。日本を含むアジアでのプラごみの発生量が多いことが要因とみられています。(NIKKEI STYLE 2018.7.3)

style.nikkei.com

この問題は、海洋汚染を深刻化させる、というだけではありません。中国への輸出が出来なくなり、東南アジア等も吸収しきれないので、日本国内の陸上で、輸出していた毎年150万トンを何とかしないといけません。現状の処理能力をはるかに超えており、今後、不法投棄が急増することが真剣に懸念されています。これにつき、元朝日記者のジャーナリスト杉本裕明氏が、記事にしています。

ecotopia.earth

そんなわけで、冒頭に紹介した、汚れた廃プラ輸出の規制に、日本が参加したのは、評価すべきです。ただ、これは輸出に関する規制にすぎません。プラスチック製品、特に、1回か2回使って捨ててしまう使い捨てプラスチック製品(ペットボトルやレジ袋)について、国内で、使用自体を減らす、再利用する、リサイクルすることが必要です。

実は1年前には、海洋プラスチックごみの問題で、日本は内外から批判をされる立場でした。去年6月の主要7カ国(G7)首脳会議(シャルルボワ・サミット)で、2030年までのプラスチック使用削減等を定めた「海洋プラスチック憲章」に、日本は署名しませんでした。日経の社説は、同じく署名しなかったアメリカへの忖度だとして、「行動を伴わなければ本気度が問われる」と言って、厳しく批判しました。

www.nikkei.com

日経は、政府が海洋プラスチック憲章に署名しなかった理由につき、最初はこのように、「アメリカへの忖度」が原因、という書き方をしていました。しかし、段々と本当の理由を記事ではっきり書き始めます。2018年10月2日の日経記事から引用します。

6月の主要7カ国(G7)首脳会議で採択された「海洋プラスチック憲章」には、業界との調整がつかず署名できなかった。

www.nikkei.com

これにつき、今日、環境省の担当部署の方(環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室)に電話して聞いてみました。

「日本が海洋プラスチック憲章に署名しなかったのは、業界との調整がつかなかったから、と日経に書いてありましたが、本当ですか」

「ええ、そうですね、調整がつかなかったからです」

と、あっさり、認めて下さいました(笑)。どの業界がどんな理由で反対したのか、「調整」はどんな形で行われたのか、窓口となっている役所はどこだったか、等、詳細も聞いてみましたが、そちらは答えていただけませんでした。まあ、こちらの質問もふわっとしていたので、もっと聞くべきことをちゃんと特定すべきでしたし、担当の方の対応には問題は何もなかった、というより、親切にきちんと対応していただきました。

というわけで、日本が海洋プラスチック憲章に署名しなかったのは、やっぱり国内の業界への忖度が原因でした。どこの業界かというと、主に、化学業界とコンビニ業界です。これら業界の反対については、共同通信編集委員、井田徹治氏がまとめています。長いスライド資料ですが、後ろの方に出てきます。

https://i.unu.edu/media/ias.unu.edu-jp/news/15577/kyodo_ida_san.pdf#search=%27%E4%BD%BF%E3%81%84%E6%8D%A8%E3%81%A6%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E7%A6%81%E6%AD%A2+%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%93%E3%83%8B+%E5%8C%96%E5%AD%A6%E5%B7%A5%E6%A5%AD+%E5%8F%8D%E5%AF%BE%27

日経でも、化学業界等の姿勢について言及した記事は、他にもあります。2018年8月28日の記事では、業界団体が、健康被害の科学的検証が優先という後ろ向きな姿勢なのを批判しています。

化学関連の業界団体は健康被害などの科学的検証を優先する考えを示す。検証中にも欧州主導で脱プラが進む。対応が遅れれば化学業界全体のイメージが悪化し人材獲得などで不利になる恐れもある。各社には素材開発などで世界のルール作りを先回りするスピード感が求められている。

www.nikkei.com

こんな風に、メディアは、政府や業界の姿勢を批判してきました。このように、政府が環境政策で後ろ向きと見るや、黙っていないのが東京都の小池知事です(笑)。早速、東京都独自に、「G7の憲章を強く支持する」と語り、「産業界や非政府組織(NGO)などと連携し、使い捨てプラスチックの削減を推進する」と発信。日経も、「政府との違いを鮮明にし、環境都市としての東京をアピールする」と、好意的なトーンで報じました。

www.nikkei.com

都民ファーストも負けずに、東京都としての独自の数値目標設定と取り組みを要望します。

tomin1st.jp

白戸太朗 - スターバックスのストロー廃止発表で日本でも話題になっている海洋プラスチック問題。... | Facebook

東京都は、まずはPRのためにストロー削減から取り組み、今年の夏にプラごみ削減対策を策定する方針です。

www.nikkei.com

東京都の、現在までの中間とりまとめは、以下のリンクです。使い捨てプラスチック製品の使用に対する規制が相当強化される方向のようです。

http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2019/01/17/documents/14_02.pdf#search=%27%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD+%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%94%E3%81%BF%E5%89%8A%E6%B8%9B%E5%AF%BE%E7%AD%96%27

ストロー削減の方は、今年2月にも日経が比較的大きく取り上げるなど、PRとして、認知度は一定程度あったようです。ストロー削減で減らせるプラごみの量は、数量としてはもちろん微々たるものですが、来年夏には、更に厳しい規制がかかることも見込まれるので、まずは、都民の理解を段々と得ておく必要があるでしょう。小さな一歩ですが、やる価値はあったと思います。

www.nikkei.com

こうした批判や自治体の動きを見て、政府も、方針を転換します。今度は一転して、海洋プラスチック憲章の目標を反映した戦略を作る、と言い出しました。

(これを報じた以下の産経新聞2018年8月21日の記事につき、私はツイッターで、政府が憲章に署名する方針に転換、と書いてしまいました。正しくは、【「海洋プラスチック憲章」の数値目標を反映させる方針を固めた】との記述でした。ツイッター上で当該ツイートに返信の形で、お詫びして訂正させていただきました。申し訳ありませんでした。)

www.sankei.com

政府は、今でも海洋プラスチック憲章に署名していませんが、今年の3月、この憲章の内容を反映した内容の「プラスチック資源循環戦略」を、確かに策定しました。

www.env.go.jp

環境省の担当者の方に、この点についても聞いてみました。政府が今でも海洋プラスチック憲章に署名しないのは、既にそれを反映した内容を作ったから、という理由もあるのか、と質問したら、今の時点ではその通り、という答えでした。

本当に憲章以上の内容?具体策も、EU等と比べて不十分、今後更に徹底を。

では、果たして本当に、「プラスチック資源循環戦略」は、憲章以上の原則、内容が定められているでしょうか?

まず、海洋プラスチック憲章の文言(日本語訳)を見てみます。ポイントは、アンダーラインの数値目標の部分です。

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出所:環境省

次に、日本政府の「プラスチック資源循環戦略」です。ポイントは、右上のマイルストーンという囲みの数値目標です。

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出所:環境省

二つを比べると、確かに、一部では、憲章よりも進んだ内容がこの戦略には書かれています。朝日新聞も、この点は評価しています。朝日の今年4月19日の記事から引用します。

使用済みプラスチック容器包装の再利用やリサイクルの割合については、海洋プラスチック憲章が「30年までに少なくとも55%」としているのに対し、循環戦略案は「60%」と上回る目標を掲げた。使用済みプラスチックを「35年までに熱回収も含めて100%有効利用する」とし、海洋プラスチック憲章が「40年までに」としているのを5年早めた。
 また、30年までに使い捨てプラスチックの排出量を25%削減する目標も盛り込まれており、その具体策の一つとしてレジ袋の有料化の義務化が挙げられた。「消費者のライフスタイル変革を促す」としている。

digital.asahi.com

朝日のこの記事は、2006年の容器包装リサイクル法改正時に、コンビニ業界と百貨店業界が、レジ袋有料化をつぶしたという経緯も書いています。さすがのコンビニ業界も今回は白旗を上げて、セブンイレブンがレジ袋を紙製に切り替えると発表しています。

www.nikkei.com

以上のように、結果としては、何とか業界の抵抗を押し戻したように見えます。ただ、当初の海洋プラスチック憲章から後退がないかどうか、文言を見ると心配な部分があります。

憲章では、

「2030 年までに、100%のプラスチックがリユース、リサイクル、また他に有効な選択肢がない場合 は回収可能となるよう産業界と協力する」

とあります。この言葉通りの表現が、政府の戦略にはありません。環境省の担当者に聞くと、プラスチック資源循環戦略のマイルストーン

「②2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに」

の部分がそれにあたる、と言います。確かに、憲章の「2030年まで」は守られているし、戦略の「リユース・リサイクル可能なデザインに」というのは、「100%のプラスチックがリユース、リサイクル、また他に有効な選択肢がない場合 は回収可能となるよう産業界と協力する」という部分の、一つのやり方ですよ、という説明は、一応は成り立つのかもしれません。ただ、手段が特定され過ぎているように見えます。④の「2035年までに使用済プラスチックを100%有効利用」では、「有効利用」のあり方が分かりませんし、憲章の期限2030年よりも後になっています。

この点について、日本の対応が従来から不十分と言われているのが、「リサイクル」の意味です。日本は、廃プラを焼却する際の廃熱を給湯や発電に利用する「サーマルリサイクル」を含めて、リサイクル率が82%にもなる、と自画自賛していますが、OECDは、日本のリサイクル率は22%にすぎない、としています。サーマルリサイクルはCO2を排出するので望ましくないので、リサイクル率に算入していないからです。要は、焼却処分中心のこれまでのやり方を改める必要があります。この点は、日経の以下の記事で紹介されています。

www.nikkei.com

また、レジ袋については、やっと有料化までたどり着きましたが、EU諸国等では更に厳しく、フランスは使い捨て容器の原則使用禁止、イギリスはストロー、マドラー等の使用禁止等にも踏み切っています。各国の規制は、以下リンクのスライド14-22枚目にありますが、課税や使用禁止等の相当厳しい規制が多くなっています。

http://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf#search=%27%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%92%E5%8F%96%E3%82%8A%E5%B7%BB%E3%81%8F%E5%9B%BD%E5%86%85%E5%A4%96%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81%27

日本政府が、海洋プラスチック憲章の署名拒否につき、事実上誤りと認めて、プラスチック資源循環戦略に、その反省を生かしていること、部分的には憲章より進んでいること、バーゼル条約改正で汚れた廃プラ輸出禁止を主導したこと、等は、評価すべきです。

しかし、憲章の文言も、何よりそれを具体化する規制の内容も、まだまだ諸外国と比べて、改善すべきところが多いのが現状です。各業界の抵抗がまだまだ続くことでしょうし、国民としては、化学業界、コンビニ業界、百貨店業界の動きや、それらと結託しそうな役所、政治家に注意を払っていく必要がありそうです。