日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

米中貿易戦争での中国の対抗手段、人民元切り下げも米国債売却も効果なし。強制的技術移転・輸出補助金等の是正は可能。日米欧は結束を!

今日の要点

・米中貿易交渉で両国は合意できませんでした。アメリカの関税引き上げに対する中国の対抗手段ですが、人民元切り下げは中国からの資金流出を招き、米国債売却はFRBが売られた分を買えばいいだけ。中国は金融政策でアメリカに対抗することはできません。

・今後は、米中どちらの経済が貿易戦争に耐えられるかで決まります。関税の価格転嫁でも、株価や成長率への影響でも、アメリカが有利です。中国は強制的技術移転や輸出補助金等の是正をせざるを得ません。その実現のため、中国ハイテク製品の政府調達中止等で、日米欧は結束すべきです。

中国が対抗手段に言及するも、元切り下げも米国債売却も効かない。

米中閣僚級通商協議が10日、合意なしで終了しました。中国による強制的技術移転と輸出補助金等の是正を中国が行わなかったためです。中国の劉鶴副首相は、以下のように述べて、いったん合意したものを覆したのは中国の方だということを、認めています。朝日から引用します。

中国側が合意を翻したとする米側の批判については、「まとめる前であり、どんな変化があろうとも自然だ。中国側が『後退した』との見方に同意しない」と強調した。

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中国が報告なしで輸出補助金を出しているのはWTO協定違反である、と、日経もようやく書き始めています。

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アメリカは、制裁関税の範囲を一気に広げ、すべての中国製品に関税を課す準備を始めたと発表しました。中国の劉鶴副首相は10日、米国による追加の関税引き上げに「強烈に反対する。中国は必ず報復する」と述べました。

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では、中国はアメリカに、どう報復するのでしょうか?アメリカ農産品等に対する関税引き上げを更に検討する可能性もありますが、トランプ政権は、来年が大統領選挙であるにもかかわらず、関税を上げました。今のアメリカは共和党民主党も対中強硬姿勢なので、中国の関税引き上げに対しては、むしろ結束して批判するでしょう。

また、金融政策が手段として挙げられることがありますが、結論から言えば、効果はあまりないでしょう。

まず、人民元の切り下げで、関税による値上がり分を吸収し、米国への輸出を続けることが考えられます。しかし、これをやると、人民元安を招いて、中国からの資金流出を招きます。ブルームバーグの記事から引用します。

 中国当局は、自国経済に対する米関税の影響を相殺するために人民元を切り下げることが可能だ。2018年のオフショア人民元はドルに対して5.5%下落し、トランプ大統領をいら立たせた。中国が意図的に通貨を弱くしたとの臆測も浮上した。
 ただ、15年に人民元を事実上切り下げた際に資本流出に見舞われた経験が、当局をためらわせるだろうと、UBSグループの中国担当チーフエコノミストの汪涛氏は言う。

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もう一つは、中国の保有する1兆1000億ドル相当の米国債を売却することです。しかし、こちらも、効果は薄そうです。ロイターの記事によると、たとえ中国が手持ちの米国債を全部売っても、金利への影響はそれほど大きくないと言います。何より、中国がどれほど米国債を売ろうと、FRBはそれを上回る規模の米国債を買うことができる、としています。

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利回りへの影響は別の見方もあります。米国債売却について、先のブルームバーグの記事は、米国債売却で利回りは上昇(国債価格は下落)するが、中国が一部を売るだけなら、自分が保有する米国債の価格が下がるだけだ、としています。

いずれにしても、FRBが中国の売った米国債を買い取ることはできるので、これも脅しとしては機能しないでしょう。

米中貿易戦争は、中国の方がダメージが大きい。中国に貿易ルールを守らせるため、日米欧は結束を!

米中貿易戦争が今後どうなるかは、アメリカと中国と、どちらの方がダメージが大きいかによって決まるでしょう。

まず、アメリカの関税引き上げで、両国の経済成長率はどう変わるでしょうか。日経の孫引きですいませんが、国際通貨基金IMF)は米中が相互に全輸入品に25%の関税をかければ、米国は成長率が0.6ポイント、中国は1.5ポイント下振れすると試算する、としています。やはり中国の方が影響は大きいようです。

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株価について言えば、トランプ大統領の関税引き上げツイートから10日まで、アメリカが2.1%(6800億ドル)減、中国は5.2%(3300億ドル)減です。「2019年度米国防権限法」でアメリカ政府の調達が禁じられた中国ハイテク企業の株価が特に落ち込んでいます。

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また、関税による値上がりについては、これまでになされた関税引き上げ第3弾までの対象品は、生産設備、部品、日用品などで、値上げをすることが難しく、中国企業が関税のほとんどを負担するようです。

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ただ、今後予定されている第4弾の関税引き上げでは、ハイテク製品も対象になるので、こちらについては、アメリカの消費者や企業への負担は大きくなるでしょう。

以上より、全面的な貿易戦争になれば、苦しいのは中国の方で、その意味ではアメリカにとって有利な戦いです。

今後、中国に強制的技術移転や輸出補助金等をやめさせて、WTOルールにも、そして事実上はTPPルールにも沿った形で、まともな貿易をさせるためには、中国製のハイテク製品の締め出しについて、日本やEU等が一層の協調をすることが重要です。この点、イギリスがファーウェイ製品を使ったり、日本はハイクビジョン等の中国製監視カメラをインフラ系企業での使用を認めていたり、不徹底です。

日本とEU(イギリスは離脱しそうですが)は、アメリカと協調して、中国製ハイテク製品の使用制限を進め、サプライチェーンから中国を外して他国に移すことを制裁手段として用意すべきです。そのうえで、アメリカとともに、強制技術移転と輸出補助金等をやめるよう、中国に迫るべきです。

今回の局面は、中国がどうしても国家主導の貿易・経済運営をやめられないと主張したことで始まりました。日経によれば、貿易交渉の担当者である劉鶴副首相は改革派で、市場経済化には賛成ということです。そこでアメリカへの譲歩案を作ったのに、習近平がこれに反対し、劉氏はアメリカに前言を撤回する羽目になり、アメリカ政府の怒りを買った、というのが、日経の見立てです。

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習近平の政権にとって、技術の強制移転や産業・輸出補助金というのは、譲れない一線です。しかし、これまで見てきたように、中国には有効な対抗手段が乏しく、アメリカは超党派で中国に厳しくなっています。専門家は、合意に至らず高関税で中国経済がおかしくなれば、習政権の今後が左右されかねない、と予測しています。

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この問題で安易な妥協をせずに、中国にルール遵守をさせることは、習近平政権の存続自体にも影響を与え、長い目で見れば、中国の政治改革への一つの端緒にもなるでしょう。日米欧が、中国との貿易戦争で協調することは、単なる経済的な紛争を超えて、自由と民主主義のための戦いにもつながるはずです。