日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

アメリカの対中関税引き上げ:悪いのは、WTO協定を全然守らない中国!日本とEUは、WTO改革を進めつつ、対中圧力でアメリカに協力を!

今日の要点

アメリカ政府が、中国に対する関税の引き上げを決定。中国がハイテク産業の補助金の撤回で譲らず、技術の強制移転等の事前合意も覆したためです。こうした補助金や技術の強制移転等は、そもそもWTO協定(マラケシュ協定)違反です。

WTO協定を各国に守らせるためのWTO改革はなかなか進みません。日本とEUは、WTO改革は進めつつ、それが実現する前でも行動すべきです。中国による輸出補助金等をやめさせるため、アメリカと協力して、中国への圧力を強めるべきです。

悪いのは、トランプ政権ではなく、WTO協定を全然守らない中国!

先月末までは、妥協が成立するかに見えた米中協議が一転、アメリカが中国に対する関税を引き上げる決定をしました。関税の一部引き下げで合意か、との報道まであったのに、全く真逆に、大幅に関税を引き上げ、しかもその範囲を広げる、というものです。

既に政府間で合意していた事項に付き、中国が再交渉を言い出したのが理由ということです。背景を報じたブルームバーグを引用します。

同関係者によると、先週に北京で開かれた貿易交渉で中国当局者は米国側に対し、中国の法改正が必要になるような協定には同意しないと伝えた。中国はそれまでは合意テキストの中で法改正に同意していたという。

 中国での事業を計画する米国企業は、独自の技術やその他の知的財産の開示を強制されており、その慣行の是正を目指した米中の合意条項に中国の姿勢変化は大きく影響する。

 ライトハイザー代表が率いる米側は 、強制的な技術移転として知られる問題は解決されたと考えていたため、法改正に関する中国側の姿勢転換は再交渉を図ろうとしている行為と映ったという。これに立腹したライトハイザー代表はトランプ大統領に報告した。

www.bloomberg.co.jp

直接の引き金となったのは、強制的な技術移転という知財分野等で、中国が事前の合意を覆したからだ、ということです(それだけではないという報道もありますが)。

日経によると、米中政府は、強制的な技術移転問題を含め、9割方は事前合意していたようです。しかし、政府による輸出補助金の問題では、最後まで合意できていませんでした。この政策は、「経済強国」を目指す習政権は産業育成策「中国製造2025」の根幹をなすもので、表向きは「中国製造2025」というスローガンを取り下げた後も中国が続けてきました。おそらく、政府補助金をやめたくないから、事前合意した他の項目まで、ちゃぶ台返しをしたのでしょう。で、アメリカがそれにキレた、と。

www.nikkei.com

上の日経の記事、見出しが「トランプ氏 危険な賭け再び」となっているのは不見識です。この問題、そもそも、中国が2001年のWTO加盟後も、WTO協定(WTOを設立するマラケシュ協定)を長年全然守らずに、中国進出企業に技術移転を強要したり、政府が巨額補助金で法外に安い製品をダンピング輸出したり、という利己的な違法行為で経済成長を達成してきたことが根幹にあります。

技術の強制移転による知的財産権の侵害は、WTO協定の「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」に違反しますし、政府の輸出補助金は、「補助金及び相殺措置に関する協定」に違反しています。

附属書一C 知的所有権の貿易関連の側面に関する協定 | 外務省

補助金及び相殺措置に関する協定 | 外務省

このうち、「補助金及び相殺措置に関する協定」に違反する政府補助金があったときは、相手国は、対抗措置として関税を引き上げてよい、という「相殺関税」の制度が、この協定には定められています(協定の名前の通りです)。アメリカの関税引き上げは、この当然の権利の行使にすぎません。

ところが、WTOは、この補助金協定の解釈を狭めて、アメリカの関税引き上げの権利を認めませんでした。このため、アメリカ政府は、「単独主義」で、関税を引き上げています。

この点につき、日経で、上智大学の川瀬剛志教授が解説しているので、引用します。

またWTO補助金協定は、加盟国政府とその「公的機関」が補助金を交付する場合、損害を被る他の加盟国が相殺関税を発動できると規定する。だが上級委員会は「公的機関」たる条件を厳しく解釈し、中国の国有企業は単に政府の所有下にあるとの理由だけでは該当しないと判断した。この結果、米国は相殺関税の対中発動が困難になった。こうした上級委員会の解釈は広く支持を集める一方、米国、特に鉄鋼産業を代弁する有力弁護士の間で批判が根強い。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はその筆頭だ。

www.nikkei.com

なお、技術移転については、WTO協定違反かどうか、議論はあります。山下一仁氏は、中国による技術移転の強要や、中国が技術盗用を目的としてアメリカに投資することは、WTO協定で定められていない、もとからWTOに限界があった、としています。そのうえで、山下氏は、この限界は先進国と途上国の対立を解消できなかったドーハ・ラウンドの問題であり、本来はルール化した方が望ましい、としています。そして、それがルール化されているのはTPPだ、だから、WTO改革にTPPを使おう、と主張しています。

www.canon-igs.org

確かに、技術盗用目的の投資については、WTO協定で直接の規制はなされていないでしょう(だからアメリカも、対米投資委員会を作って独自の規制をしています)。しかし、中国による技術移転の強要は、やはり「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」に違反するでしょう。いま中国がやっているような露骨な技術移転の強要までは、具体的に条文として書かれていません。しかしそれは、恐らくそこまでひどい行為は想定していなかったからであって(USTR報告書も「前代未聞」と言っています)、一般的な知的財産権「保護」の規定に違反している、と言えるはずです。

山下氏も、いずれにせよこうした行為は問題で規制すべき、との立場ですし、中国が農業補助金の報告等の、他のWTO協定に違反しているから是正すべき、と主張しています。

悪いのは、トランプ政権ではなくて、長年、WTO協定を全然守らなかった中国の方なのです。

これは、トランプ氏だけではなく、アメリカの民主党議員の多くも同意するはずです。むしろ、トランプ政権が少しでも中国に譲歩したら、民主党は徹底的に政権を攻撃するでしょう。この点は、ウォールストリートジャーナルの社説が書いています。

jp.wsj.com

WTO改革は時間がかかる。日本とEUは、アメリカと協調して、中国への圧力を!

アメリカ産業界は、関税引き上げが突然すぎることを批判し、中国への圧力は同盟国とともにやるべき、と言っています。日経の記事を引用します。

全米小売業協会(NRF)も同日の声明で「1週間も待たずに関税を引き上げれば、資金力が無い中小企業は深刻な混乱に陥る」と訴えた。「中国に圧力をかけたいのなら、懸念を共有する同盟国と連携するべきだ」と主張し、米単独での強硬策を批判した。

www.nikkei.com

確かに、今回の関税引き上げは急に過ぎて、アメリカの製造業や小売業には打撃を受けるところはあるでしょう。一方で、「対中圧力をかけるなら、同盟国といっしょで」という発言も重視すべきです。アメリカ単独での制裁は賛成しないが、アメリカの同盟国といっしょに対中圧力をかけるような、効果のありそうなやり方にしてくれ、ということです。アメリカ企業にとっては、日常のビジネスに損害が出ない方が良いですが、長い目で見て、先端技術の不正取得や、輸出補助金による不平等な競争はない方が良いに決まっています。

アメリカの産業界が、アメリカに不利でも良いから、とにかく米中摩擦を終わらせてくれ、などと望んでいるわけではありません。在中米国商工会議所(American Chamber of Commerce in China)は、米中協議の終結には、中国の構造問題の解決が必要だ、と言っています。もう、中国で活動する米国企業も、我慢の限界のようです。

www.reuters.com

中国がやっていることは、WTO協定に違反するのですから、WTOが紛争解決をしてくれれば良いのですが、周知の通り、その力がWTOにはありません。だから各国は、TPPのような多国間の自由貿易協定に頼らざるを得なくなってきた経緯があります。

そこで、既に去年から、中国の不当な技術移転の強要等を防止することを目的に、日米欧がWTO改革を共同提案しています。

www.nikkei.com

しかし、WTOが実効性ある制裁をできるようにする改革には、時間がかかります。WTO改革は中期的な課題として当然続けるとして、WTO協定の範囲内で、日本にもEUにも、相殺関税等、中国に制裁を課せる分野はあるはずです。外交的、政治的な手段としては、一帯一路への協力を見直すことも出来ます。

日本とEUは、WTO改革を待たずに、アメリカと協調して、中国への圧力を強め、知的財産権の侵害から政府輸出補助金等に至る、あらゆるルール違反を是正させるべきです。