日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

「日本の消費税率を20~26%にしろ」:日本の旧大蔵省官僚がOECD事務次長なため、OECD報告書は消費税の部分だけメチャクチャ。

今日の要点

OECDが、日本が消費税増税のみで財政再建をするなら、20~26%にすべきと、「対日経済審査報告書」で言っています。理由は、政府債務のGDPに対する比率を150%程度に抑えるために、安定的な税収である消費税のみを利用すると、それくらいの税率が必要だから、ということです。

・しかし、この主張は、①政府債務だけを見て政府資産を無視しており、②消費税増税がもたらす負の所得効果の影響を無視しており、③歳出削減を先行させずに消費増税財政再建可能と言うのは実証的に間違っており、④世界中が金融緩和をしており政府債務の考え方が変わってきた現状を無視しており、⑤最近のOECD事務次長(3~4人)が財務省出身なので、政治的な偏りもありうる、という点で、到底受け入れることはできません。安易な消費税増税は、0.1%たりとも許してはいけません。

OECDが消費税を20~26%に上げるべきと主張。

昨日4月15日、OECDが"OECD Economic Survey of Japan"という報告書を発表しました。2年に1回発表しているものです。

その中で、「日本は主として消費税に依拠して歳入増加を図 るべき」としたうえで、「十分な水準の基礎的財政黒字を消費増税のみによって確保するためには、OECD平均である19%を超え、税率 を 20%から 26%の間の水準へと引き上げることが必要」と言っています。

ありがたいことに、概要版(といっても70ページあります…)もパワポ資料も日本語訳があるので、概要版の該当箇所を切り貼りしておきます(ハイライトは私がつけたものです)。

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出所:OECD

http://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-survey-2019-overview-japanese.pdf

もう少し詳しくは、以下のような主張です。

日本政府の今の目標は、2025年の基礎的財政収支国債を除いた、税金と歳出のみでの財政収支)をゼロにするということですが、それでは、政府債務の対GDP比=政府債務/GDPを十分に下げられない、と言います。では、どれくらいの水準なら良いのか?OECDは、政府債務/GDPが150%くらいなら、OKと考えているようです。

そして、政府債務/GDPを150%程度でおさめるためには、2026~2035年までに基礎的財政収支GDP比で5%の黒字にすれば良いけれど、10年先送りして、2036~2045年増税を先延ばしにすると、必要な黒字幅は8%になる、と主張しています。これらの数字の根拠は、内閣府の試算やOECD経済見通しをもとにしたシミュレーションによるものです。

ここも、概要版の該当箇所を貼っておきます。

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出所:OECD

http://www.oecd.org/economy/surveys/Japan-survey-2019-overview-japanese.pdf

このレポート、結論から言うと、消費税増税の部分は、全くおかしなものです。しかし、それ以外の部分は、女性の労働参加率を高めるべきとか、医療費の効率化を進めるべきとか、色々と大変有益な主張をしています。当然ながら、OECD諸国との比較がしっかりなされていて、消費税増税以外の部分は、説得力があります。パワポ資料が分かりやすいので、リンクを貼っておきます。

http://www.oecd.org/economy/surveys/OECD-Economic-Surveys-Japan-2019-presentation-Japanese.pdf

この報告書を実際に書いたのは、OECDのシニアエコノミストで、長年、日本経済を研究してきて、対日経済審査報告書も10回以上書いている、ランダル・ジョーンズ氏です。2015年には、功績が認められて叙勲もされているそうです。

ランダル・ジョーンズ・シニアエコノミスト(日本デスクヘッド)への勲章伝達式 | OECD 日本政府代表部

記者クラブで講演したOECDのグリア事務総長によると、今回のレポートがジョーンズ氏の最後のレポートで、もう退職されるそうです。ジョーンズ氏は1982年に筑波大学に留学して以来、日本と関わってきたそうで、引退は残念ですが、これまでの御貢献に感謝したいと思います。

www.youtube.com

OECDの主張が間違っている五つの理由

さて、OECDエコノミストのジョーンズ氏も、そして事務局長のグリア氏も、経歴を見ると大変立派な方です。しかし、今回のレポートの消費税増税の部分は、全くおかしなものです。OECDの主張は、どこがおかしいのでしょうか。問題点は五つあります。

①政府債務だけを見て政府資産を無視

これが最大の間違いです。政府債務だけでなく、政府が持っている資産を見るべきです。OECD報告書では、言い訳のように、政府の金融資産と純債務について言及がありますが、実際の分析は粗債務、つまり、資産を考えない債務額のみで行っています。

既にIMFが、政府全体での資産・負債を合わせた「純資産」の試算をしていますが、それによると、まず、中央銀行を含めた「公的部門」でのバランスシートでは、日本の純資産は、ほぼゼロになります。これは、純債務も、ほぼゼロだということを意味します。

以下のグラフの真ん中よりやや左に日本がありますが、純資産を表す黒い点が、ほぼゼロになっています。

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出所:IMF

IMF Fiscal Monitor: Managing Public Wealth, October 2018

同様に、中央銀行を除いた一般部門でも、純債務を見ると、GDP比で言うと、-18%程度で、それほど大きなものではありません。

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出所:IMF

IMF Fiscal Monitor: Managing Public Wealth, October 2018

これは、高橋洋一氏が常に言ってきたことです。IMFの上記ペーパーも、私は高橋洋一氏の、以下の記事で知りました(グラフはもとの論文から切り貼りしました)。

gendai.ismedia.jp

IMFIMFで、日本政府に消費税増税を提言しているのですが、

シリーズ日本経済を考える85: 「IMFの対日4条協議」について*1 : 財務省

高橋洋一氏は、かつてIMFが緊縮一辺倒の政策を各国に押し付けたのを反省したスタンスと矛盾するし、消費増税を言わせているのは、日本の財務省から出向しているスタッフではないのか、と批判しています。確かに、上記のIMFレポートの内容とも矛盾しているでしょう。

www.zakzak.co.jp

②消費税増税がもたらす負の所得効果の影響を無視

これは以前、本ブログで取り上げたところです。消費税の増税の悪影響は、実質所得の低下により、長期間続きます。消費税増税は、むしろ最後の手段にすべきです。

消費増税による消費低迷は一時的な「反動減」ではない。消費低下はずっと続く。消費税増税は財源調達の最後の手段に。 - 日本の改革

ところが、OECDのレポートでは、2014年の消費税増税後の景気後退と同様の影響がありうることは無視して、「経済成長を阻害する効果が小さい」として、安定的な税収だからという理由で、消費税増税による財政再建をすべきと主張しています。

経済成長阻害効果は、金融所得税の強化の方がはるかに小さいでしょう。影響を受ける層が限られるからです。金融所得課税の税率引き上げについては、本ブログでも主張しました。

所得再分配のため、米国民主党議員は大金持ちに課税しろと言い、日本の旧民主党議員は消費税率を上げろと言う。 - 日本の改革

③歳出削減を先行させずに消費増税財政再建可能と言うのは実証的に間違い

いわゆる「アレシナの法則」です。経済学者アレシナの最近の論文によっても、増税より歳出削減の方が経済へのダメージが小さいことが示されています。この点も、既に本ブログで詳しく述べました。

改革派の財政政策①-2:増税より歳出削減(Part2)⇒増税か歳出削減か、国民が選択できるようにすべき。 - 日本の改革

そこでも引用したのですが、あらためて、アレシナの2018年の論文から引用しておきます。日本語訳のリンクを貼りますので、興味のある方は、是非ご一読いただければと思います。

ある国がGDPの1%に相当する規模の削減策を行うと、その国では平均GDP 成長率と比べて約0.5ポイントが失われることになる。GDPのロスは通常2年と続かない。加えて、 歳出削減型の計画が景気拡大期に実施されると、GDPの落ち込みは平均で0であった。

対照的に、増税型の財政再建は深刻かつ長期に渡る景気後退をもたらしていた。GDP 比1%相当の増税型の財政再建策は、再建開始前の傾向と比較して平均2%のGDP減少につながっており、この相当深刻な景気後退の影響は数年に渡って続く傾向がある。

 https://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/fandd/2018/03/pdf/alesina.pdf#search=%27Alesina+%E5%A2%97%E7%A8%8E+%E6%AD%B3%E5%87%BA%E5%89%8A%E6%B8%9B%27

④世界中が金融緩和をしており、政府債務について考え方が変わっている現状を無視

主流派の経済学者達も、政府債務削減よりも経済へのダメージを重視すべきだ、とはっきり言い始めています。たとえば、ローレンス・サマーズは、最近の論文で、そのように主張しています。経済学の教科書にある「財政赤字金利上昇を招き、民間投資を縮小させ、あらゆる人をより貧しくする」というメカニズムは、1980年代~90年代ならともかく、現在の経済には通用しない、と言います。実際、アメリカでも政府債務が巨額になる一方、低金利が続いているからです。

www.foreignaffairsj.co.jp

アレシナやサマーズの説を見ると、現代の経済状況で、財政再建を絶対視して極端な増税を先行させるべきでない、という考え方が、経済学者の間でもある程度共有されていることが分かります。OECDのレポートは、こうした視点を持っておらず、古臭い教科書的な発想に立って書かれています。

⑤最近のOECD事務次長(3~4人のうち1人)が財務省出身

では、なぜ、OECDは日本への提言で上のような間違いをおかしたのでしょう。グリア事務総長も、これまで何度も、毎年1%ずつ消費税の税率を上げろという、トンチンカンなことを言い続けてきたようです(上の記者会見の動画で言っています)。

私は、日本からOECDに出向している財務省官僚の影響ではないかと思います。OECDの事務局は、事務総長の下に、3~4人の事務次長がいます。そのうちの一人が日本人で、これを2011年以降、財務省出向者が占めています。2011年からは玉木林太郎氏で、彼のときに消費税増税が決定、グリア事務総長はそれを「強力に支持」しています。グリア氏と当時の財務大臣との会談、及び、玉木氏の仕事については、以下に出ています。

https://www.oecd.emb-japan.go.jp/pdf/finance5.pdf#search=%27oecd+%E5%87%BA%E5%90%91+%E6%B4%BE%E9%81%A3+%E6%97%A5%E6%9C%AC%27

また、2017年以降は旧大蔵省・金融庁出身の河野正道氏に替わりました。

www.nikkei.com

Official portraits and biographies of OECD Deputy Secretaries-General - OECD

組織内の地位からして、OECDに所属するエコノミスト等は、財務省のスタンスを反映せざるを得ないでしょう。高橋洋一氏がIMFについて言っていることが、OECDにも言えるはずです。

要は、財務省が手を回して、消費税増税を言わせている、ということです。以前、本ブログで、日本の政治家達の消費税率の「相場観」は20%だろうと書きました。そこで紹介した話ですが、政府税調の野田毅最高顧問は、30%という声もあるが、20%で、と言っています。

消費税増税の是非:安倍政権は、小泉政権の改革の原点に立ち返れ。 - 日本の改革

今回のOECDの報告書も、26%と20%という数字を際立たせています。

議論の方向を、「歳出削減か消費税増税か」、「消費税を減税するか、しないか」、「消費税増税凍結か10%の消費増税か」といった議論ではなく、「消費税は20%か26%、30%か」という議論に誘導しようというところでしょうか。そうだとしたら、役人らしい、こざかしいアジェンダ・セッティングです。

いま議論すべきは、「消費税増税凍結か10%の消費増税か」等であって、20%どころか、10%増税さえつぶすことが最優先課題です。残念ながら確率は低そうですが、それでも、消費税増税凍結・撤回に向けて努力すべきです。安易な消費税増税は、0.1%たりとも、絶対に許してはいけません。