日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

福島の首長達の新たな安全神話:「核燃料デブリは安全に全て取り出せる」「だから帰還して下さい」

今日の要点

福島第一原発からの核燃料デブリの取り出し作業の見通しが全く立ちません。ロボットでつかめたと思ったものは、溶けた制御棒等の残骸。デブリの大半は原子炉内なので、取り出すには相当の危険が伴いそうです。今後の地震等のリスクもあります。

・そもそも、デブリを完全に取り出せるはずだ、という前提自体に無理があります。地元自治体の首長達は、デブリを取り出さずに周囲に防壁を作る「石棺」方式について、「帰還の妨げになる」として反対し、選択肢から外させました。

・しかし、デブリを安全に取り出して、原発跡地を更地に出来るとの前提に立っているなら、それは新たな安全神話です。何が安全な廃炉方法かにつき、帰還政策を進めたいからという動機で語るべきではありません。

福島第一原発からの核燃料デブリの取り出しは無理ではないか

NHKスペシャル廃炉への道2019 核燃料デブリとの闘いが始まった」(2019年3月16日)は、福島第一原発から核燃料デブリを安全に回収するのは極めて難しい、という実態をあらためて浮き彫りにしました。素人目には、全く不可能に見えます。

www.nhk-ondemand.jp

最近、デブリ取り出し作業が進んだかのような報道もありました。ロボットを使って、小さなデブリのようなものに触った!つかめた!一歩前進だ!と言われていました。

www.nikkei.com

ところが、それはデブリではなかった、ということを、この番組は明らかにしています。ロボットがつかめたのは、2号機の格納容器の下に堆積していた「小石のような何か」でしたが、それは制御棒等の金属が溶け落ちた残骸でした。核燃料デブリは、その上部にある原子炉内部に残ったままのようです。このあたりは、以下の記事でも、番組内容が文字で紹介されています。

wedge.ismedia.jp

原子炉内のデブリを取り出すには、原子炉上部のオペレーションフロアという場所からロボットや大型装置を入れる必要があります。この場所の放射線量は極めて高いようです。大型装置等を入れるには、この汚染された建屋の解体が必要で、放射線が外部に漏れ出さない対策も必要です。これら工程の具体策につき、現状では見通しが立ちません。1号機、3号機についても、それぞれに難しい状態だということです。

こんな状態であるにも関わらず、政府・東電のロードマップでは、2021年、つまり再来年からデブリの取り出しを始め、30~40年で終わる、ということになっています。
www.enecho.meti.go.jp

2021年から、というのはもう先送りするに決まっていますが、30~40年というのも、全然根拠のない数字です。既に2015年、原子力損害賠償・廃炉等支援機構の山名副理事長(当時)が、以下のように答えています。

最大40年かかるとした目標は変えなかった。この目標は事故直後に米スリーマイル島原発事故の経験などをもとにたてたもので、技術的に明瞭な根拠があるわけではない。現実にデブリ(溶融燃料)の取り出し工法がまだ決まっていないし廃棄物の処理方法も未定だ。ただ40年程度でやりとげないといけないという思いが当初から変わらずある。ずるずると先延ばしになるのはよくない

https://r.nikkei.com/article/DGXMZO88989400X00C15A7000000

要は、なるべく早くすべきという「思い」にすぎません。その思いは分かりますが、問題は安全性と実現可能性です。デブリを取り出すという方法は、その両方があやしいと言わざるを得ません。廃炉工法の方針も、上の2015年のインタビューの頃は、冠水方式というやり方を軸に検討していましたが、後に断念しています。

デブリ取り出しへのこだわりは、帰還政策を強引に進める地元首長達のエゴではないか

そもそも、デブリを安全に、完全に取り出せるはずだ、という前提自体に無理があります。別の方法として、デブリを取り出さずに周囲に防壁を作る「石棺」方式というのもあります。これが検討されたこともありましたが、地元の首長が反対して、選択肢から外れた、という経緯がありました。

2016年7月に、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が、廃炉作業の新たな「戦略プラン」で「石棺」に言及したところ、福島県の内堀雅雄知事が抗議しました。

産経新聞2016年7月15日の記事によると、内堀知事は高木陽介経産副大臣と会談し、「福島県民は非常に大きなショックを受けた。(住民帰還などを)諦めることと同義語だ。風評被害の払拭にも影響が及ぶ」と強く非難したということです。これに対し、高木氏は「国として石棺で処理する考えは一切ない」と述べ、機構の山名理事長も鈴木正晃副知事と面会し、「石棺を検討していることは全くない。ご心配をおかけしたことをおわび申し上げたい」と陳謝した、ということです。

www.sankei.com

福島県庁だけはありません。福島民報2016年7月14日記事は、他にも多くの首長が反対した、と報じています(データベースを参照したので、リンクはありません<(_ _)>)。

・第一原発が立地する大熊町の渡辺利綱町長「原子炉の溶融燃料(燃料デブリ)を取り出し、安全を確保するのは帰還の前提だ。従来の手順にのっとり、県外に処分場を確保すべき」

双葉町の伊沢史朗町長「あらゆる技術を駆使しデブリを取り出すのが当然と考えている」

広野町の遠藤智町長「帰還や復興に向けた努力に水を差す石棺という選択はあり得ず、言語道断」

川内村の遠藤雄幸村長「石棺化は問題先送りにすぎず根本的解決ではない」

そして、最後に福島県の樵隆男危機管理部長の「さまざまな処分方法を検討することは否定しないが、県はデブリを取り出した上で県外で最終処分するよう求める」という発言を紹介しています。

機構の発表したプランでは、結論として石棺方式を否定しているにも関わらず、この反応です。そして、各首長の発言からうかがえるのは、デブリ取り出しという方法に徹底的にこだわるのは、彼等が以下のような方針を前提にしている、ということです。

福島第一原発から核燃料デブリは、安全に完全に取り出して、県外に持ち出す。原発跡地は完全に汚染のない更地となるし、県内にデブリは残らない。最後はそうなるから、住民は安心して帰還して下さい」

住民の帰還を急がせたい地元の自治体・首長としては、これがベストのシナリオでしょう。だから、国にもそう要求してきたし、恐らくは各所で住民にもそう説明してきたはずです。政府は政府で、復興は着実に進んでいることにしたいから、これに乗ってきた、という構図でしょう。

つまり、住民の帰還を進めたいという政治的な意図が、廃炉方法についての選択肢を狭めています。政治が安全性に関する専門家の議論に優先している、という極めて由々しき事態です。機構はこの頃、本音では以下のように答えていたそうです。

機構は、当初の福島民友新聞社の取材に対し「石棺は問題を先送りするだけの安易な方法で、デブリを全て取り出すという方向に変わりはない。しかし原子炉内の状況が分かり、再び環境を汚染する可能性や作業員の命を危険にさらす可能性が極めて高い場合でもデブリを取り出すのかと問われれば、それはできない。内部の状況も分からずに石棺は100%ないといううそはつけない」と答えている。

(技術と政治/行政と住民(石棺化報道をめぐって)2016年7月25日(中島賢一郎)より引用。リンクがうまく貼れませんでした。福島民友の2016年7月14日の記事です<(_ _)><(_ _)>)

上記の報道が事実なら、良心的な専門家が、「うそはつけない」と言って示した選択肢を政治家がつぶしたことになります。しかも、それは、住民人口が増えた方が自分達の地位も安定するという地元政治家=首長等のエゴに基づいているように見えます。

住民の帰還は進めるべきだ⇒そのためには、デブリを全部取り出すという方法でなければならない⇒デブリ取り出しという方法は安全であるべきだ⇒安全なはずだ。こういう安全神話が、福島の地元政治家によって作られようとしているのではないでしょうか。何も石棺方式が絶対というつもりはありません。問題は、政治家の主張が専門家による廃炉方法の議論を歪めて、新たな安全神話を作り出す危険があることです。政府も地元自治体も、強引な帰還政策とともに、廃炉行程自体を見直すべきです。