今日の要点
・昨日、トランプ大統領が議会に提出した大統領経済報告で、「日本とFTA交渉に入る」と明記。日本は物品だけのTAG主張なので、改めて違いが鮮明になりました。日本政府は、自動車輸出の数量規制等の不合理な要求は蹴るべきです。
・一方、国内改革にもなる部分は要求に応じ、農業については一層の開放をして、サービス分野では、ゆうちょ銀行の完全民営化等の改革をすることが国益=国民の利益にかないます。安倍政権には絶対できない改革で、野党も頼りないので、まずは国民が声を上げるべきです。
トランプ大統領の大統領経済報告、日本とはFTA目指すと明記
昨日、トランプ大統領が大統領経済報告を議会に提出しました。日経によれば、報告書の中で、日本とは「FTA交渉に入り、農産品や工業品、サービスの分野で貿易障壁を引き下げ、米国にとって利益を得ることができるだろう」と指摘されているとのことです。豚肉や牛肉の高関税を問題視して、「農産品だけでなく、物品やサービスの関税や非関税障壁が対日輸出の妨げになっている」と主張しているようです。
日米は来月にも第1回協議の予定ですが、日本はTAGという独自の呼称で交渉範囲を物品に限定、しかし、米政権はサービス等も含めた包括的なFTAを目指しています。
既に昨年末、米通商代表部(USTR)が、日本との新たな貿易交渉に向けて22分野の要求項目を議会に通知していました。アメリカの経済団体の要求を反映したもので、中にはひどいものもあります。
私が一番頭に来たのは、医薬品についての要求の背景です。これも日経の情報ですが、日本が新薬の公定価格を下げやすくしたのに対し、米製薬業界が反発しているようです。トランプ大統領は、製薬会社はもうけ過ぎと批判してアメリカでの薬価引き下げを求める一方、海外で収益を上げやすくする「取引」を持ちかけているそうです。
事実なら、かつての保険の第三分野並みの自分勝手で、無茶苦茶な話です。日本の薬価の決め方がベストとも限りませんが、それでも、患者を守り、国民負担を減らすため、薬価が上がり過ぎない仕組みは守るべきです。
あと、自動車の対米輸出の数量制限は現状では入っていませんが、米国は韓国との交渉で、鉄鋼の対米輸出を直近の7割に抑える厳しい数量制限を盛り込みましたし、油断はできません。
国内改革に役立つ要求は呑むべき。農業はTPP以上、サービス分野では、ゆうちょ銀行の改革を!
ただし、国内改革に役立つ要求もあります。日本の改革は「外圧」頼みとは言いますが、業界団体のためではなく、国民のためになることなら、日米政府間でウィンウィンの合意は望ましいことです。
まず、農業です。そもそも、TPPでは、日本の農業分野については自由化が全く不十分でした。特に、主要5品目でいくらか進んだのは牛肉と豚肉だけで、後はほとんど変わっていない、と言ってもいいくらいです。
以下は、TPPでの農水産物の関税撤廃率です。各国ごとに異なっていますが、他国は95%以上の関税撤廃率なのに、日本だけが82%です。
TPP大筋合意当時、日本政府は、日本だけが農水産物の関税撤廃率が極端に低いのを、「国益が守られた」ように言っていましたが、とんでもない間違いです。守られたのは、農業団体と農林族議員と農林水産省の利権であり、国益、つまり国民の利益は他国と比べて、大いに損なわている状態です。
いかにひどいかは、聖域となった品目について見れば分かります。コメは国家貿易を維持、既存のミニマムアクセス枠にTPP枠をちょっと追加して、民間の加工品の関税を下げるだけ。バター・脱脂粉乳も、天下り法人による国家貿易は維持して、やはりTPP枠で少し輸入増やすだけで関税はほぼ維持、チーズも日本で売れる種類の関税を維持。
多少開放されたのは、牛肉と豚肉ですが、牛肉は27.5%を9%に下げるまで16年もかかります。豚肉はキロ当たり482円の従量税が50円になるのでだいぶ下がります。が、これも10年かかります。もちろん、どちらもセーフガード付きです。
以上を分かりやすく図解でまとめているのは、以下の農水省のサイトですが、いかに国内農業を守ったか力説する内容です。誰の方を向いた農政か、一目瞭然の書き方です。
http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/2-1_5hinmoku_kekka.pdf
当然、アメリカの農業団体はこんな内容では不満でしたが、それでも牛肉・豚肉では関税が段々下がるので、畜産団体は一応納得していました。
ところが、トランプ政権がTPPを脱退してしまったので、彼らは最初、怒っていました。自分達は今まで通りの高い関税で日本に輸出しないといけないのに、ライバルのTPP加盟国、オーストラリアが日本向けに輸出を伸ばせるからです。
逆に、オーストラリアの農業団体はTPPからアメリカが抜けたことに大喜び?で、彼らは最初からアメリカ抜きのTPPであるTPP11に賛成でした。
今では、アメリカの農業団体は、TPP並みかそれ以上の市場開放を日本に要求しています。
畜産団体は最低でもTPP11並みの関税に早くしろと言っていますし、
米国乳業団体は、TPPを超える合意を要求しています。日欧EPAでは、チーズについてTPP以上の開放をしたのだから、当たり前の話です。彼らは、日本は国家貿易自体をやめろとも言っています。
TPPからアメリカが抜けて、日米の二国間交渉に切り替わったのは良い機会なので、日本は日米貿易交渉を通じて、一層の農業自由化を実現すべきです。
アメリカの畜産団体が言うように、TPP並みで良いならば、アメリカのTPP復帰を目指している日本政府としてはむしろ有難いことでしょう。しかし、それだけではなく、日本国民・消費者の利益を考えて、TPPを超える関税撤廃と数量枠の拡大を行うべきです。乳製品についても、向こうの団体が言うことを出来るだけ実現することが国民・消費者の利益にかないます。
もちろん、こうしてアメリカからの農産物アクセスをTPP以上に認めたら、TPP11の加盟国は黙っていません。先に紹介したオーストラリアの農業団体は、アメリカだけに有利な条件になったら、オーストラリアにも認めてもらう、という趣旨のことを言っています。それも全部呑んで、TPP11の内容自体も、日本の関税撤廃率をより引き上げる形で改訂すべきです。
自動車については、悩ましい問題ですが、数量規制や関税引き上げ等の要求は蹴ると同時に、国内の安全規制・環境規制については、多少の見直しを出来ないか検討すべきだと思います。安全や環境を犠牲にするのではなく、現在、自動車ユーザーにも過度の負担になっているような規制があれば、安全・環境に大きな影響が出ない範囲で、緩和を検討してはどうかと思います。また、自動車産業への研究開発税制等のような不透明で既得権化した利益供与も、この際、見直したら良いでしょう。
それより、アメリカの要求を前向きに国内の改革に利用できるのは、金融サービスの分野です。
アメリカのこだわるサービス分野について、在日米国商工会議所のサシン・N・シャー会頭(インド系の方ですかね)は、日経のインタビューで、
「日本郵政やグループの金融サービス企業の民営化を継続し、競争条件をそろえる必要がある」
と言っています。
日本は、ここについてこそ、アメリカの要求に応える形であっても、逆コースをたどってきた郵政改革を、元に戻すべきです。旧郵政民営化法では、とっくに完全民営化しているはずの、ゆうちょ銀行は未だに8割超の株式を日本郵政が持っていて、日本郵政の株の過半数は政府・自治体が持っています。完全民営化スキームがこれまでどう後退したか、たたとえば、産経の次の記事でまとめられています。
最近のひどい例は、郵貯の限度額引き上げです。その驚くべき経緯について、読売が一昨日、記事にしていました。
現在、参議院議員の柘植芳文氏は、全国郵便局長会(全特)の組織内候補として、2013年の参院比例選で、自民党から出て党内トップの約43万票を獲得し、今年の参院選でまた圧勝を目指しています。そこで、柘植氏は昨年末から、麻生財務大臣や参院幹事長の吉田博美氏に、ゆうちょ銀行の限度引き上げについて、働きかけを続けていたそうです。
「道筋がつかなければ団体に顔向けできない。私は次の選挙で出馬しませんよ」。渋る党幹部に、柘植氏がこうたんかを切ったこともあったとかで、先月、党の会議で異論は出ず、わずか15分で引き上げは了承されたそうです。
間接的に国有の銀行がこうして業務を拡大するのは、日本の金融業と経済の発展のためにも、望ましくありません。郵貯の限度額引き上げ等を行うなら、ゆうちょ銀行等は完全民営化をするべきです。
しかし、見た通り、こうした改革は、自民党には絶対できません。ゆうちょ銀行の改革は全特に、農業の自由化は農業団体に、がんじがらめに縛られて、何も出来ないからです。
だからこそ、野党が頑張ってほしいところですが、旧民主党はむしろ全特に手を貸して小泉郵政民営化路線を否定しました。維新も、役員の大物議員が農産物のTPP超の自由化は反対する可能性があります。
そこで例によって、まずは、国民が声を上げるべしと思い、主張します。対米貿易交渉では、農産物輸入でTPPを超える関税撤廃と輸入数量引き上げ、国家貿易制度の廃止を行うべきです。また、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の完全民営化、及び、商工中金、政策投資銀行の完全民営化等、金融サービスについても、小泉政権時代に到達した改革を実行すべきです。