日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

Google元副社長・村上憲郎氏「GAFAたたいてる場合か」⇒その通り。ただし、課税と消費者保護は強化すべき。

今日の要点

Google本社元副社長の村上憲郎氏が、GAFA批判に反論しています。情緒的なバッシングはダメだと言いつつ、情緒的な反発になっているのが残念です。

・IT大手企業への対応については、中小企業保護だけが優先されないよう、独占禁止法での規制は慎重にすべきです。しかし、課税と消費者保護の強化は必要です。巨大IT企業も、諸国民の意思にはしたがうべきです。

村上憲郎氏、GAFAへの情緒的なバッシングに情緒的に反発

朝日新聞で、Google本社元副社長・日本法人元社長の村上憲郎氏が、GAFA批判について、インタビューに答えています。

digital.asahi.com

最初、見出しを見て、心を躍らせました。

「GAFAたたいてる場合か」

全くその通りです。アメリカのIT大手には課税と消費者保護の点で問題はあると思いますが、日本はGAFAを叩く以前に、経済政策での大失敗を反省して、やるべきことが沢山あります。

官民ファンドなどというデタラメはすぐにやめるべきですし、脱原発で新しい産業を生み出すべきですし、電子カルテのネットワークでITベンダーやNTTに無駄な税金ばらまくより、グーグルの医療クラウドを導入すべきだと思います。

村上憲郎氏のことは、2014年に講演を聞いて以来、尊敬しています。恥ずかしながらそのとき初めて、IoT(モノのインターネット)という考え方に接してなるほどと思いましたし、村上氏が主張する将来のビジョンにも共感できました。

だから、村上氏が「GAFAたたいてる場合か」と言うからには、政策やひょっとしら政治にまで踏み込んで、日本の企業や政治がいかに遅れているか、何をどう変えるべきか、またワクワクするような話が出てくるはず、と思って読んでみました。

が、残念ながら、そこまでの話はありませんでした。と言うか、要点は、「情緒的な」GAFAバッシングをやめろ、ということだけで、ところどころ、村上氏自身が感情的に反発していました。

一番最初のやり取りはこうです。

<記者> 世界中で、強すぎるGAFAに対する風当たりが強まっています。取引先に不公平な条件を押しつけているとか、税金を十分に払っていないとか、本人に十分な同意を得ないまま個人データを利用してもうけている、といった批判もあります。どう見ていますか?
<村上さん> その質問がすでに情緒に流れすぎています。どこまで事実に基づいているんですか。GAFAのことをよく知らない庶民まで巻き込んで怒りをあおるような報道はやめて欲しい。
 特定の誰かに対する不満をあおることは負のエネルギーを生み、全体主義の復活にもつながりかねない。もっと根本的な議論をすべき時に来ています。日本もGAFAへの規制に乗りだそうとしていますが、やるとしても、情緒的なアプローチだけは、絶対に避けるべきだと思います。

まあ、朝日新聞の記者の質問も、情緒的な部分はあります。「強すぎる」GAFAというのは主観ですから。ただ、不公正取引の疑い、納税の不十分さ、不十分な同意での個人データ利用といった「批判がある」のは厳然たる事実です。事実として存在する批判に対する見方を聞かれて、質問自体が情緒に流れていて、事実に基づいているか疑いがある、というのはおかしいと思います。

「GAFAのことをよく知らない庶民まで巻き込んで怒りをあおるような報道」というのも、ちょっと言い過ぎでしょうし、「全体主義の復活」に至っては、びっくりです。プラットフォーマーが監視社会の実現に使われる、という批判に反論するつもりかもしれませんが、最初の質問からの飛躍が過ぎて、それこそ「情緒的な」反発です。

IT大手企業には、独占禁止法の規制は慎重にする一方、課税と消費者保護は強化すべき

GAFAに関する政策的対応は、独占禁止法での規制、特に不当廉売(略奪的価格設定)の禁止は相当慎重に行うべきだと思います。この点は、既に当ブログでも書きました。

アメリカで盛り上がるGAFA解体論:アマゾンやフェイスブックから受ける消費者の利益・不利益とは? - 日本の改革

日本での議論は今のところ、不当廉売禁止という話はないようで、消費者のデータについての権利を守り、プラットフォーマーを利用する中小企業の利益を守ろうという方向です。このうち、中小企業の利益を守るという部分が、ゆき過ぎてはいけません。上のリンクのブログでも書いた通り、「二面市場」で消費者には格安のサービスの一方、利用する企業からは割高の料金をとるのは、おかしなことではないからです。こうした点については、村上氏の言う通り、GAFAを感情的に叩くべきではありません。

ただ、課税と消費者保護の強化は必要です。

村上氏のインタビューで、税制の部分も引用してみます。

<記者> シリコンバレーの人たちは「自分たちが世界を良くしている」と言いながら、巨額の利益を上げ、様々な手法を駆使して納める税金は最小化している。だから不公平という批判が出るのではないですか?
<村上さん> ほら、そこですよ。不公平というのはすでに情緒的。違法な脱税をしているわけではないでしょう。節税をしている。それを問題視するなら、「納めなくても済む」という税制の方にこそ問題があるんですよ。税制を整えれば、それに従って、適法に納税すると思われます。
 「グレーゾーンがあって課税できない」なんてあいまいな表現はダメです。微に入り細に入り事実を積み重ねて解決するべき問題です。

「不公平というのはすでに情緒的」などと言い出したら、国民・企業の「不公平感を解消」するための税制改正はできなくなります。公平というのは曖昧な言葉ですが、それでも、税における大切な理念の一つです。

税制を整えればいいというのはその通りで、既にOECDで議論が進んで、今年6月のG20で見通しが示されるのは、村上氏もご存じのはずです。そうした議論が始まったのも、グーグルやアップル等が、ダブルアイリッシュ・ダッチサンドイッチなどと呼ばれた不自然な節税スキームで、アメリカ国民が怒りだすほど「不公平な」税金しか払っていなかったからでした。

tax.tkfd.or.jp

確かに、同じ手は、スターバックスをはじめ、IT系以外の企業もやっていました。だから、村上氏の反論は、「やっていたのはシリコンバレーにある企業だけではない、みんなやっていた」という形なら一理あったかもしれません。

しかし、節税スキームについては、大手IT企業に特有の問題も確かにあるので、課税強化は必要です。以下、森信茂樹氏の説明を紹介します。

IT企業は、消費者が住む国に、課税権の根拠となる支店等を置かなくてもビジネスが出来るので、課税を回避できます。また、IT企業の価値の根源は、著作権特許権等の無形資産です。企業はタックスヘイブン等に無形資産を移転して租税を回避することもできます。こうした「価値創造地と納税地のかい離」という問題はIT企業特有のもので、G20OECDで議論されてきました。

消費国に入るべき税収が入りませんし、納税する自国競合企業との競争条件の公平性からも問題です。欧州委員会の調べでは、デジタルビジネス企業の税負担率は9.5%で、伝統的ビジネスモデル(23.2%)の半分以下だということです。

www.nikkei.com

この問題に対し、いくつかの政策の案が出ています。

一つは、イギリスのハモンド財務大臣が昨年10月に打ち出したもので、2%のデジタル税と呼ばれているようです。ITプラットフォーマー企業が英国で稼いだ売上高に2%課税するもので、世界の売上高が年間5億ポンド(約720億円)以上の黒字の事業部門だけが対象です。

www.nikkei.com

もう一つは、アメリカのもので、無形資産に対する課税を強化できるものです。

”ギルティ”(GILTI)と呼ばれていて、日本語訳は、「国外軽課税無形資産所得合算課税制度」という長ったらしいものです。

元々はオバマ政権時代に検討されたもので、2018年1月から施行されています。タックスヘイブン子会社で計上された無形資産所得について、米国株主側で10.5%の税率で強制的に課税する内容です。「無形資産所得」を含めて、タックスヘイブン子会社のすべての所得が対象になります(岡直樹氏の、以下の論文をご参照下さい)。

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このように、各国で制度や考え方が違いますが、それを2020年までに調和させるため、今年6月のG20で議論されます。

既にOECDは、この問題含めて、参加国で国際課税について一致した意見や方向を「ポリシーノート」という形で公表しています。この中に、上の二つの税制も「案」として含まれ、更にもう一案、ユーザーから得たデータの量等をベースに課税する案(インド提案らしいです)も挙げられています。

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やり方は色々ありますが、やはり公平性という点で、GAFAへの課税強化は必要です。

また、消費者保護も強化すべきです。テクノロジーの発展と経済成長のためには、国家の規制は最小限であるべきです。また、村上氏が言うように、GAFAへの国民の憎悪があおられるようなことになったら、全体主義とまでいかなくとも、「いじめ」のような形で企業活動が妨害されることはあり得ます。

一方で、大手IT企業が、使い方によっては、監視社会の実現や国家による国民の統制に使われうることは確かです。

フェイスブックは2万人以上の個人情報を各国政府に提供したと言って叩かれたのが6年前ですが、

www.huffingtonpost.jp

昨年3月には、8700万人の個人情報の不正流出が問題になり、一部が選挙キャンペーン会社のケンブリッジアナリティカに横流しされていました。

www.nikkei.com

このように、GAFAが政府に怯えているというより、GAFAが政府と結託するおそれを世界中の諸国民が抱くべき状況が確かにあります。まして、プラットフォーマーとして、中国企業が台頭してきた以上、政府と一体化したプラットフォーマーが全世界的な監視社会を作ることは、全くの絵空事とは言えなくなってきました。

巨大IT企業への、国家の規制は最小限であるべきです。しかし、巨大プラットフォーマー企業は、諸国民の意思を体現する形で課される課税強化や消費者保護を、当然甘受すべきです。