今日の要点
・米中の冷戦が進むなか、日本はアメリカにつくことを明確にする必要があります。そのためにも、一帯一路への協力は、出来るだけ早くやめるべきです。
・日本政府は昨年、日本と中国の「第三国での協力」を建前に、一帯一路政策への協力を打ち出しました。そもそも安倍総理は、中国に融和的すぎます。しかも、「第三国協力」の目玉プロジェクトに日本企業は参加せず。経済的利益さえ乏しい政策であり、早くやめるべきです。
全世界を巻き込む米中冷戦
フィナンシャル・タイムズのコメンテーター、ギデオン・ラックマン氏が、世界は米中の二国の対立でブロック化しつつある、と書いています。一部を抜粋・要約します。
イタリアが、中国の一帯一路構想を支持する覚書に署名する見通しだと3月7日に報じられたところ、米トランプ政権の報道官が、一帯一路は「中国による中国のための取り組みだ」と批判、牽制。中国の外相はこれに反論。
アメリカは、中国の一帯一に警戒感を募らせている。もし一帯一路構想が成功すれば、「ユーラシア大陸全体が中国との緊密な関係を深め、大西洋を挟んだ米国と欧州の結びつきは弱体化しかねない」
アメリカは「中国の様々な大型投資プロジェクトを常時監視し、その戦略的意味合いを測っている。中国企業が世界中の港湾施設に多額の投資をしているという事実は、中国が海軍力で米国に対抗しようとしているとの観点から捉えられている。」
米中冷戦が進む中、世界各国は、特にアメリカの同盟国は、アメリカへの支持・協力を求められていますし、日本は、これに積極的に答えるべきです。
こうした観点から、アメリカが軍事的意図を疑い、常時監視しているという一帯一路への協力も、日本は止めるべきです。イタリアと違って、一帯一路への協力という言い方ではなく、「第三国協力」と言っていますが、同じことです。
日本の一帯一路支援「第三国での協力」。目玉のタイ鉄道プロジェクトに日本企業は参加せず。意味のない政策に。
日本政府は昨年、日中が第三国での経済協力を行う方針を打ち出しました。そして、日中両国政府は、「日中第三国市場協力フォーラム」という大がかりな会議を開催しました。安倍総理が挨拶を行い、「日本政府として、開放性、透明性、経済性、財政健全性といった国際スタンダードに沿った、第三国の利益となるプロジェクトが形成されていくよう、中国政府とともに後押ししていく」と述べたということです。
ジェトロのサイトから引用しましたが、どうもこの話、外務省は乗り気でなくて、経済産業省が前のめりに進めてきた、と、産経が報じています。経産省がジェトロを通じた省益拡大の機会と見て進めた可能性があります。
昨年10月、訪中から帰った後の安倍総理は、日本の衆院本会議の代表質問で、日中首脳会談で、(1)競争から協調へ(2)隣国同士として互いに脅威にならない(3)自由で公正な貿易体制を発展させる、という3原則を確認した、と言っています。ところが、中国政府は、そんな表現は使っていない、という趣旨のことを言っています。
安倍総理にとっては、一帯一路への協力は、何より外交上の成果を上げたい、という政治的動機で進めるべきものだったのでしょう。「競争から協調」などという、中国と合意していないフレーズまで使って、世間受けを狙ったのではないでしょうか。苦労のかいあってか、日中首脳会談後に、日中外交についての姿勢は、世論調査では評価されました。日テレでは、日中外交は「評価する」が61%にのぼりました。
安倍総理が、一帯一路で事実上の協力に転じたのは、世論受けだけではなく、親中派の二階幹事長への配慮等、色々な理由があるでしょう。そもそも、第一次安倍政権の頃から、安倍総理は、イメージと違って、中国には手ぬるい政治家だと思います。
日経によると、安倍総理は、日米が協調する「自由で開かれたインド太平洋戦略」についても、「一帯一路に対抗するメッセージはよくない」と発言しているようです。日経はこれを、米国一辺倒でない「複眼外交」などと持ち上げていますが、とんでもない心得違いです。安倍総理が政治的信念として、親中姿勢だと言うなら、自由と民主主義という基本的価値観を軽視していると考えざるを得ません。
「第三国協力」という名前での一帯一路への支援は、せめて日本企業にメリットがあるのでしょうか?
先に紹介した、去年10月の日中のフォーラムでは52件の協力文書が結ばれましたが、毎日によると、電気自動車(EV)向け急速充電器での協力など、発表済み案件の焼き直しも多く、日本企業からは「フォーラムに合わせ、政府から『協力事業を出せ』と圧力がかかった」との声も漏れていたそうです。
そして、この「第三国協力」なる一帯一路支援の目玉政策と見られた、タイでの高速鉄道のプロジェクトに、日本企業は参加しませんでした。これは安倍総理肝入りのプロジェクトです。日経が詳細に経緯を報じているので、一部だけかいつまんで紹介します。
昨年5月、国際協力銀行の前田匡史副総裁(今は総裁だとか)がタイのプラユット暫定首相を表敬訪問し、「3空港間鉄道は日本がイニシアチブをとり、日中協力で推進したい」という安倍政権の意向を伝えました。
その後、とんとん拍子で話は進んで、5月に来日した李克強首相と安倍首相との首脳会談で合意、タイの3空港間鉄道はモデルケースに位置付けられました。
ところがこれが官民パートナーシップ(PPP)方式をとっており、総事業費2200億バーツ(約7500億円)の大半が民間負担になる一方、需要見通しが厳しかったことから、伊藤忠等の中心的企業が尻込みし、結局、日本企業はどこも参加しないことになりました。
日経は、こうまとめています。
「企業からは「中国と協力すべき事業は、言われなくてもやってきた」と不満の声が漏れる。政府が先走り、民間がついていけない中国とのインフラ協力は、掛け声倒れの予感が漂う」
日本の企業の中には、アメリカとの貿易摩擦が今後予想されるから、一帯一路支援を通じて、中国市場への一層のアクセスを得たい、という動機もあるようです。去年10月には、自動車メーカーの関係者がそのように発言していた、と、NHKが報じています。
この理由で、一帯一路を支援というのも、間違った政策です。アメリカとの同盟よりも、中国市場をとる、ということだからです。むしろ、一帯一路支援とは距離を置いて、中国への経済的な締め付けに参加することで、日米貿易交渉を出来るだけ有利に進めるべきです。
米中冷戦という歴史上重要な転換点にあって、このような小さな利益のために、財界さえ利益を感じない政策を進める必要は全くありません。日本は、一帯一路への支援政策を出来る限り早急にやめるべきです。