日本の改革

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アメリカで盛り上がるGAFA解体論:アマゾンやフェイスブックから受ける消費者の利益・不利益とは?

今日の要点

アメリカ民主党エリザベス・ウォーレン上院議員が、巨大IT企業の分割を主張して注目されています。

・海外では、アマゾンに不当廉売禁止の規制を課すべきという意見もありますが、経済学者の反対もあります。

・今後の日本での議論では、大中小の企業の利益の保護ではなく、消費者の利益を第一にする、という原則に立って、考えるべきです。

ウォーレン上院議員GAFA分割論

アメリカ民主党エリザベス・ウォーレン上院議員が、IT大手企業のGAFAを分割すべき、と主張して、注目を集めています。彼女は、2020年の大統領選の民主党予備選に出るとも表明しています。

ウォーレンがGAFA分割を主張した政治広告をフェイスブックに載せたら、フェイスブックがこれを削除して、ニュースになりました。批判を浴びたフェイスブックは、また掲載し直したようです。

www.newsweekjapan.jp

ウォーレン氏は、この経緯を、フェイスブックが力を持ち過ぎた証拠であり、自分は「唯一の看視者が支配するソーシャルメディア市場は望んでいない」とツイートしているようです。同氏にとっては、フェイスブックの自爆によって、自分の主張が裏付けられるような形になり、むしろ有難い展開だったのではないでしょうか。

www.itmedia.co.jp

フェイスブックが広告を削除してウォーレン氏の主張を広めるまでもなく、同氏のGAFA分割論は注目を集めていました。

日経によれば、米テキサス州のテクノロジーとスタートアップのイベント「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」で、ウォーレンは持論を展開しました。他の民主党議員も、そこまでいかなくともプライバシー保護等の必要性を論じたりしたようで、エンジニアが集まるSXSWで「テック懐疑論」が優勢となるのは異例とのことです。

巨大ネット企業はプラットフォームを所有しているので、情報やルール作りの点で他の参加者よりはるかに優位な立場なのに、利用者としてもプラットフォームに参加して利益を上げているということです。

アマゾンの場合、第三者がだれでも商品を販売できるプラットフォームを所有する一方で、アマゾンの自社商品も販売しているのが利益相反にあたるから、この2つの事業は分割対象になる、という主張です(彼女のブログでは、Amazon Basicsという家電ブランドが例に挙げられていましたが、正直、初めて聞きました・・・)。

他に、大物ベンチャーキャピタリスト(VC)ロジャー・ナクナミー氏もGAFA分割を支持しています。マイクロソフト独禁法の調査対象となった結果、専業以外が出来なくなって、多くの特許や技術者が放出され、他の企業が発展した、という意見です。

www.nikkei.com

ウォーレン氏は、ブログで、以下のようなGAFA解体プランを述べています。

・第一に、グローバル市場で250億ドル以上の売上を持ち、一般消費者にオンラインで市場等を提供している企業を「プラットフォーム公益企業(platform utilities)」と定義する。これらの企業は、オンライン市場等のプラットフォームに、自ら出品等の形で参加してはならない、という規制を課す。これにより、グーグルやアマゾンは分割される。

・第二に、以下の合併を反競争的として、企業を分割させる。Amazonによる Whole FoodsとZapposの買収、FacebookによるWhatsAppとInstagramの買収、GoogleによるWaze、Nest、DoubleClickの買収。

これらにより、インターネットの利益はこれまで通り享受できる一方、中小企業が公平に扱われ、消費者のプライバシーも守られるようになるはずだ、と主張しています。

medium.com

というわけで、巨大IT企業による買収はまかりならんから禁止するし、今までの企業統合についても、分割する、ということです。

直観的には、ちょっと厳し過ぎる感じもします。日本では、まだそこまで消費者利益が害されているという実感がない方がほとんどではないでしょうか。ただ、ルールを設定するプラットフォーマーが同じプラットフォーム上で競争するのは不公平で、歪められた競争が独占に至って消費者の利益を侵害する、というような場合には、企業統合に関する規制もやむを得ないでしょう。あくまで、消費者利益をもとに考えるべきです。

アマゾンに不当廉売禁止の規制をかけるべき?

アメリカでは更に、アマゾンの安売りに対して、不当廉売禁止の規制をかけるべきだ、という主張もあります。

以前、日経も、IT大手に対する新たな独禁法の議論をしているとして紹介していたリナ・カーン氏です。

www.nikkei.com

彼女は有名な論文Lina M. Khan(2017)"Amazon’s Antitrust Paradox"(The Yale Law Journal, vol.126(3))で、略奪的価格設定(不当廉売禁止)について、(拾い読みでざっくり要約すると)以下のような主張をしています。

「1980年代から、略奪的価格設定についての議論は、消費者の便益というより、消費者価格の問題のみが論じられてきた。略奪的価格設定が問題なのは、原価割れ等の安値で売ることでライバル企業を撤退させ、独占になった後は価格を上げることになったら問題だから規制しよう、ということだった。したがって、当局の認定の基準も、低価格で売った損失を後の値上げで取り返せるか、というものになり、この基準になってから、略奪的価格設定と認定される事件数が大幅に減った。

アマゾンについては、例えばe-bookについて、ベストセラーで全て10ドル未満としていても、全体として現在でも利益が上がっているから問題ないということになっている。しかし、アマゾンは全く別の商品で損失を埋め合わせているし、そもそも、消費者ごとに価格を変えるうえ、その価格も頻繁に変えており、旧来の基準での認定は極めて難しい。また、値下げの原資を出版社から徴収することもしている。こうした場合、略奪的価格設定の対象に出来るようにすべきだ」

www.yalelawjournal.org

こうした議論に対し、経済学者は反論しています。プラットフォーマーのビジネスは、財・サービスを出品する企業と、消費者の両方を集める「二面市場」の提供であり、この場合、たとえば本を出品する出版社から高い料金をとり、消費者には(ただも含めて)安い値段で売るのは、合理的な行動だ、というのです。なぜなら、消費者は価格が少し高くなれば買うのをやめてしまいますが、企業は高めの利用料(や多少不利な条件)が課されても、プラットフォーマーを利用すれば利益が上げられる場合があるので、価格に対する反応(弾力性)が全然違うからだ、ということです。

こうしたケースにつき、略奪的価格設定(不当廉売)の規制を、消費者価格だけを見て課すべきではない、というのです。

http://www.glocom.ac.jp/chijo_lib/113/085-092.pdf#search=%27%E4%BA%8C%E9%9D%A2%E5%B8%82%E5%A0%B4+%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A0+%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%AD%E3%83%AB%27

私も、二面市場では、消費者にびっくりするほど安く、場合によってはタダで財・サービスを提供し、企業からは高めの利用料をとるのは、自然なやり方だろうと思います。消費者と企業では価格への反応の仕方が違いますし、消費とビジネスとでは同じ1万円でも意味が全然違います。こう考えれば、結局、略奪的価格設定(不当廉売)で規制をするのは、相当慎重になるべきだろうと思います。

ただ、経済学者も、ネット上の安売りが、消費者の利益を害する可能性を認めてはいます。それは、ネットを利用しない消費者だけに対して、高い価格がつけられるような場合です。以下の本のp436-437あたりに書いてある話です。 

良き社会のための経済学

良き社会のための経済学

 

 これも見方によるところでしょうが、ネットを利用したくても利用できない消費者もたくさんいることを考えれば、ネット利用の消費者とネットを利用しない(できない)消費者とで、あまりに価格に開きがあって、ネットを利用しない消費者からの高い価格でネット利用者の安値を埋め合わせている場合には、何らかの規制はあっても良いかもしれません。

消費者の利益を第一に、ただし、利用者が享受する価格だけでなく、非利用者の価格やプライバシー保護等も考慮すべき

以上のように、アメリカでは、企業統合という面でも、不当廉売という面でも、IT大手への規制強化論が盛り上がっています。

私は、以前もブログで主張した通り、やはり消費者利益を最優先する形での規制、という視点を徹底すべきだと思います。

公取委、ネット通販大手を一斉調査:世耕大臣の政治介入?プラットフォーマー規制は、消費者利益を最優先に! - 日本の改革

私がこの点を強調するのは、日本での議論は、容易に既存企業の利益保護という方向に傾きがちで、消費者のためにならない可能性もあると思うからです。先にブログで書いたように、アマゾンの一斉値引きに調査が入ったときに、経済産業省の影がちらつくようでは、消費者のために行政をやっているようにはとても見えません。大臣自身が、「中小企業を所管する大臣として」「ぜひ迅速な調査と必要な対応を進めていただくことを強く期待」などと発言しているのは、言語道断だと思います。独占禁止法は、少なくとも長い目で見れば、消費者のための法律です。

あと、企業統合について言えば、元ソニーの出井氏が今頃になって、「ソニーがアップルを買収しとけばよかった」みたいなことを言っています。聞くに堪えない負け惜しみです。同じ負け惜しみにしても、新技術を開発しておけばよかった、ではなく、買収しておけばよかった、というのでは、GAFA分割論まで出ている今の議論から見て、相変わらず時代遅れでどうしようもない、負けて当然だ、という感慨しか持ちません。

digital.asahi.com

というわけで、IT大手への規制は、既存の大中小の企業の利益を守るためではなく、競争を促進して、消費者の利益を図るためにこそ行われるべきです。

この視点から正当化される規制は、消費者のプライバシー保護、消費者が自分のデータを自由に利用できる権利の保護、政治的な意見が自由に表明できるようにすること、ネットを利用しない消費者の利益を害しないこと、等になるでしょう。

ルールの中身も、決め方も、(IT大手含めて)業者保護ではなく、消費者利益を第一に考えるべきです。