日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

競争を嫌う日本の経済団体と大手企業。消費者・国民のために、独占禁止法の強化を!

今日の要点

独占禁止法の改正案が昨日、閣議決定されました。ポイントは、違反行為のペナルティである課徴金の上限を大幅に引き上げる一方、調査へ協力したときの減免を今までより柔軟に行う「裁量型もあるという「アメとムチ」です。

・この改正、経団連は基本的に反対で、弁護士とのやり取りを秘密にする「秘匿特権」にこだわり、自民党はそれに乗りました。消費者団体はおおむね賛成、日弁連は秘匿特権があればほぼ賛成、という構図でした。今回、秘匿特権は規則・指針での対応です。

・談合やカルテルの課徴金減免制度(リニエンシー)は、摘発に大きな効果を上げました。それでも、今なお、談合もカルテルも繰り返されています。悪い意味での「業界秩序」を破壊する改革として、独禁法等の競争法の強化は更に進めるべきです。

独占禁止法の改正案が閣議決定、「裁量型課徴金減免」を導入へ

独占禁止法の改正案が昨日、閣議決定されました。要綱、条文等は以下です。

www.jftc.go.jp

中身は、課徴金制度に関する二つの見直しです。

一つ目は、課徴金の上限を引き上げました。もともと、カルテル等の独禁法違反行為はしょっちゅう起きているのに、日本の独禁法の課徴金は低すぎました。たとえば、どんな長期間のカルテルでも、売上の3年分に算定率として1割をかけた金額しか、課徴金になりませんでした。しかも、中小企業は減免されたり、「業種別算定率」という謎のえこひいきがあったりしました。

海外との課徴金制度との比較を挙げておきます。日本はやっぱり全体的に緩いですね。

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課徴金制度の国際比較 出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/dkkenkyukai/dokkinken-1_files/siryou.pdf

そこで、10年分の売上までを算定基礎とするようにしたうえ、中小企業が大企業の子会社であるような場合には減免をなくし、不公平な業種別算定率も廃止しました。そして、違反行為で主導的な役割だったり違反を繰り返したりしていたら、割増の算定率をかける、つまり、課徴金を増やす、ということにしました。

要は、課徴金の上限を大幅に引き上げました。

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独禁法改正案①:課徴金の算定基礎、算定率 (出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/keitorikikaku/190312besshi1.pdf

 

課徴金制度の見直しの二つ目は、調査への協力度合いに応じて課徴金を減免する課徴金減免制度(リーニエンシー)を、より柔軟に運用できるようにする、ということです。

現行制度は、先着順で最大5社まで適用されますが、減免率は申告順に1位100%、2位50%、3位以下30%と決まっています。申告の順番だけで大きな違いが生じるので、後から認めた企業が協力しないという弊害があります。

リニア談合事件では、早くに認めた大林組清水建設は協力的ですが、大成建設と鹿島があくまで突っ張っているのは、申告順で扱いが違い過ぎるのも一因かもしれません。

www.nikkei.com

そこで、改正案では、申請順位の下位も減免の対象にして、実態解明に役立つ協力があった場合、課徴金を上乗せして減らします。これまで対象外だった6位以下の申請順位の企業も減免対象として、協力度合いに応じた減免率を、順位によらず最大40%とします(調査開始後は20%)。

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課徴金減免制度の見直し (出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/keitorikikaku/190312besshi1.pdf

(なお、日経新聞は、これを「裁量型課徴金」と書いていましたが、公正取引委員会に電話して聞いてみたら、それは不正確で、あくまで企業と協議して決める仕組み、と言っていました。)

以上、二つの見直しで、違反行為のペナルティである課徴金の上限を引き上げる一方、調査へ協力したときの減免を今までより柔軟に行うことで、「アメとムチ」によってカルテル等を防ごう、というものです。

日経によれば、改正案の背景に、企業側の協力をさらに促す狙いがあるということです。課徴金減免制度(リーニエンシー)については、

「2006年の導入当初はこうした企業間の"密告合戦"を促すような制度は「日本になじまない」と言われた。だがふたを開けてみれば、効果は絶大だった。」
「同制度の申告件数はここ数年100件超を記録。18年3月末までに1165件に達した。名古屋市発注の地下鉄工事やリニア中央新幹線の建設工事など巨大工事での談合事件や、自動車輸出の海運カルテルなど課徴金総額が百億円を超える大規模な価格カルテルなどの摘発にもつながった。」

このように、効果のある制度なので、課徴金上限を上げて脅しも更に効かせて、課徴金減免のアメはもっと甘くしようという趣旨です。

www.nikkei.com

改正に抵抗したのは経団連自民党。消費者団体は賛成、日弁連は「秘匿特権」あれば賛成

この改正、2016年2月から2017年3月まで、公正取引委員会独占禁止法研究会で内容を議論して、2017年4月には報告書も出来ていました。

www.jftc.go.jp

公正取引委員会は、報告書の出来た2017年に国会に出そうとしていたのに、経済界と自民党がずっと反対していました。日経新聞は、焦点になったのは、企業役員が弁護士に相談した場合の資料等は秘匿できるという「秘匿特権」を認めるべきかどうか、という点だったと言います。2017年の記事でも、2018年の記事でも、この法案の最大の焦点は、秘匿特権が入るかどうか、という書きぶりです。

www.nikkei.com

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しかし、本当にそう言えるかどうか、私は疑っています。もともと、先の独占禁止法研究会でヒアリングを受けたときから、経団連は、基本的に改正に反対の姿勢をとっていました。なるべく引き伸ばしたくて、秘匿特権の問題にあくまでこだわり続けたようにも見えます。独禁法研究会の経団連提出資料はこちらです。

https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/dkkenkyukai/dokkinken-4_files/4kaisiryou-2.pdf

はっきり言っていませんが、本当は、課徴金の上限引き上げはもちろんいやで、課長期減免制度の柔軟化については、カルテルも談合もやりやすい「業界の秩序」を乱されるのがいやだったのではないでしょうか。そこで、自民党の弁護士出身の物知り若手議員さんを巻き込んで反対を続けた、というようにも見えます。

今回の改正、消費者団体は基本的に賛成、という意見でしたし、

https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/dkkenkyukai/dokkinken-5_files/5kaisiryou-1.pdf

日弁連も、秘匿特権が認められれば賛成、という立場だったようです。

www.nichibenren.or.jp

日本の司法制度がまだまだ遅れているのは確かで、企業役員と弁護士との打ち合わせ資料などは、公正取引委員会の調査対象から外しても良いと思います。今回は法案には盛り込まれず、規則・指針での対応になりますが、法文化してもよかったでしょう。

ただ、これは経済界の防御手段の一つにすぎず、今回の改正の本質は、課徴金制度の二つの見直しでの「アメとムチ」です。

今回の改正案の閣議決定までこれほど時間がかかったのは、独禁法強化による競争促進が大嫌いな経済団体の体質を露呈した形だったと思います。

独禁法強化等の改革で、競争を嫌う「業界の秩序」を破壊して、自由で公正な競争社会を作ろう!

日経のこれまでの報道ぶりは(「裁量型」課徴金減免という言葉の使い方も含めて)ちょっとおかしい気はします。それでも、社説では、今回の改正自体を歓迎し、カルテルや談合を厳しく批判しています。一部引用します。

「政府が独占禁止法の改正案を閣議決定した。経済活力と消費者利益を損なう談合・カルテル事件を根絶やしにするには、企業どうしが自由でフェアに競う環境を整えることが欠かせない。
法案に盛り込んだ硬軟両様の課徴金政策がそれを後押しする。国会は会期中に成立させるべきだ。
アスファルト合材の販売価格を不当につり上げるカルテルを結んでいたとして、公取委は前田道路など8社に約600億円の課徴金を課す方針だ。ひとつの事件の課徴金としては最高額になる。」

www.nikkei.com

日経社説が取り上げている前田道路のアスファルト合材のカルテルですが、前田道路は他に、道路舗装での談合事件も繰り返し起こしています。前田道路だけではなく、ゼネコン関連会社の道路舗装会社もいっしょになって談合をしていました。

ちょっとググっただけで、出るわ出るわ。復興事業の東北地方の高速道路復旧工事で談合してますし、

www.sankei.com

同じく復興事業で、関東地方の高速道路の復旧工事で、談合を「繰り返していた」として課徴金命令を出され、

www.nikkei.com

空港舗装でこれまた談合を「繰り返していた」として、課徴金命令を受けています。

digital.asahi.com

以上、前田道路一社だけの話です。ゼネコン系列含めて同業他社もみんな談合を繰り返すどころか常態的に続けていて、もののついでのように、アスファルト合材での価格カルテルまでやった、ということです。

こんな背景を考えれば、そもそも現行の独占禁止法入札談合等関与行為防止法も、全然抑止できていないことになります。法律の内容も、そして何より執行も、甘すぎると言うしかありません。

今回の改正程度ではまだまだ足りないでしょうが、それでも、経済界と自民党の抵抗で立法化が遅れました。何とか、今国会で成立させてほしいところです。野党は、法案の内容を厳しくする方向でこそ質問すべきです。