日本の改革

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政府・与党・野党・国民は、力を合わせて、経団連の抵抗を排して、内部留保課税を実現しましょう!

今日の要点

内部留保課税への原理的な批判は、実際のところ、大した意味はありません。アメリカには現に、日本より厳しい留保課税制度がありますし、日本でも導入可能です。

アメリカの内部留保課税制度には、課税逃れを防ぎ、配当をさせるという明確な目的があります。日本で独自に、賃上げ目的で導入を議論する意味はあります。更に、アメリカ流に、内部留保に「事業の合理的必要性」も要求するなら、設備投資を促す効果もあるはずです。

経団連の抵抗を排して、政府・与野党・国民は、内部留保課税を実現しましょう。

何度目かの内部留保課税の議論

一昨日の衆議院予算委員会。統計問題についての集中審議でしたが、玉木議員が、企業の内部留保の増加と労働分配率の低迷という問題を取り上げ、これが実質賃金低下の原因だ、と主張していました。確かに、金融政策や消費増税という物価要因以外では、利益は上がっているのに賃金を上げない企業がおかしい、ということになります。

これを受けて、意外な人が意外なことを言い出しました。統計問題のキーパーソンの一人、元行革担当大臣の山本幸三氏です。山本氏は自民党のバッターとして質問に立っていたのですが、玉木氏の論点を引き継いだうえで、

「私は、自民党税調でも、内部留保税とれ、という議論をしているのですが、財務大臣いかがでしょうか」

と聞いたのです。

これには驚きましたが、私が無知だっただけで、山本氏は2,3年前から言っていたようですね。さすが、筋金入りのリフレ派です。賃金を上げるためなら、何でもやるべきということなのでしょう。

www.sankeibiz.jp

また、自民税調内で、最近でもこの議論がされていたことにも驚きました。

というのも、内部留保課税と言えば、かつては共産党の専売特許、その後、民主党政権が検討したものだから、自民支持者とおぼしき人達が、メディアでもネット上でも、目の敵のように批判したりバカにしたりてきた税制だからです。

火に油を注いだのが、一昨年の総選挙です。小池百合子氏率いる希望の党が、目玉政策の一つにしたときのことです。このときも、またこんなバカなことを言っている、という批判を色々な人が言っていました。

その中の一つ、日経新聞による批判を取り上げます。批判の理由は主に二点あります。一つは、法人税を取られた後に更に課税する形になるので、二重課税ではないか、ということです。もう一つは、内部留保を企業のたまり金のように見るのが誤りだ、ということです。内部留保は正確には利益剰余金のことで、これはバランスシートの右側、貸方にあるもので、バランスシートの左側、借方にある現預金とは何の関連もない、という批判です。日経は更に、仮に現預金が借方に相当あったとしても、それは将来の運転資金として必要なものだ、としています。

www.nikkei.com

この二つは、内部留保課税に対するよくある批判ですが、どちらも大した意味はないと思います。

まず、二重課税だという批判ですが、一つの課税対象に対して、異なる目的で何種類もの税金がかかっている例は他にもあります。課税が一重だろうが二重だろうが三重だろうが、経済や社会全体にプラスが生じるなら、それは望ましい課税です。

次に、内部留保=利益剰余金が現金を意味しない、複式簿記上の全く別の概念だ、というのは、当たり前のことです。そのうえで、利益剰余金に課税して、企業に利益剰余金を減らす誘因を与えることの是非を論じればいいだけのことです。

どちらも、税や会計の「概念」から、演繹的にドグマティックに政策の是非を論じています。特に、二重課税だという批判は、内部留保課税は税のこれこれの「本質」に反しているだからダメだ、と言うような時代遅れの推論に立っていると思います。税制は、抽象的な概念に合う合わないではなく、経済にプラスかどうか、国民生活に役に立つかどうか、だけで論ずればいいものです。

アメリカの留保金課税制度

そもそも、日本でもアメリカでも、既に内部留保への課税は行われています。現実に制度として存在しているのだから、原理原則だけで良し悪しを論ずるのは意味がありません。その形や規模をどう変えるか、というのが問題です。

日本の場合は特定同族会社だけが対象なので、ここでは、アメリカの制度を紹介します。本節の以下の記述は、金田直之(2009)「留保金課税制度と法人税のあり方」(税務弘報2009.12)と、金田直之(2016)「留保金課税の歴史的経緯とその意義」(青山経営論集51巻3号)によっています。金田(2016)はネット上で読めます↓

https://www.agulin.aoyama.ac.jp/opac/repository/1000/19651/19651.pdf

アメリカの留保金課税制度は、企業が配当をせずに内部留保を行うことで、株主の配当所得への課税の繰り延べや軽減を行うのを防ぐための制度です。つまり、株主が配当に係る所得税を逃れることを防ぐため、企業が内部留保をためることにペナルティーをかけています。

このペナルティーにも二種類の留保金課税制度があるのですが、ここでは、日本に参考になりそうな制度として、留保利益税(Accumulated Earning Tax)を取り上げます。この税の目的は、さっき書いた通りで、法人課税後の利益を法人内にためて配当を延期するというやり方で株主が課税逃れをするのを防ぐことにあります。こうした課税逃れの意図がある場合に、企業に課税されます。

その際、「事業の合理的な必要性」を超えて内部留保を行っている場合には、課税逃れの意図があるとみなされます。実際の課税額は、その企業の課税所得に配当の支払い能力を反映するような調整を行った額(これをaccumulated taxable incomeと言います)に、個人所得税の最高限界税率をかけて求めます。つまり、企業が配当可能な金額全体にかなり高い税率をかけた税額を納めることになります。零細事業者には累積で25万ドルまで非課税です。

なお、「事業の合理的な必要性」は財務省令に細かい判断基準が定められていて、正当な事業拡張や事業買収の必要性等が挙げられています。このように、個々の事例ごとに内国歳入庁(IRS)が判断する制度なので、個別具体的な公平性が図れるものの、コストもそれなりにかかる制度になっています。裁判も起きて判例の蓄積もあるようです。

この制度の沿革は、大恐慌時に遡るようです。企業が内部留保によって富裕層への配当課税を回避するのを防ぐため、留保利潤税(undistributed profit tax)というのが、1930年代に一時期出来たそうで、それが一部残った形だということです。

この留保利潤税に対する最近の評価によれば、設備投資は減らしてしまったものの、配当と賃金の支払いを促して消費を増やした、という二つの面がある、ということになっているようです。そのうえで、金田(2016)は、現在のアメリカの留保利益税ならば、「事業の合理的な必要性」があれば課税されないのだから、外部資金調達の難しい中小企業への負担は小さいと主張しています。

日本でも留保利益税の形で、内部留保課税を導入すべき

一昨年の総選挙のとき、小池百合子都知事が、「accumulatedなんとか」と言っていたのが、前節で紹介した、留保利益税(Accumulated Earning Tax)です。

logmi.jp

先に見た通り、留保利益税の現在の目的は、配当所得の課税逃れを防ぐ、というものです。一方、そのもととなった、大恐慌時の留保利潤税は、富裕層への課税逃れを防ぐと同時に、賃上げと配当性向の上昇に貢献した、ということです。その当時は制度上の不備により、設備投資には負の影響を与えたようですが、金田直之氏が主張する通り、現在のような「事業の合理的な必要性」があれば内部留保には課税しない、という制度にすれば、企業の経済活動を阻害しないでしょう。

課税はもちろん企業には負担ですが、内部留保課税は賃金と配当へのインセンティブを与えるための制度という位置づけにすれば、企業は、課税をされない形で、賃金も配当も増やせるはずです。賃金が上がればもちろん消費も上向いて景気の好循環がついに実現するでしょう。また、「事業の合理的な必要性」の判断基準を明確で公正なものにすれば、有用な設備投資を増やすことも可能なはずです。

また、内部留保課税は、先に見た通り、昔から言っている共産党はもとより、旧民主党や旧希望の党の人達も、小池都知事も(笑)賛成。それどころか、自民党の税調の中にさえ賛成意見があります。財務省は「二重課税ガー」を繰り返していますが、本音では賛成という報道が後を絶ちません(笑)。

gendai.ismedia.jp

官邸だって、賃上げが実現するなら本音では是非やりたいと思っているはずです。政府・与野党でいっしょに実現できる政策です。

そんな内部留保課税、誰が邪魔しているのでしょう。言うまでもなく、経済界です。一昨年の選挙のとき、小池さんが内部留保課税と言い出したら、経団連会長はただちに「受け入れられない」と反発しました。

www.nikkei.com

経団連会長が持ち出したのが、例によって、「二重課税ガー」という壊れたスピーカー状態の悪口。それでもさすがにまずいと思ったのか、いくらかは神妙に、

「これまでは貯蓄から消費にまわらないという課題があった。経済の好循環をまわすためには従業員への配分についてきちんと考えるのが重要だ」

とも述べたとか。面白い。同じころ、利益準備金がどうなっていたか、法人企業統計を見てみましょう。

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利益準備金の推移:2013~2017年 出所:財務省

見た通り、しおらしい発言をしていた同じ年、利益準備金は史上最高の446兆円、前年比で見ても、安倍政権で一番高い伸び率、約10%を示しています。

そもそも、21世紀になってからの日本の大企業は、人件費を減らして、つまりは労働分配率を減らすことで、経常利益を増やしてきました。

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S.ヴォーゲル「資本主義の未来(5)日本型制度の強み生かせ」より(日経2018年8月10日)


www.nikkei.com

この流れを止めて、なんとか、企業と労働者がウィンウィンの関係に、まともな資本主義に、持っていかなければいけません。内部留保課税は、そのために必ず役立つはずです。既にアメリカで導入されている制度です。過去に賃金と配当を増やした実績はあるし、現在のアメリカの制度にならえば、設備投資だって増やせます。

与党も、野党も、政府も、国民も、力を合わせて、近視眼的で時代遅れの企業経営者の抵抗を倒して、内部留保課税を実現しようではありませんか!それが結局は、日本の大中小の企業も救うことになるはずです。