日本の改革

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小沢一郎は、自民党にどんな「悪夢」を見せたのか:「農業利権の分捕り」と「真の改革」の違い

今日の要点

小沢一郎氏が、自民党に「もう一度、悪夢見てもらう」発言。民主党政権時代、小沢氏は自民党と農業団体の癒着を断ち切ったのですが、改革というより、利権の分捕りに見えます。

・農業利権は安倍政権で復活。前回の参院選同様、今回も農水省OBが自民から出馬予定です。自民党と農業団体の癒着を断ち、しかも単なる利権分捕りにならない改革が必要です。

小沢一郎自民党に見せた悪夢とは

 各党、選挙モードですね。まず、安倍首相が「悪夢のような民主党」発言。炎上狙いみたいなものでしょうけど、さっそく旧民主党の大物三人が釣られています。

首相発言に対して、まず枝野氏が反応。自民は利権手放したから彼らにとって悪夢だったろう、民主党政権にも良い面が云々。「利権手放したから彼らにとって悪夢」というのはその通りだと思いますが、言い方があまり面白くないですね。選挙用にカブくのなら、もっと大見え切らないと。

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 一番つまらなかったのは、岡田克也氏です。昨日の衆議院予算委員会で、これもたぶん選挙用、テレビ用に、命令形で「撤回しなさい!」と総理に迫ってましたが、ちょっと空回りで外した感じでした。その後はいつも通りの上品で大人しい質疑でしたし。

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安倍総理への返しが一番面白かったのは、小沢一郎氏です。

「もう一度、悪夢見てもらう」

いやもう何と言うか、古臭い自民党流の凄味の利かせ方です。加藤紘一氏が「加藤の乱」を起こしたとき、橋本龍太郎氏が、「熱いフライパンの上で猫踊りさせてやる」と言ったような感じの言い方です。

選挙戦の前哨戦の口喧嘩で、「お前らのときは悪夢だった」とケンカを売られて、「ほー、じゃあ、もう一度その悪夢とやらを見せてやるよ」とケンカを買った形でしょうか。良くも悪くも昭和の政治家の伝統芸能風の味わいというか、まあ、昔の言い方を借りれば、「平成元禄田舎芝居」ですね。国民は税金という安くもない木戸銭を払ってるのだから、田舎芝居よりも、もっと見るに値する芝居を見たいものですが、これからもっと面白い幕も開くんでしょう、たぶん。
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 前置きが長くなりましたが、小沢氏の言う「悪夢」とは何か。彼は、民主党政権時代、自民党にどんな悪夢を見せてやったと自覚しているのでしょうか。色々あるはずですが、私が真っ先に思い浮かぶのは、農業の公共事業の一つ、農地の区画整理等を行う土地改良事業の利権を自民党から引きはがしたことです。土地改良事業については、農水省のウェブサイトに簡単な説明があります。

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以下、民主党政権当時の報道の中から、東京新聞が2010年4月4日から13日まで掲載した「公共事業を問う」シリーズの内容から、簡単に紹介します。

2009年12月の盛岡市のパーティーの場で、小沢氏は地元選出の平野達男議員に、「政治家の団体役員の兼業禁止法案の検討」を提案したということです。農協や土地改良事業団体連合会などの農業団体について、自民党の国会議員や県議らが会長や理事を兼ねるのを禁止する案でした(東京新聞2010年4月8日)。

土地改良団体の全国組織、全国土地改良事業団体連合会は、最近では、「全国水土里ネット」とも言うようです。

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この全国組織のほかに、都道府県ごとに土地改良事業団体連合会(土地連)があって、自民党を支援しています。自民党の議員がこれら団体の会長や役員をしていることも多いので、その癒着を断ち切ろうという法案を小沢氏が検討していたというわけです。

この法案、実現していたら、農業改革だけでなく、様々な業界団体と政治家の癒着を断つことが出来たでしょう。趣旨としては改革に資するものです。

結局、法律ではなく、農水省が2010年1月、各農業団体に政治家の役員就任禁止を求める局長通達を出しました。政党や候補者の推薦、政治献金、パーティー券購入など九項目の禁止も求める徹底ぶりです(東京新聞2010年4月8日)。パーティー券さえ買えないのだから、日本維新の会の企業団体献金禁止の党内規より厳しいくらいです。

 

2010年度予算で、民主党政権は、土地改良予算を前年度比63% 減の2129億円としました。これが自民党の支持団体である土地改良事業団体連合会の糧道を断ちます。この団体は、土地改良政治連盟(土政連)を組織して、自民党を支援してきました。民主党政権になっても、農水官僚O Bが土政連をバックに、2010年の参院選自民党から出馬しようとしていましたが、予算の大幅カットを受け、当選する自信がないと辞退しました(東京新聞2010年4月7日)。

自民党と土地改良団体の癒着を断つ農水省通達と、土地改良予算の6割カットという事態を受けて、自民党の大物が次々に団体の会長職を辞任します。森喜朗氏は石川県土地連を、青木幹夫氏は島根県土地連を、そして野中広務氏が、全国組織である全土連の会長をそれぞれ辞任(東京新聞2010年4月8日)。野中氏はそれ以前に、土地改良事業の予算陳情を小沢氏にしようとして断られるという屈辱も味わっています。

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野中氏は政敵の小沢氏を「悪魔」とまで呼んでいました。10年近くを経て、安倍総理民主党政権時の小沢氏による農業利権の引きはがしを「悪夢」と言いました。つまり、安倍氏は野中氏と同類なのでしょう。

自民党の利権構造を知り尽くした小沢氏だからこその剛腕ぶり。ここで更に一歩を進め、平野達男氏に指示したように、農業団体に限らず、国会議員に全ての企業団体の役員就任を原則禁止し、政治献金もパーティー券購入含めて禁止、としたら、すさまじい大改革でした。まさに自民党にとっては悪夢どころか、御臨終だったでしょう。国民にとっては、既得権者だけのための政治を本当に終わらせる、素晴らしい改革になったはずです。

しかし、民主党政権はそこまでいきませんでした。出来なかったというより、そこまでする意志がなかったのだろうと思います。

第一、小沢氏自身が、これほどの予算カットをしておきながら、自分は土地改良団体にはどう接していたか。民主党への団体の陳情は幹事長室、つまり自分のところに一本化して、各県の土地改良団体が小沢氏のところに陳情せざるを得ないようにしました。

新潟の団体が陳情に来たときのことです。「農地整備の必要性を訴えると、小沢は驚いたように「コメどころの新潟がこんなに遅れているとは思わなかった。必要な事業はやらなければいかん」と力強く答えた。「予算を削った人とは思えない」。二十分の面会後、幹部らの表情は和らいだ」(東京新聞2010年4月7日)。

何のことはない、農業団体を自民党から引きはがして、アメとムチで手なづけて、自分達の支持団体にしよう、ということでした。

小沢氏は、確かに自民党と農業団体の癒着を断ち切って、自民党に「悪夢」を見させた、自民党にとっての「悪魔」でした。一方、国民にとっては、既得権者のための政治を打破する、ように見えて、結局は農業の公共事業の利権を自分のものにしようとしたのだから、少なくとも「天使」ではありません。まあ、民主党政権で小沢氏がやってみせたことによって、自民党の急所が見えたのは確かです。ある意味、情報公開という点では分かりやすい政治劇を見せてくれました。ただ、改革派にとって、小沢一郎氏とは、「あくまで自民党を倒すために使いこなす」ことが必要な、やはり恐るべき政治家なのです。

自民党の農業利権の復活

では、民主党政権が終わって、自民党政権に戻って、農業の公共事業はまともな形になったでしょうか。もちろんそんなことはありません。自民党は農業利権を「取り戻した」のです。

今では、二階俊博氏が全国土地改良事業団体連合会を務めています。土地改良予算も、来年度は4418億円で前年度から69億円増加しました。自民党と支持団体にとって大変有難いことに、悪夢の民主党政権の2129億円から、これほど予算が増えたのです!

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前回の参議院選で、全国土地改良政治連盟は、民主党政権時代には出せなかった独自候補を9年ぶりに出しました。産経でさえ、「自民支持団体が予算分捕り合戦」と冷ややかに報じています。

 

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ちなみに、この人は当選して、今では参議院議員です。農水省天下りですね。
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味をしめた自民党は、今年の参院選でも、全国土地改良政治連盟の支援で、また農水省天下りを公認しています。
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自民党と農業団体と農水省のこうした癒着をまた断ち切り、農業での無駄な公共事業をさせない。そういう改革は、相変わらず必要です。かと言って、小沢一郎氏のように、自民から利権を引きはがして、自分が分捕るだけでも勿論ダメです。

権力闘争は甘くはありません。あの自民党を倒すには、小沢氏のような政治家の力も必要です。しかし、利権分捕りが自己目的になっては、何の意味もありません。あくまで手段として、自民党と業界団体の癒着を断ち切って、自民党だろうが他の党だろうが小沢氏だろうが誰だろうが、既得権者の票とカネで政治が出来ない仕組みを作ることが必要です。

そうした真の改革を実現するために、小沢氏を「使いこなせる」改革派のリーダーが野党には必要です。誰にそんなことができるのでしょう?私には、今のところ、橋下さんしか思い当たらないでいます。いま、御本人にその気はなくとも、野党が国民を燃えさせる芝居をちゃんとうって、国民も本当に自分達の、子供達の将来を変えようと立ち上がるならば、橋下さんは必ず立ち上がると信じています。