日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

なぜ医療には基本法がないのか:患者・国民の「権利」が大嫌いな人達

今日の要点

・医療基本法の制定を目指す機運が高まってきました。我が国には約40の基本法があるのに、医療分野全体の基本法がありません。患者の権利の保障を嫌う一部の医療関係者が、今も条文を骨抜きにしようとしています。

・医療基本法で、患者の権利を保障し、裁判でも使えるようにすべきです。また、医療政策の決定に国民が参加する権利も必要です。医療サービスの供給者団体の利益よりも、利用者である患者・国民の権利の保障を優先すべきです。

医療基本法の制定を目指す議連の発足。なぜ、医療には基本法がないのか。

昨日2月6日、国民の医療を受ける権利などを定めた「医療基本法」の制定に向けた超党派議員連盟(会長・尾辻秀久参院議員)が発足しました。今年中の議員立法による法案提出を目指し、医療団体や患者団体へのヒアリングを今後進める、とのことです。
mainichi.jp

上の毎日新聞の記事は、日本医師会と患者団体それぞれの代表の声を紹介しています。
・日医の横倉義武会長「医療界と患者の対立ではなく、協働で立法につなげたい」

・患者側の15団体の代表「患者の位置付けを、施しを受ける対象から人権を守られる主体に改めて」

医療基本法の必要性では一致しつつ、医師会と患者団体での立場の違いがうかがえます。医師会代表は「協同」を強調し、患者団体は「人権保障」を求めています。

議連の名前は医療基本法議員連盟というようです。設立総会の様子を羽生田俊参議院議員(自民)が、ウェブサイトにアップしていました。なぜか写真だけですが。

www.hanyuda-t.jp

既に昨年5月、参院議員会館で、医療基本法の早期制定を求める初の院内集会が開かれていました。国会議員も与野党11人が登壇、「温度差はあるものの」、いずれも議員立法に前向きなコメントをしたと、毎日が報じていました。 

mainichi.jp

医療基本法は、医師法、医療法、医薬品医療機器法などを束ね、医療の基本理念や患者と医療提供者の関係などを定めるものです。他の基本法と同様、憲法と医療関係の個別法をつなぐもので、政府・国会に、予算措置や法律制定を義務付ける働きをします。

日本には、基本法と名の付く法律が40本くらいあるのに、これまで医療の基本法がなかったのはおかしなことでした。なぜそんなことになったのでしょう?

おそらく、患者の権利の保障について、医療関係者の一部が反対して、団体間の意見の調整がつかなかったからです。各団体の言い分等を見ていると、そのように思われます。以下で、経緯とともに見ていきます。

「医療基本法」という名前の法案が最初に提出されたのは随分昔のことで、1970年代だそうです。このときは、今とは全く内容が異なるもので、基本的には、医師のための法律でした。目指したのは、医療供給体制の総合的計画的整備、医学医術に関する研究開発の推進等でした。この法案自体は廃案に終わりましたが、目指された目標は個別の法律でほぼ達成されたようです。このあたりの経緯は、以下の全日本病院協会のサイトに詳しく書いてあります。

www.ajha.or.jp

現在議論されている形で医療基本法が浮上してきたのは、21世紀になってからです。2000年代に入り、ハンセン病患者に対する人権侵害への反省から議論が本格化しました。小泉元総理の、あの劇的な控訴断念の決断で、ハンセン病患者の方々と政府の和解が成立。2009年に、ハンセン病問題に関する検証会議の提言にもとづく再発防止検討会の提言として、医療基本法について言及されました。

https://www.mri.co.jp/project_related/hansen/uploadfiles/houkoku_090520.pdf

国は毎年、ハンセン病問題対策協議会を開催していました。その中で、たとえば2012年の協議会で、厚生労働省が、医療基本法の検討を行うことを約束しました。

www.mhlw.go.jp

このように、2000年代以降、医療基本法は、患者の権利を確立するための法律として議論されていきます。患者の権利法をつくる会は、2011年に医療基本法要綱案を発表しており、そこでは、医療に係る患者・国民の基本的人権を列挙しています。

www.iryo-kihonho.net

現在、色々な患者団体が声をまとめて、基本法の7項目の共同骨子を発表しています。そのうち、「患者本位の医療」の項目では、「世界保健機関(WHO)の国際的な理念と日本国憲法の精神に沿って、患者の権利と尊厳を尊重し、患者本位の医療が実現される体制を構築する」として、患者の権利保障を明記しています。また、「国民参加の政策決定」では、「患者・国民が参加し、医療の関係者が患者・国民と相互信頼に基づいて協働し、速やかに政策の合意形成が行われ、医療を継続的・総合的に評価改善していく仕組みを形成する」として、医療政策への国民・患者の参加が保障されています。

www.iryo-kihonho.net

これに対し、医療界は、患者・国民の権利を制限する提言を行っています。日本医師会は2014年に、「「医療基本法」の制定に向けた具体的提言」(最終報告)を発表しました。その中で、条文案では患者の権利は明記されているものの、裁判規範として利用されるのは望ましくないとの意見も紹介されていました。

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20140409_5.pdf

さらに、2016年に発表された「医療基本法(仮称)にもとづく医事法制の整備について」という報告では、患者の権利に裁判規範性を持たせないことを前文に盛り込む、ということを言っています。

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20160713_2.pdf

全日本病院協会も、なんとか患者の権利を弱めようとします。

「「なぜ今、医療基本法なのか」を考えるには、「医療のあり方」を出発点とし、権利・義務の関係ではなく、信頼の創造を前面に出すことを強く要望する」

として、基本理念では、

「医療は、人間の尊厳と生命の尊重を旨とし、個人の人権に配慮しつつ、医療を提供する者と医療を受ける者との信頼関係にもとづいておこなわれなければならない」

という形で、個人の人権は「保障」でも「尊重」でもなく、単に「配慮」すればいいだけにして、「信頼関係」の名で、患者・国民の人権を制限しようとします。

www.ajha.or.jp

医療基本法では、患者の権利を明記して裁判規範性を持たせ、医療政策への国民の参加の権利も保障すべき。

日本医師会も、全日本病院協会も、相変わらずのパターナリズム丸出しで、自分達の責任を回避しようとしています。彼らは、そもそも、「患者の権利」、「国民の権利」などという言葉が大嫌いなのでしょう。「何も知らないのだから患者は大人しく言うことを聞け、権利なんてうるさいことを言うな、お前らが医療過誤だなどと騒ぐから、医療崩壊になっているぞ、黙って「先生」を「信頼」していればそれでいいんだ」と言わんばかりです。

医療界のこうした姿勢のせいで、医療事故調査制度もほぼ骨抜きになっています。医療についての基本理念を定める医療基本法では、医療とは誰のため、何のためにあるのかをはっきりさせて、患者・国民の権利が裁判規範として機能するように条文を定めるべきです。

また、国や自治体での医療政策の決定への参加の権利も認める必要があります。「日本医療政策機構によるアンケートでは「(医療)制度決定への市民参加の度合い」に関して国民の満足度が際立って低い」とされています。国と自治体の医療政策決定には、患者、国民、住民の参加が当然認められるべきで、医療基本法では、この点も明記する必要があります。

www.nikkei.com

今の時代、どの業界でも、サービスの供給者よりも、その利用者のための改革が求められています。医療も例外ではありません。医師という職業の専門性はもちろん認めるとしても、医師・患者関係は、身分関係であってはなりません。

日本維新の会が、公務員制度改革で、「身分から職業へ」という理念を掲げました。メインの『古代法』に出てくる、近代法の理念としての「身分から契約へ」の応用でしょうが、日本の改革で掲げるべき素晴らしい理念です。

医師についても、「身分から職業へ」。同じ国民として、患者・国民も権利を持つ、医師も権利を持つ。それぞれの人は、能力、個性によって相互に尊敬しあうけれど、身分的な上下はない。もちろん、医師の働き方も他の国民と同じ。そんな社会を実現すべきです。

 

(付言)基本法と予算の関係について

基本法は予算を付ける根拠となるので、そこは医療関係の団体も賛成のはずです。今になって、各団体が基本法の必要性だけは足並みを揃えてきたのは、そんな事情もあるかもしれません。基本法の議論が進まなかったもう一つの原因は、政府や与党が医療費増大を嫌ったから、という理由もあるかもしれません。

医療基本法と予算措置の関係について、与党議員の発言がなかなか見つからないので、やむなく赤旗が出所の情報ですが、2017年11月の医療基本法制定のためのシンポジウムで、自民党古川俊治参院議員が、財政難で「80歳代後半まで働かないと(財政の)収支が合わない。財源抜きに基本法はつくれない」と述べた、とのことです。

医療基本法 制定ぜひ/田村副委員長 運動拡大訴え/都内でシンポ

もちろん、無理な財源措置を求める内容にしてはいけません。医療基本法の本質は、患者・国民の権利を一般法で保障することにあります。どんな自由権社会権も、人権の一般的な制約(他人の人権等)に服します。医療に関する予算措置を求める社会権としての患者・国民の権利も、国全体として負担可能な範囲にとどまるのは当然のことです。この面からも、患者・国民の権利を明記することに反対する理由はありません。