日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

政府統計への政治家の介入こそが問題の根源。イギリスにならって、統計行政の独立性の確保を。

今日の要点

・勤労統計も含めた政府統計について、一番大きな問題は、政治家が統計を都合よく悪用しようとすることです。これが政府統計への国民の信頼を失わせています。

・イギリスでも、統計が政争の具となっていたため、国家統計局を作り、統計部門の独立性を高めました。同様の改革を日本でも行うべきです。

政府統計への信頼失墜。原因は、政治家が統計を悪用しようとすること。

勤労統計に関する政府への不信が払拭されません。政府は、明日開会の通常国会前の幕引きを図りましたが、大失敗。厚労省の「特別監察委員会」の調査で、実は厚労省の役人自身が調査を行っていたことが判明しました。

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このため、お手盛りの調査報告だと叩かれて、厚労大臣は再調査すると言わざるを得なくなりました。

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現在、勤労統計だけでなく、政府統計全体への不信が広がっています。この問題は、統計行政への予算・人員の確保等の側面だけではなく、公的統計の独立性、中立性の問題として論じるべきです。この数年間、政府がGDPを何とか高く見せようとして、統計のあり方に口を出してきた経緯があるからです。

2015年10月16日の経済財政諮問会議で、麻生財務大臣が、家計調査と勤労統計について、疑問があるとして、総務大臣に改善を要求しました。家計調査では消費が、勤労統計では賃金が低すぎるのではないか、という指摘です(以下の議事要旨8p)。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/1016/gijiyoushi.pdf

二つの統計への麻生大臣の指摘には、それぞれにもっともらしい理屈がついてはいます。しかし、この時期にわざわざ(以前から指摘されていた)統計の「改善」を主張した意図は明らかでした。2014年の消費税増税以降、低迷していた景気指標をもっと良く見せたい、それによって、消費税増税を確実に実施したい、ということです。この会議翌日の日経の記事から引用します。

「実態以上に悪い指標が出て、財政出動や減税を求める声が出るのを抑える思惑もありそうだ」

財務相がこのタイミングで問題提起した背景は、17年4月から消費税を計画通りに10%へ引き上げられるか微妙な局面に入ることもありそうだ。昨年秋には14年7~9月期のGDPがマイナスに落ち込んだのが決定打となり、15年10月に予定していた10%への引き上げが延期された。
 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストはこの日の財務相発言について、「消費税を上げると景気が悪くなる、との印象が世の中に定着するのを避けたいのではないか」と語る」

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もちろん、財務大臣が会議で何とかしろと言っただけでは、統計の取り方はまだそのままですし、消費の数字は良くなりません。翌年の2016年3月時点で、個人消費の指標である消費支出は実質ベースで6カ月連続のマイナスを記録しました。2014年4月の消費増税から2年たっても、消費の数字は低迷していました。

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そんな矢先、2016年8月に初入閣した山本幸三行政改革大臣が、政府統計の改善が必要だとして、経済統計の整理統合をぶち上げました。既に、自民党行政改革推進本部が同年5月に、経済統計の改善の提言をまとめたときも、山本氏が指導役だったようです。消費統計の不備などから経済の実情がつかめないと持論をぶつ山本氏に対して、内閣府は「景気がいまひとつなのを統計のせいにするのか」と真意をいぶかったと言います。

www.nikkei.com GDP統計をはじめ、政府統計に改善の余地があるのはもちろんです。問題は、麻生氏や山本氏のような政治家が、政府与党にとって都合の悪い数字を問題視して、自分達に有利な結果を求める意図で、統計制度を批判し始めることです。政治家がGDPを高く見せようという意図が見え見えでは、たとえ制度の改善を図ったところで、結局は政府統計への信頼は上がらないでしょう。

イギリスにならって、統計行政の独立性の確保を!

昨年、統計法が改正され、経済統計については、山本氏の指示の方向での見直しも既に進行中です。これらは全て、今回の勤労統計の問題が発覚する以前から進められていることです。現在進行形の技術的な改善だけで、政府統計に対する国民の信頼は回復しません。

今回の勤労統計の問題だけでなく、昨年批判された裁量労働制データの政府による濫用等、政治家が政府統計を悪用しないように、政府統計を政治圧力から隔離する必要があります。政府統計について、縦割りを排して総務省が一元的に管理すべきだという方向で議論されていますが、それ以上に、政府からの独立性が重要です。

統計不信から、抜本的な統計制度の改革を行った国として、イギリスが挙げられます。イギリスでは、国家統計局が、政府から独立した機関として、議会に所属しています。

2000 年頃から、イギリスでは統計作成機関の独立性を重視する議論が生じ、それを受けて、2007年に、国家統計局(Office for National Statistics)が、国内最大の統計作成機関として、行政から独立する形で、議会の組織となりました。モデルはイギリス中央銀行だったそうです。国家統計局を監督するのは、統計理事会( UK Statistics Authority )で、2007 年にイギリス大蔵省から権限を引き継いでいます。この理事会が、全ての公的統計のモニタリングや評価 等を担当しています。

このように、イギリスでは、実際に公的統計を作る機関(国家統計局)も、それを監視する機関(統計理事会)も、政府から独立しています。

http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001890.pdf

これは、1997年から2007年に至る、イギリスで実現した広範な統治機構改革の成果の一つです。2007年の統計制度改革は、ブラウン首相のときに、行政の説明責任の強化の一環として、実現しました。

http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200903_698/069802.pdf#search=%27%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9+%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%B1%80+%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%88%B6%E5%BA%A6%E6%94%B9%E9%9D%A9+%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E9%A6%96%E7%9B%B8+%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E6%80%A7%27

ここに至るまでは、イギリスでも政府統計を巡る深刻な国民不信があったようです。

国家統計局が出来る前の 20 年間、イギリスの公的統計は政争の具とされてきたと言います。例えば、失業の定義が4年ほどで 26回も変わったそうです。

1990 年代に野党であった労働党が統計改革を訴え、1997 年の労働党マニフェストで独立した国家統計サービスが必要であるとしました。その後、労働党のブレア政権になってから、ブレアが以下のような演説を行い、統計改革に着手したのがスタートだったそうです。

「政府は政治をクリーンにし、現代化させることを誓約する。そして、政府と市民の間に開放性と信頼に基づいた新しい関係を求める」

(以下資料の9~10p)

http://www.esri.go.jp/jp/workshop/071127/program/pdf/session01_ja.pdf#search=%27%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9+%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%88%B6%E5%BA%A6+%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%B1%80+%E7%8B%AC%E7%AB%8B%E6%80%A7+%E4%B8%AD%E7%AB%8B%E6%80%A7%27

日本も、統計制度について、同じ方向で改革を行うべきです。イギリスでは議会所属という形になりましたが、日本の国会に所属させる際には、政党や議員が直接口を出せないようにもするべきでしょう。イギリスではイングランド銀行をモデルに独立性を図ったと言いますが、日本で言えば、たとえば会計検査院くらいの独立性が、政府統計、いや、「公的統計」作成機関には求められるでしょう。

とにかく、政府からは必ず独立させる、そして、仮に国会所属させるとしても、どの政党もどの政治家も口出し等できないくらいの、高い独立性、中立性、専門性を持たせる、民主的コントロールは、監督機関である専門家理事会を通じた間接的なものにする、といった形の改革を行って、公的統計に対する国民の信頼を回復すべきです。