日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

改革派の財政政策①-2:増税より歳出削減(Part2)⇒増税か歳出削減か、国民が選択できるようにすべき。

今日の要点

増税より歳出削減を優先すべきという、経済学者アレシナの考え方を紹介します。「歳出削減は増税より経済へのダメージが小さい」というアレシナの最近の説は、日本経済について、説得力を持ちます。 

・民主的正当性という点から言えば、増税か歳出削減かの選択は、国民が決めるべきことです。国民がこの二つを選択できる政治状況を作ることが必要です。

アレシナの学説:経済へのダメージは、増税より歳出削減の方が小さい

財政再建の方法について、経済学者のアルバート・アレシナ(ハーヴァード大学教授)の考え方が、日本では参考にされてきました。

scholar.harvard.edu

アレシナは、1996年の共著論文で、1960年~1995年のOECD諸国の財政再建時期に、歳出削減(特に給付削減や公務員人件費の削減)が行われた場合には財政再建に成功し、増税公共投資削減に頼ったときは財政再建に失敗ている、と主張しました。

https://www.nber.org/papers/w5730.pdf

小泉政権のときに、骨太の方針2006で大幅な歳出削減が入った際に、一つの参考にされたようです(清水真人『経済財政戦記』p224~225)。

更に、民主党政権末期、消費税増税が決まったときに、竹中平蔵氏が歳出削減をあらためて主張したとき、アレシナ説を各所で引用していました。ちなみにちょうど橋下徹氏が日本維新の会をつくる頃で、アレシナ説を引用した記事の中で、竹中氏は橋下徹氏を絶賛しています。

gendai.ismedia.jp

アレシナの名前は、維新の党の頃のマニフェストにも出てきます(↓3ページ目)。

https://www.nikkei.com/edit/2014shuin/pdf/ishin.pdf#search=%27%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%8A+%E7%B6%AD%E6%96%B0%27

日本の専門家の議論は賛否両論です。アレシナ説が基本的に正しいとして、日本でも歳出削減をもっと行うべき、という議論もありますし↓

www.jeri.co.jp

日本では、増税や歳出削減がアレシナの想定した経路で経済に影響を与えない、だから日本に適用すべきでない、として竹中氏を批判する論文もあります↓

https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list6/r120/r120_06.pdf

上に紹介した賛否両論の議論は2013年と2014年のものですが、アレシナ自身のごくごく最近の研究が新たに出て、ありがたいことに翻訳されています(『ファイナンス&デベロップメント』2018年3月号。IMF発行の雑誌掲載記事の日本語版です)。

1981年~2014年までのOECD諸国(一応日本も含まれています)の財政再建について、増税と歳出削減とどちらが経済に悪影響を与えるか、という点を調べたところ、歳出削減の方が悪影響が小さいことが分かったと主張しています。興味のある方は是非ご一読下さい。

https://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/fandd/2018/03/pdf/alesina.pdf#search=%27Alesina+%E5%A2%97%E7%A8%8E+%E6%AD%B3%E5%87%BA%E5%89%8A%E6%B8%9B%27

引用すると、

「ある国がGDPの1%に相当する規模の削減策を行うと、その国では平均GDP 成長率と比べて約0.5ポイントが失われることになる。GDPのロスは通常2年と続かない。加えて、 歳出削減型の計画が景気拡大期に実施されると、GDPの落ち込みは平均で0であった」

「対照的に、増税型の財政再建は深刻かつ長期に渡る景気後退をもたらしていた。GDP 比1%相当の増税型の財政再建策は、再建開始前の傾向と比較して平均2%のGDP減少につながっており、この相当深刻な景気後退の影響は数年に渡って続く傾向がある」 

これは、昨日の記事で取り上げた、小泉政権の成績と安倍政権の景気後退の比較を見ると、大変説得力のある主張です。

改革派の財政政策①:増税より歳出削減 - 日本の改革

アレシナは日本については小泉政権も安倍政権も財政再建の失敗例に入れているようです。それでも、日本国民としては、どちらの失敗がより小さいか、を見ずにはいられません。

歳出削減を行って消費税増税をしなかった小泉政権では、増税を行った安倍政権より、プライマリーバランスは改善しました。実質GDPも、総理就任直後の2001年度を除けばマイナス成長なしで、▼0.5%→0.9%→2.0%→1.7%→2.0%と推移。あれだけ緊縮財政だ、けしからんと言われた割には、マイナス成長は最初だけで後はおおむね安定成長。

安倍政権は最初の年度こそアベノミクスで高成長でしたが、次の年の消費増税で帳消しになり、結局、2.6%→▼0.4%→1.3%→0.9%→1.9%です。で、今年10月にまた増税です。

国民が普通はリスク回避的で、経済の変動より安定を好むとすれば、初年度だけ高成長で後は変動の大きい安倍政権よりも、小泉政権の安定した経済の方がまだ良いはずです。

更に言えば、同じ増税でも消費税増税の場合には、増税の痛みは国民全てに及びます。経済への打撃は甚大で、だからこそ消費税増税は大変な政治問題になります。

しかし、歳出削減には、特定の業界団体への支出のものも相変わらず大変多いのが現状です。経済への波及効果があまりないような既得権向きの支出を切ることは、アレシナの研究の示唆する通り、経済全体への影響は限定的でしょう。

増税か、歳出削減か:国民が選べる政治体制を実現しよう!

以上のように、増税か歳出削減かという選択については、経済的な側面に限っても、歳出削減の方が良さそうだ、ということが分かります。そして、この問題について、それ以上に重要なのが、民主的な正当性、即ち、主権者国民が同意するか否か、という点です。

以前のブログに書きましたが、小泉純一郎氏の総理時代の言葉をもう一度引用します。

「ギリギリまで歳出削減をやって、これ以上やるなら増税してくれと言うまでやらなきゃダメだ」

消費税増税の是非:安倍政権は、小泉政権の改革の原点に立ち返れ。 - 日本の改革

この言葉は何を意味しているのでしょう。増税か、歳出削減か、その決定権が国民にあるということです。この言葉に体現される民主主義の精神を、小泉政権が財政運営で形にしていったから、政権は支持され続けました。この選択は、国民が行うべきなのです。改革派の政権は、国民世論がもう増税で構わないとなるまで、徹底して歳出削減を行うべきです。

アレシナの客観的・経済学的な調査研究の中には、自ずと、諸国民の普遍的な民意が表れているのではないでしょうか。政治家はやはり、増税より先に歳出削減を考えるべきだ、という民意が、物言わぬ数字上の結果に反映されているように見えます。だからこそアレシナ説は、日本国民にも伝わりやすいし、改革派の政治家や政党も参考にするに値するものとなっています。

アレシナ説は、アメリカの1990年代頃の財政再建の理解にも役立つ、とも言われています。レーガン政権での財政赤字を削減するため、ブッシュ(父)政権は歳出削減を行い、次いでクリントン政権増税を行って財政再建に成功した例につき、歳出削減が先行したので国民の理解が得やすかったと言います。これも、民主的な正当性という点から理解できる話です。

http://www.fujitsu.com/downloads/JP/archive/imgjp/group/fri/report/research/2006/273.pdf#search=%27%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%8A+%E9%AA%A8%E5%A4%AA%E3%81%AE%E6%96%B9%E9%87%9D2006%27

これに対し、国民に増税と歳出削減の選択肢を一切与えなかったのが、「社会保障と税の一体改革」です。名前こそ「改革」とついていますが、こんなものは絶対にその名に値する改革ではありません。「社会保障と税の一体改悪」です。

その内容も増税先行でひどいものですが、それでも、これが国民に示す選択肢ならまだ分かります。一番大きな問題は、この改悪が、自民・公明・民主の「三党談合」によって、行われたことです。これでは、国民に何の選択肢も与えられません。小選挙区制で二大政党が談合することこそ、民主主義の否定です。旧民主党議員の中には未だに増税賛成も多いことを考えれば、将来また二大政党制に近くなっても、同じことが起きる危険は残るでしょう。

現状では、そもそも自民党一強で選択肢が乏しい状態ですが、かろうじて日本維新の会は消費増税凍結と言っていますし、信用しにくい政党ながら、立憲民主党は消費税増税反対と言ってはいます。時間がかかっても、安易な消費税増税に徹底して反対し、歳出削減を最優先する政党を、自民党への対抗軸として、なんとか作るべきです。

以上、2回にわたり、増税か歳出削減か、という論点に限って、改革派の財政政策のあり方を論じました。これ以外の論点については、またあらためて書くことにします。