要点
・外国人受け入れ拡大は、日本社会をより多様にすることを目的とすべきです。
・短期的な人手不足解消目的での、外国人受け入れ拡大には反対です。
・現在の政府の方針では、特に教育について、制度改正も予算も不十分です。通常国会では、外国人共生に関する基本法制定の道筋をつけるべきです。
何のための外国人受け入れ拡大か
日本に住民登録し、小中学校の就学年齢にある外国籍の子どもの約2割、1万6000人ほどが、学校に通っているか確認できない「就学不明」になっているそうです。
日本政府は昨年、外国人受け入れを拡大する方針を決定し、法律上、予算上の手当も行いました。政府は、先の記事のような実態を改善できるのでしょうか。というより、どの程度本気で改善する気があるのでしょうか。
そもそも、外国人受け入れを拡大するのはなぜでしょうか。この問いは、単に外国人をどう見るか、という問題ではありません。今後の日本社会をどのような形にすべきか、ということが問われています。
私は、今後の日本は、あらゆる点でより多様な社会を目指すべきであり、それは外国人問題についても同じだと思います。日本国民自体の出自が既に多様です。去年、大坂なおみ選手の活躍を見て、それを感じた日本人も多かったのではないでしょうか。
外国人受け入れについても、異なる民族、言語、生活環境の人々を、日本社会がより温かく受け入れて、日本の制度や文化を理解してもらうとともに、彼等から多くのことを学び、日本社会を飛躍的に多様化させるとともに、経済と文化両面での生産性も上げていくことが、日本自身の生き残りのために必要だと思います。
橋下徹氏も『政権奪取論 強い野党の作り方』(朝日新書)255ページで、
「野党は外国人労働者を単純な労働力補充と見るべきではない。日本を強靭にするため、そしてイノベーションを生むため、社会の多様性を推進するための人材と見るべできである」
と書かれています。
その目的のための外国人受け入れであれば、まずは外国人の社会権含めた人権保障を制度的に担保し、そのために必要な予算や人員を考えて、可能な範囲の受け入れ上限人数を定める、というのが政策の順序となるはずです。
ところが、日本政府は、後で述べるように、人手不足を理由に受け入れ拡大を決め、不足労働者としての受け入れ人数を決めた後、言い訳のように細々した社会政策上の対応を決める、という逆の順序をとっています。政策の目的が人手不足解消だからです。
政府の外国人受け入れ方針は、地方の中小企業向け緊急対策
昨年12月、改正入管法が成立し、政府はこれを具体化するための基本方針を年末に決定しました。政府は5年間で最大34万人を受け入れるとともに、受け入れ・共生のための総合的対応策を示しています。
昨年、6月の骨太の方針で「新たな外国人材の受け入れ」が示されてから、秋の臨時国会での改正法案成立、これを具体化する予算付きの基本方針の年内決定まで、とにかく急ぎに急いだ、という印象です。
なぜそんなに急ぐのか、なぜ外国人受け入れの拡大なのか。安倍総理はじめ政府は、地方の人手不足が深刻なため、という点を強調しています。以下の所信表明の(外国人材)の項目です。
「全国の中小・小規模事業者の皆さんが、深刻な人手不足に直面」しているから、即戦力となる外国人を受け入れる、生活環境を確保して日本人並みの報酬確保と言っていますね。
と言うわけで、一番重要な目的は、地方の中小企業の人手不足への緊急対策だ、だからすぐ使える外国人を入れる、もちろん彼等の生活には配慮するけどね、というのが、今回の外国人受け入れについての政府の方針です。
これでは、地方の一部業者を除いて、国民から理解を得られるはずがありません。地方の中小企業対策と最初から言ってるのですから、結局は去年の総裁選対策じゃないか、今年の統一地方選や参院選対策じゃないか、という声が出るのも、当然でしょう。
高橋洋一氏は、『未来年表 人口減少危機論のウソ』(扶桑社新書)第2章の中で、労働者として外国人を受け入れると、日本人の雇用や賃金が下がりかねず、労働需給次第で外国人の生活保護世帯も増える、として、今回の法改正の方向を批判しています。
低賃金単純労働に頼る非効率的な経営手法が温存されては、日本の労働者にとっても労働環境の改善が遅れ、技術革新の妨げにもなるでしょう。
政府の方針では、教育等について不十分。外国人共生基本法の議論を。
政府は、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会」で、基本方針を検討し、
以下のように、総合的対応策を決定しました。
http://www.moj.go.jp/content/001278316.pdf
予算総額は224億円(30年度二次補正+31年度)と立派に見えますし、他に地方創生交付金等も回す、と言います。
しかし、見ればわかる通り、よくもまあ各省の細々とした事業を積み上げたものだという感じです。こういうときは、各省の既存事業で多少予算を増やしたり、小規模の新規を入れたりして、それらをまとめただけ、ということもありがちです。野党、メディアはそのあたりもチェックしてほしいところです。
ここでは一つだけ、目玉になるはずの日本語教育について、文部科学省の予算を見てみます。来年度の文科省予算はこちらですが、
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2019/seifuan31/11.pdf
その8ページ目に、「外国人受入れ拡大に対応した日本語教育・ 外国人児童生徒等への教育の充実」とあり、5億円から14億円に、ほぼ3倍増になっています。政府が目玉と言いたいのは、多分ここでしょう。
しかし、そのうち5億円は、「地域の日本語教室に係るコーディネーターの設置」等の自治体支援ということです。ここが良く分かりません。何をコーディネートするのでしょう。自治体に、日本語教育をしてくれるNPOやボランティアを紹介するということでしょうか?もしそうなら、現在の、自治体・NPO等に丸投げの現状とあまり変わらないのではないでしょうか。
冒頭の記事にある、未就学の子どもの問題も重要です。「日本国民」ではないから、日本国憲法の定める教育をさせる義務がない、そんなやり方で良いはずがありません。外国人の子どもにも、教育における機会均等を制度上も予算上も保障すべきです。
もちろん、就学中の外国人の子どもの日本語教育も劣らず重要です。今は自治体・NPO等に任せきりなのだから、ここを更に強化すべきです。そうなれば、現在の予算案ではとても足りないだろうと思います。
外国人にその子どもについて教育を受ける義務を課し、外国人の子ども全てが十分な日本語教育を受けられる権利を保障し、国と自治体が制度上、予算上の責任を持つ。それだけでも大きな制度改正になるでしょうが、これは教育のほんの一部の課題についての対応です。他に、社会保障全般、治安等、多くの分野での対応を、労働力確保ではなく共生の観点から行うなら、やはり、外国人共生に関する基本法を定めて、それに沿って各分野の立法・予算化を行うのが筋だと思います。
既に複数の野党が案を出していますが、政府は、良い部分は取り入れて、今年中に閣法として提出するくらいのことをしていただきたいと思います。安倍政権は、同一労働同一賃金や教育無償化で、野党の主張を取り入れる柔軟さも持っていました。この問題でも、是非、その姿勢を見せてほしいと思います。また、野党は、法案を出しっぱなし、批判しっぱなし、ではなく、一部でも自分達の法案の実現を目指してほしいところです。