昨年12月25日の日経朝刊に、まるでクリスマス・プレゼントのようなニュースが。
「厚生労働省は患者が自宅にいながら処方薬を入手できる仕組みをつくる方針を固めた」
「テレビ電話での診察は4月に解禁されたが、今は薬を受け取るには薬局に出向き、薬剤師の対面指導を受けねばならない。スマートフォン(スマホ)などオンラインでの服薬指導・・・を全国で認める。将来は診察から薬の受け取りまで一貫して在宅でできるようにし、なるべく入院を減らして膨らむ医療費を削減する一助とする狙いだ」
このため、今月末に始まる通常国会に、薬機法改正案を提出するということです。
超高齢社会で、通院が難しい患者も増えるのに、医師不足の中で往診などそうそう増やせないでしょうから、診療から投薬まで全てオンラインで出来るメリットは極めて大きいでしょう。仕事や子育てで忙しい現役世代にとっても、通院の手間が省けるのは大変便利です。国は医療費上昇を抑制するために、入院から在宅・地域へ、という地域包括ケアシステムを進めていますが、そのためにも結構な話です。
と思って読んでいくと、記事の最後にどんでん返しが。
「ただ、日本薬剤師会は対面の服薬指導が「安全な薬物療法を確保するうえで極めて重要」としている。オンライン指導には一定の制限が課せられる方向だ」
なーんだ、という感じです。この話、日経より早く、毎日新聞が昨年11月5日に記事にしていました。そこでは、「一定の制限」をもっと詳しく書いています。
「国は今年5月から、国家戦略特区を利用して、福岡市、愛知県、兵庫県養父市の3地域で薬剤師のオンライン服薬指導を解禁。患者が離島やへき地に居住し医師のオンライン診療を受けていて、薬剤師とは対面が難しい場合に限って、郵送などで薬を受け取れるようになった。厚労省は法改正でこれを全国に広げつつ、特区と同様に地域を山間部などに限定したり、薬剤師に一定の対面指導を義務付けたりといった条件は課す方針だ。
これまでの特区では、要件が厳しすぎて利用が広がっていないとの指摘がある一方、日本薬剤師会などは「患者の安全性が担保できない」と拡大に慎重な姿勢を見せている。法案提出まで、要件を巡って関係者間の詰めの作業が続くとみられる」
ということで、投薬については、綱引き中ですが、日本薬剤師会の反対が強いと。
この件が議論されたのは以下の審議会で、
その結果決まったのが、昨年12月25日の「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」です。
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000463479.pdf
その8ページ目に、「遠隔診療の状況を踏まえ、対面でなくともテレビ電話等を用いる ことにより適切な服薬指導が行われると考えられる場合については、 対面服薬指導義務の例外を検討する必要がある。例外の具体的な内容については、オンライン診療ガイドラインの内容や特区実証の状況等に加え、かかりつけ薬剤師に限定すべき、品質の確保など医薬品 特有の事情を考慮すべき等の本部会での指摘を踏まえ、専門家によって適切なルールを検討すべきである」と、なかなかに慎重な書きぶりですね。一気通貫の在宅診療とは、なかなかいかなさそうにも見えます。
オンライン診療についても、ちょっと調べてみました。ちなみに、かつては遠隔診療と言っていたのが、遠隔地だけではないということで、オンライン診療に名前が変わったとか。そう聞くと、期待できそうに思えますが、さてどうでしょう。
昨年3月30日に、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が発表されました。
「情報通信機器を用いた診療に関するガイドライン作成検討会 オンライン診療の適切な実施に関する指針」を取りまとめました
長いんで、Q&A方式の解説を見ると、
https://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=3&id=23200&sub_id=2&flid=173604
「Q5 直接の対面診療を組み合わせないオンライン診療が許容され得る「定期的な健康診断等 が行われる等により疾病を見落とすリスクが排除されている場合であって、治療によるリ スクが極めて低いもの」として認められるものは、禁煙外来以外にどのようなものがあり ますか。 【V1(2)②関係】」
「A5 保険者による健康診断等において定期的に医師の診察を受けており、診断や治療方針が確 定し、悪化が予測されない場合等に限られるため、現状では明らかに該当するのは禁煙外来 のみと考えられますが、今後、医学の発展や ICT の進歩を踏まえ、例示可能なものは例示し ていく予定です。 」
何じゃこりゃ。要するに、対面診療と組み合わせない形で、オンラインだけで診療やっていいのは、原則として禁煙外来だけ?まあ、私はタバコの製造販売自体に反対なくらいなので、禁煙外来が認められているのは大変ありがたいですが、それで喜んでいてはいけません。
あと、診療報酬について、厳しい制限がついています。以下の資料の5ページ目です。
お医者さんがオンライン診療をしても、診療報酬については、
・連続して報酬に算定できるのは2か月間だけ
・6か月間、毎月同一の医師が対面診療を行っている場合に限り算定
・緊急時に約30分以内に当該保険医療機関が対面による診察が可能な体制必要
等々
・・・・・・何ですか、この「べからず」オンパレードは。これでは、オンライン診療に積極的なお医者さんも二の足を踏むでしょう。どうもなかなか、国民が本当に喜べるような中身ではないようです。実際、以上のような制限については、以下の記事でも批判されています。
通常国会で、オンライン投薬を認める薬機法改正案の議論に合わせて、オンライン診療の拡充についても、是非しっかり議論してほしいと思います。