日本の改革

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空襲で被害にあった民間人を救済する法案:戦争被害の補償に関する官民格差

去年、アニメ映画「火垂るの墓」公開当時のポスターに、ネット上で関心が集まったそうです。

news.livedoor.com

主人公の幼い兄妹が美しい蛍の乱舞の中で笑い合っているシーンで、真っ暗に見える背景頭上にB29の機影があるようです。普通に見ると分からないような暗さですが、明るさを調整すると見えるらしいです。蛍の光の中にも、よく見ると焼夷弾のような鋭く尖った光が混じって見えます。

正直、この映画はちょっと苦手なのですが、このポスターには凄味を感じました。無差別爆撃のすさまじい残虐さと、静かな蛍の光に包まれた兄妹間の愛情の鮮やかなコントラストはさすがです。

このポスターの話を久しぶりに思い出したのは、ある団体のウェブサイトで、無差別爆撃と現代の平和のコントラストが鮮やかなデザインを見たからです。画像は以下のリンクにあります。

全国空襲被害者連絡協議会Webサイトへようこそ ― 私たちは、「差別なき戦後補償」を求めて、立法化運動を進めて参ります。

この団体は、全国空襲被害者連絡協議会(略して、全国空襲連)と言って、戦時中の空襲被害者への補償を求めています。

国民が敵国の攻撃で被害を受けたとき、終戦後に国は補償する義務を負うのか?この問題は、70年以上前の戦争で被害を受けた人のためだけでなく、中国や北朝鮮のミサイルの脅威を抱えた全ての国民のためにも、極めて重要な問題です。

多くの先進国は、物的・人的損害を補償する法律を作って、実際に補償しています。各国の立法例と日本の比較は、国立国会図書館の以下の資料でまとめられています。

(宍戸伴久「戦後処理の残された課題 ―日本と欧米における一般市民の戦争被害の補償―」『レファレンス』平成20年12月号)

http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200812_695/069506.pdf#search=%27%E6%88%A6%E4%BA%89%E8%A2%AB%E5%AE%B3%E8%A3%9C%E5%84%9F%E5%88%B6%E5%BA%A6+%E6%B5%B7%E5%A4%96%27

上の資料によると、欧米諸国の戦争犠牲者補償制度には、「国民平等主義」と「内外人平等主義」の二つがどの制度にも共通しているそうです。

・国民平等主義:一般市民の戦争被害に対する補償は、軍人・軍属と民間人を区別することなく、平等な補償と待遇を与える(ただし、その法的根拠、補償の手続等は違うことあり)

・内外人平等主義:自国民と外国人を区別することなく、すべての戦争犠牲者に平等な補償と待遇を与える

各国とも、軍人も民間人も、それどころか自国民と外国人さえ区別せず、出来るだけ平等に補償するのが「原則」だ、ということが分かります。

各国の制度の歴史もなかなか興味深く、ドイツはなんと普仏戦争(1870-1871)のときから一般国民向けの戦争犠牲者補償制度があり、第二次世界大戦時でさえ一応機能していたようです。もちろん現在は、戦後に出来た新たな制度によっています。他に、英米仏にもみんな補償制度があり、どの制度でも、人的・物的損害の補償のほか、年金支給制度もあるようです。

これに対し、我が国では、戦争被害の補償は軍人・軍属や 国・軍の役務遂行者に限定されるそうです。 空襲被害など一般市民の戦争被害に対する補償は、原爆被爆者の補償や外地からの引揚げに関 連する救済を除き、行われてこなかったといいます。

ということで、欧米では国民向けに、軍人等と平等の年金付きの戦争犠牲者補償制度があるのに、日本では、国や軍の役務遂行、原爆、引き揚げを除き、一般国民には、戦争の被害については一切何の補償もなし、ということです。

第二次大戦時の補償はもちろん、今後、中国や北朝鮮がミサイルを日本に発射したり、こうした国による戦時工作員のテロ等があっても、何の補償も法的には必要ないことになります。

橋下徹氏は、以前からこれはおかしいと批判されてきました。最近は、AbemaTVで、木村草太氏との対談で、やはり同趣旨のことを主張されています。世界の先進国はちゃんと補償制度があるのに、戦争被害については、国民みんなで我慢しましょうみたいなことになっている日本が異常だ、と痛烈に批判しています。(筆者注:空襲被害補償を求めた訴訟で裁判所は「戦争被害受忍論」を理由に訴えを退けました)

abema.tv

空襲被害者への補償を求める団体、全国空襲連の話に戻ります。年明けに、以下の記事で最近の動きが紹介されました。

自民党河村建夫議員を会長とする超党派の議連(前の会長は故鳩山邦夫議員)が出来て、一律50万円という全く不十分な内容ながら一応法案はできたのに、国会に提出さえされていない、それどころか、提出される雰囲気さえないようです。

gendai.ismedia.jp

空襲被害者の方々は戦後ずっと補償を求める活動をされてきて、1973年、社会党など野党によって「戦時災害援護法案」が国会に提出され、以後14回提出され、88年まで18会期にわたって審議されたけれども成立しなかったそうです。そのうえ、2011年に議連が出来て法案が出来た後もほぼやる気なし。国会議員の怠慢です。上に引用した解説記事を書いた栗原俊雄氏(毎日新聞)は、国は当事者がみんな亡くなるのを待っているのでは、と疑念を示しています。

冗談ではありません。戦争被害の補償の問題は、第二次大戦の空襲被害者だけに限った話ではありません。政府はJアラートの精度を上げたりミサイル飛来時の行動について広報したりすると同時に、国民向けの戦争被害補償法を制定すべきです。

また、日本維新の会あたりは、全国空襲連の話を聞いて、通らないまでも法案を作って提出くらいしたらどうですか。議連の尻を叩くことにはなるでしょう。選挙の年だし、通常国会で早くからアピールしたらいいじゃないですか。何より、党の理念から言って、補償についてこれほどの「官民格差」があって良いはずがありません。身を切る改革、公務員改革の理念を、戦争被害の補償についても言うならば、軍人墓地の整備よりも、民間人への補償の方が優先順位が高いはずです。

あと、菅官房長官と携帯電話で話せるのが自慢の下地政調会長は、党内の三下議員いじめてる暇があったら、この問題で政府・自民を引きずり回すくらいの腕力を見せてくれませんか。沖縄戦の被害者だって、補償されていないんですよ。何のために去年、ボロ負けしてまで知事選で恩を売ったんですか。沖縄選出の大臣経験者の矜持を是非見せて下さい。本当は、真っ先に橋下さんをお呼びして、この問題含めて、色々教えを乞うていただきたいところです。来ていただけるかどうかは分かりませんが。

 維新に限りません。どの与党もどの野党も、この問題の優先順位を上げて、戦争被害者補償制度の実現に向けて努力すべきです。なぜか。これは憲法9条改正も含めて、日本の安全保障全体の問題だからです。単なる人道問題、人権問題ではありません。

現代の国際政治は、当否はともかく、大量破壊兵器による恫喝のバランスの上に成り立っています。人権も国際法も無視の国から、自国の主権を守り、自国民の権利を守るためには、こうした恫喝に対して、国民が毅然と合理的に対峙する必要があります。そのための前提条件となるのが、万が一国民に被害が生じたときに、政府がどの国民にも平等に補償することです。欧米並みの戦争被害者補償制度の制定は、国民の人権保障の観点からも、国の主権を守る安全保障の観点からも、日本に絶対に必要なことだと考えます。